(※2024年6月7日:一部の記述を修正し、判定を変更しました。詳細はこちら)
検証対象
どうして民主党政権の期間には、北朝鮮はミサイルを撃たなかったの?
一般ユーザーのX投稿(2024年5月29日、約1600リポスト)
判定
2009年9月~2012年12月の民主党政権の期間に、北朝鮮は日本政府が「ミサイル」と見なすテポドン2号を2回発射している。
ファクトチェック
日本海に向けたびたびミサイルを発射し瀬戸際外交を行う北朝鮮に関し、「どうして民主党政権の期間には、北朝鮮はミサイルを撃たなかったの?」と疑問を呈する投稿が拡散された。かつての民主党政権時代にミサイルが発射されたことは無いという認識を前提とした投稿だ。
同様に、民主党政権期にミサイルが発射されていないという主張は過去にも2022年12月、2023年4月などに拡散されていて、それぞれ約1300リポスト、約3100リポストを獲得している。
テポドン2など発射あり
しかし、実際には民主党政権時代にも北朝鮮が「ミサイル」を発射したとして日本政府が非難した事例が複数回ある。
北朝鮮がこれまで行ったミサイル発射実験や核実験については、アメリカのシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)がまとめてデータベース化している(ミサイルサブシステムの部分的発射実験などは含まれていない)。上述の過去の拡散例に使われたグラフも、このCSISのデータを基に日本経済新聞が2017年12月の解説記事に掲載したものだ(使用データは当時のもので、現在のデータとは細部に違いもある)。
民主党政権は鳩山由紀夫・菅直人・野田佳彦の3首相にわたり、2009年9月16日から2012年12月26日まで続いた。CSISのデータベースには、この間に以下の4回、計9発が発射事例が登録されている。ただし、後述するように、CSISはテポドン2号(銀河3号)を「ミサイル」とは分類していない。
- 2009年10月12日 KN-02 5発
- 2012年1月11日 KN-02 2発
- 2012年4月 テポドン2号(銀河3号) 1発
- 2012年12月12日 テポドン2号(銀河3号) 1発
この中には日本政府として発射を確認していないものもあり、防衛省の資料ではミサイル発射事案として掲載されているのは2012年4月と12月の2回のみである。したがって、日本政府の立場からすると、民主党政権期のミサイル発射は2回ということになる。
発射事例の詳細
それぞれの発射事例を詳しく見てみよう。
2009年10月12日、韓国の聯合ニュースは政府消息筋の話として、北朝鮮が同日に短距離弾道ミサイル(SRBM)KN-02計5発を発射したと伝えた(参照1、2)。KN-02の射程は約120kmのため、北朝鮮沿岸に落下したと思われるが、これに対し日本政府が特に対応した形跡は見当たらない(参照)。
2012年1月11日の発射は、13日に消息筋の話として報じられた(参照1、2)。KN-02、あるいは地対空ミサイルのKN-06が3発発射されたとされ、2発とするCSISデータとは若干のずれがある。当時の一川保夫防衛大臣は、報道の存在は承知しているとしつつも、発射の事実があったかは明言を避けるコメントをしている(p.6)。
残る2回の発射では、事前の発射予告を受け、日本政府も随時危機管理対応や国民への情報発信を行っている。2012年4月13日の発射は、北朝鮮側は「銀河3号」と呼称し衛星を搭載したロケットだとしていたが、日本は長距離弾道ミサイルのテポドン2号またはその派生型と見なし、事実上のミサイル発射実験として扱っている。発射は失敗し、破片は黄海上に落下した(参照)。「銀河3号」は2012年12月12日にも再び発射され、沖縄上空を通過した(参照)。
藤村修内閣官房長官(当時)は、これら2つの事例に対し、日本政府として北朝鮮に対し厳重な抗議と遺憾の意を表明する声明を発表している(参照1、2)。
この他にも、2011年6月頃や、同12月17日・19日にも北朝鮮がミサイルを発射したとする一部報道があるが、共に日本政府としての対応は特に無く、官房長官も発射の有無について明言していない(6月8日会見1:40~、12月19日会見13:41~)。また、これらはCSISデータにも掲載されていない。
「撃たなかった」はミスリード
テポドン2号を「ミサイル」と分類することには、専門家から異論もある(参照)。CSISも、KN-02(短距離弾道ミサイル(SRBM))やテポドン1号(中距離弾道ミサイル(IRBM))とは違い、テポドン2号は「ミサイル」という言葉を使わない「衛星打ち上げ機(SLV)」として分類している。
これに従ってテポドン2号を「ミサイル」に含まず、さらに日本政府として認識していない事例を全て除外すれば、「民主党政権の期間には、北朝鮮はミサイルを撃たなかった」とする検証対象の投稿に誤りは無いとも言える。しかしながら、こうした諸々の前提は説明されておらず、国際社会から批判を浴びる北朝鮮の一連の発射事例があたかもこの時期だけ無かったかのような誤解が生じているため、「ミスリード」と判定する。
(大谷友也)