検証対象
ネタニヤフ首相がガザ地区にイスラエルの入植 地が建設されることを確認しました。 計19兆シェケル (50億ドル) が計画の立ち上げ に投資されます。 これは決してハマスに関することではありませ んでした。 常に土地を掌握することが目的でした。 #ガザ翻訳
一般ユーザーのX投稿(2024年4月18日、約1100リポスト)
(※海外ユーザーの投稿動画を引用、原文ママ)
判定
ネタニヤフ首相が表明したのは、ガザへの入植地建設ではなく、イスラエル領内での投資計画である。
ファクトチェック
当該投稿には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の会見動画が添付されている。動画にはヘブライ語で話すネタニヤフ氏の映像に、「the Cabinet will approve a plan to rebuilt the settlements of the Gaza Strip(内閣は、ガザ地区の入植地を再建する計画を承認するつもりである)」といった英語の字幕が付けられている。
ガザでは2005年にイスラエル人の入植地が撤去されたが、2023年のハマスによる攻撃以降、極右勢力を中心に再入植を求める意見が強まっている(参照)。
動画で述べられているのは「ガザ周辺地域」
この会見は、ネタニヤフ氏が2024年4月17日にドイツ・イギリスの各外相と会談を行った後のものである。翌日のロイター通信の報道によれば、13日(現地時間)のイランによるイスラエルへの攻撃を受けドイツとイギリスの外相がイスラエルに自制を求めたのに対し、ネタニヤフ氏は会見で「我々は独自の決断を下し、イスラエルは自衛に必要なことは何でもする」と述べたという。
この動画のオリジナルはイスラエル首相官邸のYouTube公式アカウントが17日に公開していて、検証対象の動画のような英語字幕は存在していないが、概要欄でネタニヤフ氏の発言内容が次のようにヘブライ語で説明されている。
ראש הממשלה בנימין נתניהו בפתח ישיבת הממשלה:
״אני בא עכשיו מפגישות עם שרי החוץ של בריטניה וגרמניה. אמש שוחחתי עם ראש ממשלת בריטניה רישי סונאק, ובקרוב אני גם אשוחח עם מנהיגים נוספים.
אני מודה לידידינו על תמיכתם בהגנת ישראל ואני אומר את זה, גם תמיכה במילים וגם תמיכה במעשים. יש להם גם כל מיני הצעות ועצות, אני מעריך את זה, אבל אני רוצה להבהיר – את ההחלטות שלנו אנחנו נקבל בעצמנו, ומדינת ישראל תעשה כל מה שצריך כדי להגן על עצמה.
הממשלה תאשר היום את “תכנית תקומה” לשיקום יישובי עוטף עזה. אנחנו נשקיע סכום גדול מאוד של 19 מיליארד ש”ח כדי להזניק את יישובי עוטף עזה לדורות. אנחנו נשקיע בדיור, בתשתיות, בחינוך, בתעסוקה, ברפואה ועוד.
מחבלי החמאס ביקשו לעקור אותנו – אנחנו נעקור אותם ונעמיק שורש. נבנה את ארץ ישראל ונשמור על המדינה שלנו״.(※Google翻訳を基に筆者訳:ベンヤミン・ネタニヤフ首相は閣議の冒頭でこう語った。
イスラエル首相官邸のYouTube公式アカウントよる投稿動画「דברי ראש הממשלה בנימין נתניהו בפתח ישיבת הממשלה – 17/04/2024」 概要欄より抜粋
「私は今、イギリスとドイツの外相との会談から帰ってきました。昨夜、私はイギリスのリシ・スナク首相と会談しましたが、近々他の指導者とも話す予定です。
私はイスラエル防衛に対する友人たちの支援に感謝し、言葉と行動の両方での支援に感謝します。彼らはまた、あらゆる種類の提案や助言をされ、それは感謝していますが、はっきりさせておきたいのは、私たちは自分たちで決定を下し、イスラエル国家は自国を守るために必要なあらゆることを行うということです。
本日、政府はガザ周辺の入植地再建のための『テクマ計画』を承認しました。私たちはガザ周辺での入植を何世代にもわたって前進させるために、190億NIS(※訳注:新イスラエルシェケル)という非常に多額の資金を投資します。私たちは、住宅、インフラ、教育、雇用、医療などに投資します。
ハマスのテロリストたちは私たちを根絶やしにしようとしていました。私たちは彼らを根絶やしにし、根を張ります。私たちはイスラエルの地を築き、私たちの国を守ります。」 )
つまり、ここで述べられている入植計画は「ガザ地区(Gaza Strip、רצועת עזה)」ではなく、「ガザ周辺地域(Gaza Envelope、עוטף עזה)」についてのものである。検証対象の動画の英語字幕ではこの部分が誤って訳され、あたかもネタニヤフ氏がガザ地区内部への入植を表明したかのようになっている。
また、検証対象の投稿では計画のために投資される金額が「計19兆シェケル (50億ドル) 」と書かれているが、これは英語字幕の「19 billion shekels」を日本語に訳した際の誤りで、正しくは「190億シェケル」である(ドル換算で約50億というのは正しい)。
投稿者はその後、「動画の字幕が正確ではなかったようです。ネタニヤフ首相が言及したのは、ガザ地区ではなく、ガザ周辺の町々でした。」などと訂正する投稿を行っている。
地域の「開発」と「復旧」の計画
17日に発表されたイスラエル政府のヘブライ語版のプレスリリースでも、ネタニヤフ氏の発言内容が同様に記録されている。
ネタニヤフ氏の会見動画においては、「ガザ周辺地域」の具体的な地名については述べられていない。しかし同日に発表された英語版プレスリリースでは、「西ネゲブ」という地名が明記されている。西ネゲブ(Western Negev、נגב מערבי)はイスラエル中部の地域で、西側はガザ地区に隣接する(参照)。
Today, the Government has approved the Tekuma Plan to rebuild the communities in the Western Negev. We will invest the very large sum of NIS 19 billion in order to move the communities of the Western Negev forward for generations. We will invest in housing, infrastructure, education, employment, health and more.
(筆者訳:本日、政府は西ネゲブのコミュニティを再建するためのテクマ計画を承認した。私たちは西ネゲブのコミュニティを何世代にもわたって前進させるため、190億NISという非常に多額の資金を、住宅、インフラ、教育、雇用、健康などに投資する。)
イスラエル政府公式サイト「Prime Minister’s Office – Tekuma Authority Joint Announcement」より抜粋
イスラエルの英語紙「The Times of Israel」によれば、5年間で割り当てられる190億シェケルのうち4分の1は地域の開発に充てられ、残りの資金は2023年10月のハマスによる攻撃による被害の復旧に充てられる計画となっている。計画は今年後半に決定する予定で、正確な詳細はまだ決まっていないという。
ガザ入植「あり得ない」と発言
また、CNNによると、5月21日にネタニヤフ氏は、戦闘終結後のガザ地区の未来について「非常に明確な計画」を持っていると述べつつも、ガザへの再入植については「あり得ない」と述べている。
以上の通り、動画においてネタニヤフ氏がガザ内部に入植地を作ると発言した事実はなく、検証対象の投稿は「誤り」である。
同じ動画については、AP通信や、フランスの放送局France 24もファクトチェックを行っている。AP通信の取材に対し、イスラエルの首相報道官は「首相はイスラエル本土の西ネゲブについて話していた」「ガザ地区についての話ではない」と述べている。
(景山千愛、大谷友也)