検証対象

※ぼかし加工は筆者による

ガザ地区のパレスチナ人女性がイスラエル占領軍によるガザ白リン爆撃で負傷、イスラエルは国際的に禁止されている白リンの在庫をすべてアメリカ合衆国から入手した
(※海外ユーザーの投稿動画を引用)

一般ユーザーのX投稿(2024年2月21日、約1500リポスト)

判定

誤り

判定の基準について

この女性はモロッコ出身の遺伝性の皮膚疾患患者である。

ファクトチェック

検証対象の動画には、顔の皮膚や目などに火傷のような変色や変形の症状が見られる、ヒジャブ姿の女性が映っている。また、字幕としてパレスチナの旗の絵文字や、「わたしたちには、アッラーがいれば万全である。かれは最も優れた管理者であられる(حسبنا الله ونعم الوكيل:三田了一訳)」というコーランの一節の引用も見える。投稿者は、この女性がイスラエル軍の白リン弾によって負傷したガザ地区のパレスチナ人であると主張している。

白リン弾はその焼夷力や特性のため人権団体などが使用禁止を呼び掛けているが、発煙弾などとしても用いられることから、特定通常兵器使用禁止条約条文)の議定書Ⅲが制限の対象とする焼夷兵器とはみなされていない。また、この議定書にイスラエルは署名していない

イスラエルはガザで2008年に白リン弾を使用したことを認めている。また、イスラエルはガザとレバノンで2023年にも白リン弾を使用したと指摘され、うちレバノンではアメリカ軍がこれを提供したとも報じられている

本稿ではイスラエル軍が今回のガザで白リン弾を使用した事実があるかや、それがアメリカから入手したものなのかについては議論せず、検証対象として挙げた動画とガザや白リン弾との関係の有無についてのみ論じる。

モロッコ出身の皮膚疾患の患者

この動画は実際には白リン弾とは関係が無く、映っているのは色素性乾皮症(XP)という病気の患者だ。XPは紫外線への過敏な反応を引き起こす遺伝性の難病で、皮膚や目などの激しい炎症や、神経障害といった症状が現れる。

動画は元々は2024年2月5日、モロッコの色素性乾皮症(XP)患者支援団体「Moon Voice」のInstagramアカウントから投稿されていて、左上に見える黒い円形のロゴマークはこの団体のものである。一方で、パレスチナの旗や字幕の部分は元動画には無い。

同じ女性が映る別の動画の説明によると、女性はモロッコ北東部・フェズ出身だという。Moon VoiceのInstagramには他にもXPを患う多くの子供の写真や動画が掲載されているが、「その子のありのままの姿や、その目にどれだけの苦しみが宿っているのかを見てほしい」という撮影者のコメントの通り、子供たちの顔や目は隠されていない。(本稿は検証のみを目的とするため画像にぼかしを入れたが、各リンクからぼかしの無い元画像・動画を見ることができる。)

以上のように、女性は白リン弾の爆撃で負傷したのでなく、またパレスチナ人でもないことから、検証対象の投稿は「誤り」である。

この動画をイスラエル軍による白リン弾の影響とする誤った主張は海外でも拡散されていて、Full FactMisbarTahaqaqが同様の検証を行っている。

別の患者動画も

今回の検証対象と同じXアカウントは、2023年12月にも別のXP患者の少年の動画を引用し「これはガザの子供たちに対する白リン弾の影響である」と投稿していて、投稿は約1200リポストされている。元動画はMoon Voiceが同月に投稿したものだが、X投稿の動画では画面が部分的に切り取られ少年が笑顔を見せていることが分かりづらくなっているうえ、「この子供への白リン弾の影響を見てください(look at the effects of white phosphorus bombs on this child)」という誤った内容の英語字幕も追加されている。

※ぼかし加工は筆者による

また、さらに別のXP患者の動画もガザ爆撃で傷付いた子供として拡散されていて、Fatabyyanoがファクトチェックしている。

(大谷友也)

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