拡散された情報

2023年10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を開始。これに端を発した武力衝突により、イスラエル・パレスチナの双方に多数の死者が出ている(参照)。

一方で、ネット上ではこの衝突に絡み、事実と異なる情報や、誤解を招くミスリーディングな情報が多数発生した(参照1234)。日本で特に拡散された20件をピックアップし紹介する。

※2023年11月30日追記:Vol.2を作成しました。

ガザ空爆の動画?①

今回のハマスの攻撃を受けイスラエル軍がガザへの空爆を行っているのは事実だが、この動画は同じくガザへの空爆が行われた2023年5月の時のものである。

ガザ空爆の動画?②

これも同じく2023年5月の動画だ。

イスラエル軍少将が捕虜に?

捕虜となった左の画像の人物は民間人で、右の少将とは別人。イスラエル軍はその後この少将とされる写真や動画を公開している。

戦闘機を運ぶイスラエル軍?

この動画は少なくとも2023年9月には投稿されていることが確認できる。場所もイスラエル南東部のガザからは離れた地域だ。

イスラエル人の家に押し入るハマス?

服装などから、映っているのはハマスではなくイスラエル警察と判別できる。イスラエルの治安部隊が建物の中にいるハマス戦闘員と交戦しているところであるようだ。

撃墜されるイスラエルのヘリ?

ミリタリーゲーム「Arma 3」の映像で、現実ではない。「Arma 3」の映像は非常に精巧なため、過去にもたびたび現実の映像と誤認され拡散されてきた。開発元のBohemia Interactiveはこのような状況に注意喚起し、「画質がわざと落とされている」「人間や煙などの描写が不自然」といった判別のポイントを紹介している。

真っ赤になったイスラエル?

イスラエルの光景としても、イスラエルによるガザへの空爆としても拡散されている動画。実際は同じ動画が今回の衝突以前に投稿されていることが確認でき(撮影日は不明)、場所もアルジェリアのアルジェと特定されている。爆撃ではなく花火と考えられる。

パラシュート降下するハマス?①

エジプト・カイロの士官学校付近で今回の衝突以前に撮られた動画で、卒業式のイベントに合わせた訓練と思われる。

パラシュート降下するハマス?②

これもカイロで撮影された古い動画である。

ハマスに檻に入れられた子供?

衝突の数日前には投稿されている動画で、ハマスによる誘拐行為とは無関係の可能性が高い。投稿者は子供は自分の親族だと説明している。

少女を誘拐するハマス?

これも過去(2023年9月)の動画。動画に重ねられたキャプションにはアラビア語で「迷子の少女」と書かれていて、男性は少女に「両親はどこ?」などと声を掛けている。投稿者の説明によれば、撮影場所はヨルダン川西岸地区のヘブロンだという。

ハマス指導者シンワル氏が死亡?

10月9日、テレビ朝日は「【速報】ハマスの指導者シンワル氏が死亡と報道 イスラエルメディア」と題する記事を公開(アーカイブ)。ハマスのガザ地区の政治部門トップとされるヤヒヤ・シンワル氏について、「死亡したとイスラエル軍の報道官が発表したとイスラエルメディアが報道しました」と伝えた。

直前に公開されたイスラエルのオンラインメディアThe Times of Israelの記事によれば、イスラエル軍の広報担当者がシンワル氏について「死人である」と述べたとされているが、これは比喩的な表現で実際に死亡したというわけではないようだ。その後、複数のメディアがシンワル氏がイスラエル軍によって殺害対象という意味で「dead man walking(歩く屍)」と呼ばれていることを報じている(参照12)。

フェイク動画の撮影現場?

何者かが偽の被害を演出しているかのように拡散された動画だが、実際はイスラエル警察によるパレスチナ人の少年の不当逮捕を訴えたショートフィルムの撮影の様子である。

ウクライナが武器をハマスに売却?

イギリスの公共放送BBCのニュースを装い、ハマスの武器の大半がウクライナが売却したものだったと調査報道団体Bellingcatの分析で明らかになったと主張するこの動画は、実際はBBCともBellingcatとも無関係な偽動画。

頭部切断された乳幼児?

あくまで未確認情報である。

ガザとの境界に近いイスラエルのクファル・アザで乳幼児が頭部を切断され殺されたという情報は、イスラエル軍や首相府の報道官による話としてInsider(アーカイブ)やCNN(アーカイブ)などが報じ、アメリカのジョー・バイデン大統領も「写真を確認した」と述べていた。ネット上では「40人の乳児が殺害された」という情報と結び付き「40人の乳児が斬首された」としても拡散されている。

しかし、その後イスラエル当局者は頭部を切断された子供がいるかどうかについて「確認できていない」と説明。情報は未確認のままとなっている。ホワイトハウスも、バイデン氏は実際は写真を見ていないと訂正している。

涙を流していた救急隊員も神様のもとへ?

駐日パレスチナ常駐総代表部のX公式アカウントが一般ユーザーの投稿を引用した投稿(アーカイブ)で、救急車の中で涙を流す赤新月社の救急隊員の動画に、「神様のもとへ帰っていきました」と彼の死亡を示唆するコメントが付けられている。

10月11日、ガザでの空爆により赤新月社のパレスチナ人救急隊員4人が死亡したと報じられた。しかし、涙を流す動画の隊員はその時の現場にいたものの、無事だったと確認されている。

赤ちゃんの遺体はAI生成画像?

10月12日、イスラエル首相公式Xアカウントは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官に示した写真として、ハマスによって殺害されたとする複数の赤ん坊の遺体の画像を投稿した。そのうちの1枚、焼け焦げた遺体の画像について、「AI検出ツール『AI or Not』によってAI生成画像と判定された」とする投稿が拡散。アルジャジーラなどのメディアもこのAI生成説を報じた。さらに、元画像だとする犬の画像(上図)も拡散されている。

しかし、AI or Notの開発企業はツールの誤判定の可能性を指摘しており、複数の専門家も画像はAI生成ではない可能性が高いとしている。逆に、犬の画像の方には細部の不自然さなどAIで生成された痕跡が見られる。

ただし、この画像がAI生成でないとしても、これが本物の遺体なのか、遺体だとしていつどのような状況で亡くなったのかなどの情報は明かされておらず、本当にハマスにより殺害された赤ん坊なのかは確かめられていない。

サイレンに逃げる遺体?

布でくるまれた遺体のような物を運んでいた人たちがサイレンの音に驚きそれを置いて逃げると、くるまれた中から人が現れ走り去るという動画。「プロパガンダが空襲警報に邪魔された瞬間」として、空爆の被害が偽装されている証拠かのように拡散された。実際は2020年3月にヨルダンで撮られた動画で、新型コロナウイルス対策による外出規制を逃れるために行われた偽の葬儀である。

イスラエルがガザに核爆撃?

これは2020年、レバノン・ベイルートで起きた爆発事故の動画である。

イスラエルのレーザー兵器「アイアンビーム」?

これも上述のミリタリーゲーム「Arma 3」の映像で、防空システム「アイアンドーム」による通常のミサイルによる迎撃をシミュレーションしたもの。アイアンビームはまだ実用化されていない。

(大谷友也)

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