検証対象
【悲報】元男性の女子水泳選手さん、大会で優勝したので男性に戻りたい宣言を繰り出してしまうｗｗｗｗ
まとめサイト「ユルクヤル、外国人から見た世界」の記事タイトル（2023年4月25日）
判定
これはジョークサイトの記事を基にした情報で、事実ではない。
ファクトチェック
アメリカ・女子水泳のリア・トーマス選手は、男性として生まれかつては男子選手として活動していたが、その後ホルモン治療を経て女子競技への参加を認められたトランスジェンダー選手だ。女子選手として大会で多くの好成績を残すトーマス選手に対しては否定的な意見も多く、スポーツ界だけでなく政界も巻き込んだ議論になっている（参考：AFP通信、THE DIGEST）。
まとめサイト「ユルクヤル、外国人から見た世界」（以下「ユルクヤル」）による4月25日の記事（アーカイブ）では、トーマス選手が大会での優勝や男性との交際を経験したことで満足し「いま男性に戻ることを願っている」とする海外のニュースサイト記事を日本語訳で紹介。海外ネットユーザーによる批判的な反応（出典不明）などと共にまとめている。
まとめサイト「VIPPERな俺」の26日の記事（アーカイブ）でも、「ユルクヤル」の訳を基にした匿名掲示板「おーぷん2ちゃんねる」のスレッドをまとめ、批判的なコメントを中心に引用している。
「ユルクヤル」や「VIPPERな俺」の記事はTwitterでも多くのユーザーに拡散され、それぞれ数千RTを獲得したツイートもある。
記事は既に訂正
「ユルクヤル」や「VIPPERな俺」が情報元としているのは、インドのスポーツニュースサイト「sportskeeda」による4月24日（日本時間25日）の記事（アーカイブ）だ。そこにはトーマス選手が「ALLOD Sports」というメディアに語ったこととして、次のような言葉が紹介されている。
I’ve accomplished my goals. I think I did all I set out to do. I won first place in the 500 and I dated a man as a woman. I think I’ve reached the end of this journey.
（筆者訳：私は自分の目標を達成した。やろうと思っていたことは全部やったと思う。500ヤードで1位になったし、女性として男性とデートもした。私はこの旅の終点にたどり着いたと思う。）
さらに、トーマス選手が女性選手のタイトルを阻んだことに罪悪感を感じているとも書かれている。
しかし、「sportskeeda」の記事は現在は削除されており、URLはリダイレクトされて別の記事にジャンプするようになっている。25日付のこの新たな記事は「ファクトチェック：リア・トーマスは男性に戻りたがっているのか？拡散された記事は誤りと判明（Fact Check: Does Lia Thomas want to transition back to male? Viral article debunked）」というタイトルで、実質的な訂正記事である。
それによれば、この話の情報元は「Worthy To Share」という運営元不明のサイトの24日の記事（アーカイブ）だが、他の主要メディアはトーマス選手の発言について全く報じておらず、またそもそも「ALLOD Sports」というメディアの実在も確認できなかったという。
「sportskeeda」の訂正を受け、「ユルクヤル」は4月26日に「事実関係が確認でき次第、こちらの記事も修正or削除対応取ります」といった文言を追記（アーカイブ）。しかし、本稿執筆現在では記事本文の修正や削除は行われていない。
元はジョーク記事
「ALLOD Sports」の詳細については「sportskeeda」にも「Worthy To Share」にも書かれていないが、これと頭文字が一致する「America’s Last Line Of Defense」というネットワークに属する、「PATRIOT PARTY PRESS」というサイトが4月14日（日本時間15日）に同内容の記事を公開していることが確認できる（アーカイブ）。
「PATRIOT PARTY PRESS」の概要ページ（アーカイブ）には、「このウェブサイトの内容は全てフィクションである」と書かれていて、ジョークサイトであることが分かる。
さらに、「PATRIOT PARTY PRESS」の元の記事には、よく読むと不自然な点が多数あることが分かる。インタビューを行ったとされる「Skip Tetheludah」という特派員の名前は「Skip to the lou, darlin’」という童謡の歌詞（男女ペアで相手を変えながら踊る遊びで歌われる）をもじったものだし、トーマス選手を擁護する「Joe Barron」なる正体不明の人物は過去に「America’s Last Line Of Defense」系列サイトのジョーク記事に何度も登場している（参考：Snopes①、②、USA TODAY、Lead Stories）。
また、トーマス選手はホルモン治療をやめて「（股間に）詰め物をする人（sock-stuffer）」になるだろうだとか、共和党のミッチ・マコーネル議員が怒って意味不明な言葉を発したといったことも書かれている。これらの不自然な記述は、別のサイトへ伝えられていく内に徐々に失われ、ジョーク記事であることが分かりづらくなっている。
以上から、トーマス選手が「男性に戻りたい宣言」したとする「ユルクヤル」等の記事は「誤り」であると判定する。
なお、同様の検証はJ-CAST ニュースやロイター通信（英語）も行っている。
（大谷友也）
