検証対象
スウェーデン国内の路上に設置されている1台330万円以上のスピード監視カメラ(キャノン製使用)が8月から3ヶ月間で100台以上盗難されている事件で、ロシア軍がウクライナで使用する手製ドローンのカメラに転用されている事実が判明、スウェーデン公安警察が捜査するとの報道。
一般ユーザーのTwitter投稿(2022年10月21日、約5400RT)
判定
引用元の記事ではスピード監視装置に使われているのはドローンに搭載されているのと同種のキヤノンのカメラであるとしていたが、スウェーデン運輸局が否定している。公安警察は盗難事件をロシアのドローンと関連付けて捜査するかどうかコメントしていない。
ファクトチェック
検証対象のツイートは、2022年10月20日(日本時間)に公開されたスウェーデンの日刊紙Aftonbladetの記事を引用したもの。スウェーデンで8月から10月にかけて100台以上盗難されている自動速度違反取締装置のカメラが、ロシア軍がウクライナで使用している手製ドローンに「転用されている事実が判明、スウェーデン公安警察が捜査するとの報道」があるという内容だ。
記事には何が書かれていた?
引用されている記事は公開後、複数回内容が変更されているため、ツイートの十数分前に保存されたウェブページのアーカイブを確認した。
Fartkameror fortsätter att försvinna i Sverige, senast längs med E16 mellan Hofors och Falun.
Och stöldgodset är eftertraktat – bland annat har kameror av samma typ använts av ryssar i hemmabyggda drönare i kriget i Ukraina.
(中略)I skåpen sitter så kallade DSLR-kameror av märket Canon. Exakt likadana kameror har hittats i ryska hemmabyggda drönare.筆者訳:スウェーデンでスピード監視装置のカメラが姿を消し続けています。直近ではE16号線沿いのHoforsとFalunで起こっています。
Aftonbladetの記事のアーカイブ
そして盗まれた品物は需要があります。例えば同じタイプのカメラはウクライナでの戦争の最中にロシアの手製ドローンに使われたことがあります。
(中略)(監視カメラの)キャビネットには、キヤノンブランドのいわゆるデジタル一眼レフカメラがあります。全く同じカメラが、ロシアの手製ドローンで見つかっています。
このように、記事では見つかったドローンと盗まれたカメラの種類が同じという間接的な根拠しか示しておらず、実際に盗まれたカメラがドローンに使われたかどうかについてはタイトルの通り「現在、ウクライナでの戦争で使用された疑いがある(misstänks nu användas i kriget i Ukraina)」という表現にとどまっている。
また、公安警察のコメントでも、窃盗事件をロシアのドローンと関連付けて捜査するかどうかは明言されていない。
Den svenska säkerhetspolisen uppger att man har kännedom om uppgifterna som cirkulerar om kopplingen mellan stölderna längs med de svenska vägarna och de ryska hemmabyggda drönarna.
– Men vi har ingen möjlighet att gå närmare in på eller berätta om vårt underrättelsearbete, säger Fredrik Hultgren-Friberg, presstalesperson på Säpo.筆者訳:公安警察はスウェーデンの道路沿いでの窃盗とロシアの手製ドローンとの関係について情報が広まっていることを認識していると言います。
Aftonbladetの記事のアーカイブ
「しかし、我々は捜査についてそれ以上詳しく説明したり話したりする事はできません。」と公安警察の広報担当者フルトグレン・フリーベリは話します。
記事では公開当初は公安警察への取材内容を「スウェーデン公安警察はスウェーデンの道路沿いの盗難とロシアの手製ドローンとが関連していると認識している(Den svenska säkerhetspolisen uppger att man har kännedom om kopplingen mellan stölderna längs med de svenska vägarna och de ryska hemmabyggda drönarna.)」と記載していたが、その後上述の通り「情報が広まっていることを認識している」と変更している。
別のメーカーのカメラ
Aftonbladetの記事ではキヤノンのカメラがロシアの手製ドローンに使われているとする根拠の一つになっているのは、ウクライナ国防省のツイッターアカウントによって2022年4月に公開された、ロシア軍のドローン「オルラン10」を解体する動画である。動画では、ドローンからキヤノンの一眼レフカメラが取り外される様子が確認できる。
しかし、Källkritikbyrånのファクトチェック記事では、スウェーデン運輸局の広報担当者が取材に対し、スピード監視装置に使われているのはニコンのカメラであると答えている。
スウェーデン・ノルテリエ市の日刊紙NorrtaljeTidningも、運輸局の専門家の「ドローンにはキヤノンのカメラが搭載されており、私達のカメラはニコン製です」というコメントを掲載している。ニューヨーク・タイムズの記事では同じ専門家が、スピード監視装置に使われているニコンのカメラは50フィート(約15m)離れた車の運転手とナンバープレートを写すためにカスタマイズされていて他の距離への適用は難しいと指摘している。
Aftonbladetの記事以前の10月12日には、スウェーデンのブロガー兼作家のLars Wilderäng(ラルス・ヴィルデレン)氏が、経済制裁によるロシア国内のハイテク機器不足とスウェーデンで発生している窃盗事件の関連を疑う主旨のブログを公開していたが、このブログは運輸局のコメントを受けてカメラについての記述を後に訂正している。
カメラを盗んだ容疑者は10月21日に逮捕され、盗まれたカメラの一部が発見されている。検察官は、窃盗の動機は金銭であるとしている。Aftonbladetの記事については、前述のKällkritikbyrånや、オランダのファクトチェック機関Nieuwscheckersが、根拠が不十分とするファクトチェック記事を公開している。
以上のように、検証対象のツイートのスピード監視カメラがキヤノン製であるという記述は運輸局が否定しているほか、「公安警察が捜査する」かどうかは引用されている記事に記載されていない。動画とは別の未発見のドローンにスウェーデンで盗まれたカメラが使われている可能性までは完全には否定できないが、転用が「判明」したとは少なくとも言いがたいため、「誤り」と判定する。
(高倉佳子、大谷友也)