検証対象

NEWSこそフィクションでした。(冗談抜きで) ウクライナ支援してる公人見掛けると 「お?向こう側かな」と様子を見とります。 ウクライナに募金しちゃダメよー(冗談抜きで)

(※動画付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年3月20日、約1900RT)

判定

ミスリード

判定の基準について

この動画は2017年、パレスチナのガザ地区で撮影されたもの。映画用の特殊メイクに携わるチームが医療NGOのトリアージ訓練に協力している様子であり、ウクライナとは関係が無い。

ファクトチェック

動画の内容

添付された動画は約30秒で、血のりを使って怪我のような特殊メイクをする人々や、重傷を模して横たわる人形などが映し出されている。

ツイートではこの動画の詳細は説明されていないが、ウクライナへの支援に反対するような呼びかけをしていることから、現在報道されているロシア軍のウクライナ侵攻による被害は偽装されたものだという主張のようだ。

ウクライナとは無関係

しかし、これはウクライナ侵攻とは全く関係の無いニュース動画から一部を抜き出したものである。

元の動画は、パレスチナのニュースサイト「ガザポスト」(HPは既に閉鎖)が2017年2月に配信したもの。ツイートではこのうち冒頭と後半の一部ずつが、音声を消したうえで使われている。

動画のタイトルや説明文にはアラビア語で「映画の魔法がガザを別の世界に変える」と書かれており、撮影場所がパレスチナ・ガザ地区であることが分かる。

医療訓練への協力の様子

動画のうちツイートで使われていない部分では、2人の人物へのインタビューが行われている。彼らはそれぞれ字幕で「映画メイクアップチームディレクター、アブドゥルバセール・アル・ルールー」氏と「映画メイクアップチームのメンバー、マリアム・サラー」氏と紹介されており、途中「Special Effect Make-up(特殊効果メイクアップ)」と書かれたロゴが大写しになる所から考えても、特殊メイクを施す行為は特に秘密裏に行われているわけではないようだ。

「ガザポスト」の動画より、特殊メイクチームのロゴが映る場面

この特殊メイクチームの活動は2017年3月のトルコ国営放送(TRT)による英語の動画でも紹介されており、同じ2人がインタビューに答えている。それによれば、チームはこの時、ガザで行われた国際NGO「世界の医療団」のプロジェクトに参加していたのだという。

この動画では女性の少ない業界で働くサラー氏の活躍に焦点が当てられているため、プロジェクト自体についてはあまり説明されていない。しかし、ロイター通信AFP通信は「世界の医療団」やサラー氏本人へ直接取材し、その内容について確認している。

それによると、ここで行われていたのは緊急時に治療の優先度を振り分けるトリアージの訓練だ。「世界の医療団」は、訓練にリアリティを与えるため、2016年からサラー氏らの特殊メイクチームと契約。この時は、ガザの複数の場所で同日に交通事故が発生し100人以上の怪我人が出た実際の状況を再現したのだという。

TRTはこの活動について、ガザの住民が置かれた状況への関心を集める目的もあると説明している。いずれにせよ目下のウクライナ侵攻とは何ら関係無く、また戦争被害の偽装のために特殊メイクを使っているわけでもない。

TRTの動画より、訓練中の様子。手前のスタッフの背中には「世界の医療団」のロゴが見え、右奥には「Simulation(シミュレーション)」という表示が掲げられている。

過去にも海外で拡散

今回と同じように「ガザポスト」から切り取られた動画は、海外では2018年や2021年にも別の文脈で拡散されていた。上述のロイター通信AFP通信のファクトチェック記事はその時のもので、他にも当時SnopesFrance24Alt Newsなどが同様の検証を行っている。

2018年には、シリアの国営テレビがこの動画を使い、国内の反体制派が被害を偽装していると主張。チームディレクターのルールー氏が、自身の仕事が無関係な目的に利用されたとして、Facebookメディア出演などで抗議している(参照)。

(大谷友也)

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