検証対象
ハリウッドセレブが続々ウクライナ支援 ディカプリオは12億円寄付
東スポWeb記事タイトル(2022年3月9日)
判定
ディカプリオ氏の関係者や、寄付を受けたとされる団体は「1000万ドル(約12億円)」の寄付を否定している。ディカプリオ氏はこれとは別に人道支援団体への寄付を行っているが、金額は非公表である。
ファクトチェック
この記事は夕刊紙「東京スポーツ」のWeb版「東スポWeb」に掲載され、本文には以下のように書かれている(抜粋)。
ロシア軍の侵攻を受けるウクライナに対し、米俳優レオナルド・ディカプリオ(47)が1000万ドル(約11億5000万円)を寄付したことが分かった。英紙インディペンデントなどが報じた。
同紙によると、ディカプリオの母方の祖母ヘレン・インデンビルケンさんはウクライナ南西部オデッサ出身で、ロシア革命が起きた1917年、まだ幼い時に両親と共にドイツに移民した。ディカプリオは幼少時からヘレンさんに近く、俳優になることも常に応援してもらったという。
ヘレンさんは2008年に93歳で亡くなったが、晩年はディカプリオがヘレンさん同伴でプレミア上映会に仲良く出席する姿が見られたと同紙は伝えている。
今回の寄付は、チェコやハンガリー、ポーランド、スロバキアが共同管理するドナー組織「国際ヴィシェグラード基金」が発表したもの。
しかし、これらの情報はほとんどが事実に反するとCNNの記事が明らかにしている。
双方が否定
まず「1000万ドルの寄付」について、CNNはディカプリオ氏の関係者と、寄付を受けたとされる「国際ヴィシェグラード基金」に取材。両者はともにこの情報を否定している。
ディカプリオ氏は今回のウクライナ危機に関連し4つの人道支援団体へ寄付を行っている(参照)が、それはウクライナの政府や軍に対するものではないし、金額も1000万ドルではないという(実際の寄付額は不明)。
東スポWebの記事は、ディカプリオ氏がウクライナ侵攻に関連した寄付を行ったことは事実であるものの、読者にとり重要な関心事である具体的金額が事実でないことから、「不正確」であると判定する。
「祖母がウクライナ出身」も誤り
また、母方の祖母がオデッサ出身というのも誤りで、ディカプリオ氏とウクライナにはいかなる血縁上の関係も無いと前述の関係者が否定している。母方の祖母がヘレン・インデンビルケンさんという名なのは事実で、2008年にドイツで亡くなっているが、実際の出身地は明らかにされていない。
未確認情報が拡散
では、こうした事実に反する情報はどうして広まってしまったのだろうか。
CNNの調査によれば、大元となったのは南米・ガイアナの「GNAニュース」による3月5日の記事だ。記事にはディカプリオ氏がウクライナ政府に1000万ドルを送ったこと、母方の祖母がウクライナ出身であるということが「ウクライナの情報源」からの話として書かれていた。
GNAニュースの創設者である人物は、CNNの取材に対し、記事は主にウクライナ国内のあるFacebookユーザーの投稿を基にしていたと語っている。CNNの指摘を受けたこの創設者は誤りを認め、現在の記事には不確かな情報として取り下げられた旨が追記されている。
無名サイトであるGNAニュースの情報が一気に広まったきっかけになったと思われるのが、20万人以上のフォロワーを持つTwitterアカウント「ヴィシェグラード24(@visegrad24)」の6日の投稿(現在は削除。以下削除記事のリンクはアーカイブ)だ。ヴィシェグラード諸国(=チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)の情報を伝えると銘打つこのアカウントの投稿は少なくとも約1.1万回リツイートされていた。
このアカウントの運営者も、CNNの取材に対し情報の誤りを認めている。投稿には情報のソースについて書かれていなかったが、運営者は「いくつかの小規模なニュースアカウントが匿名情報を引用してこの話をツイートしたのを見た」としている。
7日には、ポーランドのニュースサイトが「国際ヴィシェグラード基金が昨日明らかにした」情報として記事化(現在は削除)。CNNは、上述の「ヴィシェグラード24」と「国際ヴィシェグラード基金」が混同された可能性を指摘している。
大手メディアも記事化
その後この話は事実確認されないまま、高級紙と目されるイギリスのインディペンデント(訂正文あり)や大衆紙のデイリー・メール(削除)、インドの英字紙ヒンドゥスタン・タイムズ(修正済み・表示なし)、フランスのテレビ局ユーロニュース(訂正文あり)など、世界各地のメディアに次々と掲載された。
日本では上述の通り東スポWebが不正確な記事を発信したほか、日刊スポーツでは「祖母がウクライナ出身」は否定されているものの同時に「1000万ドル」という誤った金額が書かれている。一方で、ELLEgirlの記事は誤情報の拡散と実際の人道支援団体への寄付についていずれも正しい顛末を伝えている。
(大谷友也)