検証対象

ハマスに誘拐され檻に閉じ込められたイスラエルの子供たち ハマス、ふざけるな。ハマスはこれで世界を敵にまわした。日本外務大臣も「イスラエルの攻撃も憂慮」なんて言っている場合では既にない。
(※動画付き投稿)

一般ユーザーのX(旧Twitter)投稿(2023年10月9日、約4800リポスト)(削除済み)

判定

根拠不十分

判定の基準について

この動画は少なくとも、今回のハマスによるイスラエル攻撃よりも前にTikTok上に存在している。TikTokの投稿者は、子供は自分の親族だと説明している。

ファクトチェック

2023年10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を開始。これに端を発した武力衝突では、イスラエル・パレスチナの双方に多数の死者が出ているほか、ハマスに兵士や民間人が拘束され人質にされる事態も起こっている(参照)。

一方で、SNSなどではこの衝突に関連した多数の真偽不明の情報が拡散し、見極めが難しくなっている。今回の検証対象である「檻に閉じ込められた子供たち」の動画は、日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証し「誤り」としているほか、NHKテレビ朝日などでも「偽動画」「フェイク動画」の例として紹介されている。現在既に投稿は削除されているものの、それまでに4800回以上リポストされ拡散した。

動画では5人の子供が檻か鶏小屋のような物(下の段には鶏がいるように見える)の中で座っている様子が映り、大声で笑いながら何かを言う男性の声や、子供の声などの音声が入っている。投稿者はこれを、ハマスに誘拐されたイスラエルの子供たちだと主張している。

元の投稿は攻撃前

動画はTikTokから転載されたものらしく、画面上にはTikTokのロゴとユーザーIDの表示が見える。

このTikTokユーザーのアカウントは一時停止されていたが、本稿執筆現在では再開されている。問題の動画は既に削除されたようだが、削除前のスクリーンショットを記録していたとするイスラエルのファクトチェック組織FakeReporterによれば、動画は10月8日の4日前の時点、つまり今回のハマスによるイスラエル攻撃(7日)よりも前に投稿されている(参照12)。

削除されたTikTok動画のスクリーンショットとされる画像(部分、FakeReporterのX投稿より)

子供は投稿者の親族と説明

さらに、このTikTokユーザーは9日には別の動画を投稿。「この子供たちはシオニストなのか?」という別のユーザーからのコメントに答える形で、削除された動画について説明している。

パレスチナのファクトチェックメディアKashif(アラビア語版英語版)によれば、このユーザーは、動画に映る子供たちは自分の親族でイスラエル人ではない、動画は攻撃の3日前に投稿したなどのことを言っている。子供たちが檻に入っていた理由などは説明されていないようだ。

オランダのNieuwscheckersは、他の投稿内容などからこのユーザーをガザ在住と推測している。

様々な傍証

この他にも、世界各地のファクトチェッカーたちが様々な角度からこの動画を検証している。スペインのMalditaは、次のような指摘をしている。

  • Googleキャッシュに残る同じユーザーの削除動画の中で、檻に入っていたのとよく似た子供たちが、特に拘束されている様子も無く映っている。この動画に対しては、別のユーザーが「檻」に言及するコメントをしている。
  • 檻の動画の笑いながら話す男性の声はオリジナルではなく、少なくとも2023年7月には存在し、様々な動画で使われているものである。イスラエルやパレスチナとは違う湾岸方言のアラビア語で、「彼らが自分に悪いことをした」といったことを言っている。
  • 檻には錠が掛かっていない。
検証対象の動画より。檻に錠は無く、金具を掛けるだけの簡単な作りのように見える。子供の1人は金具を外そうとしている

笑い声については、上述のKashifは、パレスチナでの流行に由来するとしている。アメリカのLead Storiesも、単にユーモラスな動画にこの音声が多用されていることを指摘する(例123)。

まとめると、検証対象の動画は今回のハマスによるイスラエル攻撃より前からTikTok上に存在するため、少なくともこの攻撃と関連するものでないことは間違い無い。TikTokの投稿者は子供は自分の親族だと説明しており、多くの傍証からもこの子供たちがイスラエル人でもハマスに誘拐されているわけでもない可能性が高いが、あくまで一般ユーザーの主張や様々な推論に基づくもので確定的ではないため、検証対象の投稿は「誤り」とは断定せず「根拠不十分」と判定する。

2020年の動画とは一致せず

ところで、上述のJFCやデンマークのTjekdetなどは、この動画が元々2020年1月にYouTubeに投稿されたものである可能性を指摘している。※2023年10月16日修正しました。詳細はこちら「檻に閉じ込められたパレスチナの子供たち(Palestinian Children Locked in Cages)」と題するこのYouTube動画は、現在はガイドライン違反として削除されているが、アーカイブは確認可能である。

アーカイブでは動画そのものは見ることはできないが、動画のシークバーにマウスポインタを合わせる(マウスオーバー)ことでその場面がサムネイル表示され、動画のおおよその内容は知ることができる。

YouTube動画のアーカイブより、シークバーにマウスオーバーしたところ

動画の概要欄にはイスラエルの人権団体B’Tselemの名前が挙げられていることから考えても、これはB’Tselemの2017年11月の記事の動画と同一であるようだ。記事によれば、この動画は2017年10月にパレスチナ・ヨルダン川西岸地区のヘブロンで撮影された。映っているのは未成年を中心に18人がイスラエル兵に石を投げたとして拘束されている様子で、彼らは軍の基地で尋問を受けた後に解放されたという。

B’Tselemの動画の中には、子供たちが連行される前に檻のような場所に一時的に入れられるという場面はあるものの、検証対象の動画と一致するような場面は無く、関連があるとは言えない。

また一方で、検証対象動画を2015年シリアで撮影されたものとする推測も一部にあり、テレビ朝日もこの説に言及しているが、その根拠は明らかでない。

結局のところ、確定できる限りでは上述のTikTok投稿が最も古い出典と言えそうだ。

(大谷友也)

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