続く誤情報・偽情報の情報

2023年10月7日から始まったイスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突は、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を中心に激しい戦闘が続き、現在も収束していない。

これに関連する、誤りやミスリードを含む情報の発生・拡散も続いている。前回に続き、日本で拡散が確認されたものを20件まとめて紹介する。

病院に直撃するハマスのロケット?

10月17日にガザ地区北部のアル・アハリ病院で起きた爆発の原因については、イスラエルとハマスの双方が相手方の責任として非難し、爆発による死者数に関しても主張が対立している(参照)。

この動画はハマスが放ったロケット弾が病院に落ちる様子として拡散されたが、実際は2022年8月にガザ地区の他の場所で起きた、武装組織「イスラム聖戦(PIJ)」によると見られる誤射の映像である。

WSJが病院空爆の爆弾は米国製と報じた?

イランの国営放送IRIBのウェブ版「ParsToday」のアカウントが主張したが、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはロイター通信の取材に対し、そのような報道はしていないと否定している。

亡くなったガザの子供に寄り添う猫?

この動画の出典や背景は不明だが、少なくとも2021年4月にはネット上に投稿されているため、今回のガザでの衝突とは関係が無い。子供が亡くなっているかどうかも映像だけでは分からず、単に眠っているだけにも見える。

水を受け取る子供を空爆するイスラエル軍?

2023年10月にスーダンのハルツームで、スーダン国軍が給油中の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」を攻撃する様子の映像である。

グレタさんが環境に優しい兵器提案?

これは実際の映像や音声を加工して作られた偽動画である。

重症の男性はハマスの俳優?

イスラエルの空爆による市民への被害を誇張するための「俳優」が存在すると主張し、「劇団ハマス」や「パリウッド(パレスチナとハリウッドを合わせた造語)」と揶揄する投稿も広く拡散されている。しかし、その中には別人を同一人物と決め付けたり、関係無い過去の画像や動画を利用したりしているものも少なくない。

上の2人の男性の動画に関しては、イスラエル政府の公式Xアカウントが同一人物だと主張。ハマスの攻撃を賛美していた「俳優」が、別の動画で空爆の被害者を演じているとした(参照12)。これらの投稿は後に削除されている。

実際は両者は別人だ。左はガザ地区から発信している25歳の人物で、親ハマス的な投稿をしているのも確かなようだ。一方、右はガザではなくヨルダン川西岸地区の難民キャンプで片脚を失った16歳の少年で、件の動画は2023年8月、彼がイスラエル側の病院で治療を受けている時のものである。

遺体がスマホを触っている?

2022年10月、タイでハロウィーンの仮装をしている子供の写真である。

助けられた子供が全て同じ?

いずれも2016年8月に内戦中のシリアのアレッポで撮影されたもの。当時から「捏造の証拠」として繰り返し拡散されているが、空爆現場から救助された子供が複数人に抱えられながら運ばれているに過ぎない。

ガザ南部の退避地域に空爆は行われていない?

イスラエル軍は10月13日頃からガザ地区の住民に対し、戦闘から逃れるため南部へ退避するよう勧告(参照)。麗澤大学客員教授でイスラム思想研究者の飯山陽氏は、この退避地域で「空爆は行われていない」と主張。しかし、実際はこの地域でもイスラエルによる空爆が行われていて、飯山氏自身が事実を報道していると述べたFOXニュース記者もその事をレポートしている。

海で遊ぶガザ住民?

「イスラエルはガザ市民の命を救うためあらゆる事をしている」と主張するイスラエル政府のオフィール・ゲンデルマン報道官の投稿を基に、住民は海で遊んだり洗濯物を干したりしているとする投稿が日本でも拡散された。

実際はこれらの写真は、燃料不足などによる水道システムの停止で淡水が不足しているガザで、住民が体や衣服を洗うのに海水を利用している様子を映したものである。

フランスの親パレスチナデモ?

2023年10月、ブラジル・サンパウロでサッカーの試合会場に向かうサポーターの動画である。

ガル・ガドットさんが兵役復帰?

イスラエル人俳優のガル・ガドットさんはかつて兵役に就いていたことがあるが、今回復帰したという事実は無い。画像は詳細不明だが、以前の兵役の頃に撮影された写真であるようだ。

遺体が動く映像?

2013年9月、エジプトのカイロで行われた抗議活動。

ハマス指導者の画像は生成AIで作られたフェイク?

かつて首相直属のデジタル担当チーム所属していたイスラエルのインフルエンサーであるハナニヤ・ナフタリ氏は、10月21日、ハマスの指導者らが「贅沢な暮らしを謳歌している」様子として4枚の画像をXに投稿。これに対し、細部の描写に不自然な点が見られることから、画像はAIで生成されたものではないかという指摘が相次ぎ、11月5日放送のTBS系列の報道番組『サンデーモーニング』でも「生成AIで作られたフェイク画像」として紹介された。

しかし、これら4枚の画像は生成AI技術が一般的になるよりも前の2014年7月には既にネット上に存在していることが確認できる。生成AIで一から作成された架空の画像というわけではなく、元々あった不鮮明な画像をAIアップスケーリングの技術を使って拡大・精緻化したために不自然になったもののようだ。

『サンデーモーニング』の番組HPには訂正が掲載され、翌週11月12日の放送でも訂正が行われた。

少女の怪我を偽装?

これも前述のゲンデルマン報道官が投稿し(12)、パレスチナ人が特殊メイクで怪我を偽装している様子だとして拡散された。実際はガザをテーマにレバノンで撮影された映像作品とそのオフショットである。

イスラエル兵に殺された妹の遺体をを引きずる兄?

※一部ぼかし加工を入れています

2020年8月、イエメンの武装勢力フーシ派の兵士に撃たれたとされる少女の画像である。少女は亡くなっておらず、数日間昏睡状態となった後容体は安定したという。

音楽祭を砲撃するイスラエル軍?

10月7日のハマスによる大規模攻撃と同日、ガザ地区との境界近くのイスラエル南部で行われていた音楽祭が襲撃され多くの民間人が殺害・拉致された事件(参照)について、イスラエル軍のヘリコプターが民間人を砲撃しているところだとする動画が拡散された。

しかし、この動画は元々イスラエル軍アカウントが10月9日にXに投稿したもの(2:06~)で、映っているのは音楽祭の場所とは違う地点であると特定されている

ガザの子供を描いたバンクシーの映像作品?

イギリスの覆面アーティスト・バンクシーの作品として拡散された動画だが、実際は別のアーティストがバンクシーにインスピレーションを得て2014年に発表した、シリア内戦をテーマとした作品である。

ガザの反ハマスデモ?

2023年7月、ガザ北部のジャバリヤで行われた、生活環境の改善を求めるデモ。

連行されたパレスチナ人が着替えている?

アメリカのFOXニュースのレポーターが伝えた、イスラエル軍が半裸のパレスチナ人兵士を拘束・連行しているとされる映像の後で、その兵士が着替えている様子が映っているとして、演出された場面だと主張する投稿が拡散。

動画は実際にFOXニュースで放送された映像を基にしたものだが、放送上の都合で時系列が逆に編集されていたもので、実際はこの兵士は服を脱いだ後に拘束されている。

(大谷友也)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事を読んでよかった、役に立ったと思われた方は、ぜひ「ナットク」やシェアボタン(右下)をクリックして、サポーターになっていただけると嬉しいです。
記事で気になるところがありましたら、こちらからコメントください。
新しいファクトチェック記事のお知らせメールを希望する方はこちらで登録できます。