検証対象
他国によって空中から投下された支援物資を回収しようと海に飛び込むガザの飢えた子供たち。その子供たちをイスラエル軍が爆撃し、殺害した。 イスラエル軍の邪悪さには際限がない。 #IsraelTerrorist #CeaseFirelnGazaNOW
駐日パレスチナ常駐総代表部公式アカウントのX投稿(2024年2月29日、約2000RT)
(※海外ユーザーの投稿動画を引用)
判定
この動画は、2つの別の出来事の動画を編集でつなぎ合わせて作られている。後半の動画はガザの漁船が爆撃される様子である。
ファクトチェック
イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区での攻撃が続く中、ガザでは食料や物資の不足が深刻化(参照)。ヨルダン軍が各国と共同でこれまでに複数回支援物資の空中投下を行っている(参照1、2)ほか、2024年3月にはアメリカ軍による物資投下も始まっている。3月9日には投下された物資のパラシュートが開かず死傷者が出る事故も起きているが、どの国からの物資が事故を起こしたかは分かっていない。
陸路での物資輸送も行われているが、2月29日には支援物資を運ぶトラックに集まった住民に多数の死傷者が出る事件が発生。ガザの保健当局は住民がイスラエル軍に銃撃されたと非難しているが、イスラエル側は発砲は混乱を抑えるためであり被害の大多数は群衆事故によるものだとしていて、主張は食い違っている(参照1、2)。
こうした中、駐日パレスチナ常駐総代表部のX公式アカウントは2月29日、海外の一般ユーザーの投稿動画を引用し、「支援物資を回収しようと海に飛び込むガザの飢えた子供たちがイスラエル軍に殺害される様子」という説明と共に投稿した。
動画は24秒で、前後半で大きく2つの場面に分かれる。前半の約11秒はパラシュートの付いたいくつかの荷物が海上に投下され人々が群がる様子に「ヨルダンの支援物資が海に到着(المساعدات الاردنية نزلت بالبحر)」という字幕と青ざめた顔の絵文字、後半の約13秒は爆撃によって海上に煙と水しぶきが上がっているような様子に「ガザ(غزة)」という字幕とパレスチナの旗・ピースサインの絵文字が映っている。
動画の出典
2つの場面にはInstagramのアイコンとアカウント名が映っていることから、動画はInstagramから転載されたものであるようだ。アカウント名を基にたどると、前半は2月27日、後半は2月26日にそれぞれ別のInstagramユーザーが投稿した動画だと分かる。
それぞれの動画の説明などを見ても、支援物資に集まった子供たちをイスラエル軍が爆撃したというようなことを示す記述は見当たらない。また、前半の青ざめた顔の絵文字があった部分は、元々笑顔の絵文字だったことも分かる。
後半は漁船への爆撃
さらに調べると、後半の場面と同じ動画のより広い範囲が映ったものが1月21日(アーカイブ)に投稿されている(下図投稿動画①)。投稿者コメントにはアラビア語で「占領軍飛行機によるガザの海での爆撃(قصف من طائرات الاحتلال لبحر غزة)」とある。
さらに、同じく1月21日、同じ現場を別の場所から撮影したと見られる動画を、フォトジャーナリストのSami Alsultan氏が「ザワイダで暴力が向けられている(Violent targeting in Bahr Al-Zawaida)」というコメントと共に投稿している(下図投稿動画②)。
1月22日には、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの系列局である「アルジャジーラ・ムバッシャー」が、イスラエル軍の飛行機が漁船を爆撃したとする動画記事を公開。記事によれば、場所はヌセイラット難民キャンプやザワイダに近いガザ中部の海上だという。3つの動画は、煙と水しぶきの形やタイミング、雲の形など一致しており、いずれも同じ爆撃を撮影したものと考えられる。
以上から、検証対象の動画の後半部分は支援物資の投下と関係するものではなく、前半部分とは別の出来事であると考えられる。支援物資投下の際に子供が爆撃されたという他の情報源も見当たらないことから、検証対象の投稿は「誤り」と判定する。
取材には返答無し
リトマスでは、投稿元の駐日パレスチナ常駐総代表部に対してメールを通じて取材を行い、当該の投稿は代表部の公式見解であるかや、投稿の主張が事実かどうか確認しているかなどについて尋ねたが、こちらで定めた期限までに返答は無かった。返答があり次第本稿に追記する。
(高倉佳子、大谷友也)