検証対象

ハーレーライダーが大好きなドイツ北部に住む悪性がんの少年のために両親が20人のライダーにお願いした結果、当日全土から2万人のライダーが少年を元気付けるために集結する「アニメ」みたいな展開に…
(※動画付き投稿)

「最多情報局」(まとめアカウント)のX(旧Twitter)投稿(2023年9月19日、約5000リポスト)

判定

不正確

判定の基準について

ドイツ北部で末期がんの少年のために大勢のハーレーライダーが集まったのは事実だが、動画はその様子を撮影したものではなく、ブラジルの政治集会やオーストラリアで誕生日を祝う少年の動画をつなぎ合わせたものである。

ファクトチェック

検証対象の投稿は、X(旧Twitter)で話題の動画や画像の転載投稿を主に行うまとめアカウント「最多情報局」が、別のまとめアカウントによる2022年6月の投稿から1分56秒の動画を引用したもので、投稿の文面もほぼ同じである。元の投稿も、約1万6000回リポストされている。

動画は、高速道路を大勢のバイクの集団が走る約11秒の場面①、同様の約2秒の場面②、そして残りが駐車場のような場所で車椅子の少年らの前を何台ものバイクがゆっくりと通過する場面③で構成されている。

高速道路のバイク集団→ブラジル

場面②で、道路の左側に映る広告看板には「SOLUÇÕES(解決策、ソリューション)」などのポルトガル語の単語が確認できる。これはブラジルの「Grupo Bom Pastor」という葬儀会社の広告であり、「ドイツ北部」という投稿の説明と整合しない。

左:検証対象の動画12秒時点のキャプチャー 右:ブラジルの葬儀会社のYouTube動画のキャプチャー 黄色枠は筆者による

実際は場面①・②のバイク集団はブラジルで撮られた動画で、ドイツの少年とは全く関係が無い。2021年6月、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領(当時)が支持者と共にサンパウロの高速道路をバイクで走行した集会(参照)で、ボルソナロ氏本人が集会の翌日に投稿した動画は場面①・②と一致している。

左上:検証対象の投稿の動画場面①より 左下:同・場面②より 右上・右下:ボルソナロ氏投稿の動画より

地元紙Folha de S.Pauloによると、集会はサンパウロのバンデイランテス高速道路で行われた。Googleストリートビューでも、動画に映る看板の場所が確認できる。

Googleストリートビューより(2021年4月撮影)

なお、検証対象の動画左上には「5:27PM」という時刻が表示されているが、当日ライブ配信したCNN Brasilのアーカイブ動画では時刻表示は午前中であり、Folha de S.Pauloも午前10時に始まり午後1時30分に終了したと報じている。

この集会に集まった人数は約1万2000人が集まったと当初報じられていたが、一方で実際は6000台余りだったとする解析も存在している

ボルソナロ氏らはこの1ヶ月ほど前の2021年5月にも首都ブラジリアで同様のバイク集会を行っている

車椅子の少年→オーストラリア

場面③の車椅子の少年の映像は2017年にオーストラリアで撮影されYouTubeに投稿されたもので、現地のオンラインメディアWAtodayが詳しく報じている。

それによると、脳性麻痺を患うバイク好きの少年ゼイン君の誕生日を祝うため、母親の呼びかけに応じた100台近くのハーレーダビッドソンなどのバイクが南西部の街バンバリーのマクドナルドの駐車場に集まったという。WAtodayの記事には別アングルの動画も掲載されている。

記事によれば呼びかけられた集合時間は昼の12時40分で、これも「5:27PM」という検証対象動画の表示と合っていない。

ドイツの末期がんの少年は実在

このように動画は無関係だったわけだが、「ドイツ北部でがんの少年のためにバイカーが集結した」という話自体は細部の違いはあれど概ね実際に起きたことだ。

ドイツ紙Weltによれば、2021年7月、ドイツ北西部の街ラウダーフェーンで末期がんを患う6歳の少年キリアン君のために家族の呼びかけでバイクパレードが行われた。警察の発表で約1万5000人が集まったという。

キリアン君はバイクとモトクロスが好きで、呼びかけはハーレーに限ったものではなかったようだ。当日の様子を撮影したYouTube動画でも、様々な種類のバイクが走っているのが確認できる。また、動画の説明によればパレードが行われた時間は昼の12時30分から3時間ほどだった。

バイク愛好家のFacebookコミュニティでの投稿から実際の呼びかけの様子が分かるが、特に人数は指定されておらず、検証対象の投稿で述べられているように「20人のライダーにお願いした」ということはなさそうだ。パレードは警察が協力し、バイクがキリアン君の自宅の前を通るように誘導した。キリアン君のこの日の映像は探した限り報道されていない。

キリアン君はこのパレードが行われた翌月に亡くなっている

事実と誤りが混交

まとめると、検証対象の動画において、場面①・②はドイツのがんの少年とは全く無関係なブラジルでの政治的な集会であった。場面③は「病気の少年のためにバイカーが集結した」というのは説明と一致しているものの、場所はオーストラリアで、少年の病気もがんではない。

投稿文の内容単体で見ると、「ドイツ北部のがんの少年のためにバイカーが集結した」という大枠は実際に起こったことであるが、バイクの種類や呼びかけ内容などに実際の出来事と異なる部分がある。

また、いずれの集会もライダーの人数は「2万人」より少ないし、時刻も動画中に表示された「5:27PM」ではない。

以上のように、検証対象の投稿はリトマスのレーティング基準における「事実に即した部分とそうでない部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している」状態に相当し、「不正確」と判定する。

(高倉佳子、大谷友也)

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