検証対象

首相官邸さん、この動画は加工していますよね。岸田総理が発言をする前から、前席には人が座っている様に加工しましたよね。国連のライブ中継映像では、初めから人がいませんでした💢 なぜ嘘ばかりつくのですか❔ YouTubeには証拠となる映像が残っていますよ。 恥ずかしくないのですか❔
(※首相官邸アカウントの動画付き投稿を引用)

一般ユーザーのX投稿(2023年9月20日、約5800リポスト)

判定

ミスリード

判定の基準について

首相官邸の投稿動画に映っている最前列の席の人たちは、報道機関による中継動画でも確認でき、CGで付け加えるなどの改変はされていない。ただし、投稿主の主張の意図は別のものだった可能性がある。

ファクトチェック

2023年9月20日(日本時間)アメリカ・ニューヨークの国際連合(国連)本部で開かれた総会で、岸田文雄首相は一般討論演説を行った。同日、首相官邸のX(旧Twitter)アカウントはこの演説の様子を49秒にまとめた動画を投稿。検証対象のX投稿は、この動画が実際の映像を「加工」したものだと主張している。

映像改変として拡散

投稿主は、官邸投稿動画は演説前から「前席」に人が座っていたかのように「加工」されていて、「前席」に人がいない実際の様子はYouTube上に残る「国連のライブ中継映像」で確認できると主張している(ただし、実際には官邸投稿動画に演説前の場面は映っていない)。

投稿主は続けて、本来の「空席の状況」とする画像を投稿。これは日本テレビの英語版YouTubeチャンネルの動画をスクリーンショットしたもの(0:05頃の場面)で、投稿は約1100リポストされた。

「空席の状況」を示したとする投稿(削除済み)

しかし、この動画はそもそも昨年(2022年)の国連総会であり、投稿主が加工されたと主張する動画とは年が違う。投稿主は後にこの投稿を削除している。

このスクリーンショット画像(下図右上)では、岸田氏の正面にあたる最前列の席には人がほとんど座っていない。一方で、官邸が投稿した動画(下図左)では同じ位置に多くの人が座っているのが見える。そのため、投稿主が主張する「加工」とはこの最前列の席のことだと解釈したユーザーが多かったようだ。

例えば、元国連難民高等弁務官(UNHCR)カブール事務所長の山本芳幸氏は、国連公式チャンネルの動画のスクリーンショット画像(下図右下。動画3:43頃の場面)を使い、最前列に印を付けた上で、「YouTubeで見たらほんまやった」と投稿。約5200リポストと大きく拡散されている。だが、これも2022年の動画であり、山本氏は後に訂正の投稿をしている。

左:首相官邸アカウント投稿動画より。右上:検証対象のユーザーの投稿画像(削除済み、部分)。右下:山本芳幸氏の投稿画像(部分、丸囲みは山本氏による)。左は2023年、右2つは2022年の国連総会の様子である

このように、「官邸が動画を加工した」という検証対象の主張は、誤って別の年の映像と比較されるミスが複数回重なったこともあってか、「CGか何かで映像を改変し、最前列の席に本来いないはずの人を水増しした」という意味に解釈され、広く拡散されるようになった。

改変はされていない

2023年の国連総会は、日本テレビのYouTubeチャンネルでライブ中継されており、アーカイブ動画も残されている。岸田氏の周囲の様子が映る場面(下図左。動画1:33:00頃)を確認すると、最前列の席には首相官邸の動画(下図右)と同じように複数の人物が着席していることが確認できる。

左:日テレNEWSより(部分)。右:首相官邸アカウント投稿動画より。枠囲みは筆者による

つまり、官邸動画に映る人たちは元から存在しており、この点に関して映像が改変されたという事実は無い。

投稿主の意図は不明

しかし、投稿主は「最前列の人を水増しした」と直接述べたわけではなく、「加工」というのがどういう意味か具体的には明確でない。

投稿主が9月21日に改めて行った投稿では、今度は正しく2023年の動画を参照し、岸田氏演説中の会場の様子を広く映した場面(5:36頃~)を抜き出して添付している。

また、最前列の席について「首相官邸の投稿動画は加工されていない」と説明した朝日新聞記者の藤原学思氏による一連の投稿(1234)に対しては、投稿者は22日、「私が人がいないと書いた場所は前席中央付近の席ではありません。首相官邸の動画にも前席中央付近の動画はありません。」と反論している。

検証対象のユーザーによる投稿

ネット上では岸田氏の演説中の会場に空席が目立つということも当初から話題になっていて(参照)、官邸動画でそうした様子が映っていないこと自体は事実である(ただし、上述の藤原氏の投稿でも説明されていたように、会場の人がまばらというのは他の各国首脳の演説でも特段珍しいことではない)。検証対象の投稿は、こうしたことを指しているとも解釈できる。

検証対象の投稿の本来の意図が何であれ、「前席」が「加工」されたという言い方から、「官邸が映像を改変し、いないはずの人を水増しした」という誤った理解をした人が多かったのは確かであり、誤解を招く余地が大きかったため、投稿は「ミスリード」と判定する。

(大谷友也、高倉佳子)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事を読んでよかった、役に立ったと思われた方は、ぜひ「ナットク」やシェアボタン(右下)をクリックして、サポーターになっていただけると嬉しいです。
記事で気になるところがありましたら、こちらからコメントください。
新しいファクトチェック記事のお知らせメールを希望する方はこちらで登録できます。