検証対象

高額医療費負担、財務省「廃止を」 省庁の無駄、予算執行調査

毎日新聞記事見出し (2022年7月27日)

判定

正確

判定の基準について

国民健康保険の一部を国が負担する「高額医療費負担」を廃止し、都道府県の負担とすることを財務省が検討しているのは事実で、毎日新聞の記事内容は正しい。ただし、ネット上ではこれを一定額以上の窓口負担が利用者に返金される「高額療養費制度」と混同し、ただちに利用者負担が増えると解釈している例が見られる。

ファクトチェック

毎日新聞記事は正しいが…

9月30日から10月1日頃にかけて、SNS上では「高額医療(費)負担廃止」に関する投稿が急増。Twitterでは、「#高額医療負担制度廃止案に反対します」というハッシュタグが政治カテゴリーのトレンドワードにもなった。

「高額医療」に関するツイート分析(Yahoo!リアルタイム検索より)
トレンド入りしたハッシュタグ(10月1日23時頃)

「高額医療費負担廃止」は、ここ数ヶ月のうちに複数回ネット上で大きな話題になっている。その発端となったのが、本稿の検証対象である毎日新聞7月27日の記事だ。

 財務省は26日、各省庁の事業の無駄を調べる予算執行調査の結果を発表した。75歳未満の自営業者や無職の人が加入する国民健康保険で、1カ月当たり80万円を超える高額な医療費が発生した場合に超過部分の一部を国が負担する制度について「廃止に向けた道筋を工程化すべきだ」とした。(後略)

高額医療費負担、財務省『廃止を』 省庁の無駄、予算執行調査」(毎日新聞、2022年7月27日)

予算執行調査の結果は、財務省のホームページ上で公開されており、その中に次のような記述がある。

高額医療費負担金が果たす機能は現時点においても極めて限定的であり、いずれその役割を終えることは明らかである。国保運営の予見可能性を高めるためにも、廃止に向けた道筋を工程化すべきである。

7月公表分予算執行調査資料 総括調査票(令和4年7月公表分)」(財務省主計局、2022年7月26日)より「(19)高額医療費負担金」P.5、下線は原文ママ

このことから、「高額医療費負担」の廃止を財務省が検討しているというのは公表されている通りの情報で、毎日新聞の記事は「正確」であると言える。

「高額医療費負担制度」は国と自治体との費用負担の取り決め

ただし、ここで気を付けなければならないのは、この「高額医療費負担」とは何であるかだ。

医療保険のうち、被用者保険や後期高齢者医療制度に含まれない人を対象とするのが国民健康保険(国保)で、自営業や無職の人などを対象としている。

国保はかつて市町村が運営主体であったため、規模の小さな自治体では高額な治療が行われると財政に大きな負担が生じる。これを緩和するために、1件あたり80万円を超える医療費に関しては超過分の4分の1ずつを国と都道府県が負担するというのが「高額医療費負担制度」だ(国民健康保険法第70条第3項、国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令第2条第4項)。あくまで国と自治体との費用負担に関する取り決めであり、医療保険の利用者の負担額に直接関わる話ではない。

しかしその後、2018年に国保の財政運営の責任主体が市町村から都道府県に変わった。市町村が保険給付に要した費用は都道府県が全額支給する仕組みになったことなどから、市町村に対する負担緩和策である「高額医療費負担制度」の機能は「現時点においても極めて限定的」「いずれその役割を終える」というのが財務省の今回の判断である。

このような経緯については、前述の毎日新聞記事でも解説されている。

利用者へ返金される「高額療養費制度」とは異なる

「高額医療負担制度」の廃止に反対するツイートの中には、「(高額な薬の費用を)高額医療負担制度のおかげで何とか払えている」「(手術費用が払えなかったが)『病院の窓口で相談出来るから!大丈夫!』と教えて頂き、手術してもらえて生き延びました」といったものや、800万円を超える医療費の自己負担額が7万円程度になった領収書を示したものもあった。しかし、前述の通り、「高額医療費負担制度」は利用者負担額を直接増減させるものではない。

ここで区別したいのが、「高額医療費負担制度」と名称が酷似する「高額療養費制度」だ。「高額療養費制度」は、利用者が窓口で支払う自己負担額がある一定額を超えた場合に、超過分の払い戻しを受けられる仕組みのことである。高額な医療費が直接減額されるため、利用者にとってはより身近な制度と言える。「高額療養費制度」に関しては廃止の議論は無いのだが、両者の制度を混同していると思われる反応は少なくない。

廃止の影響は?

とはいえ、「高額医療費負担制度」の廃止も、利用者の負担につながる恐れが無いとは言い切れない。元厚生労働大臣の長妻昭衆議院議員は週刊女性PRIMEの取材に対し、「今回あがっている高額医療費負担の廃止で、高額療養費制度がなくなることはありません」としつつ、高齢者が多く高額支払いが頻発する自治体で国保の保険料が上がったり、高額医療を行わないよう「無言の圧力」が生じたりといった影響の可能性を指摘している。

ネット上での反対意見もこのような懸念に基づくものは多く見られ、全てが別の制度との混同による誤解なわけではない。また、「高額医療費負担制度」廃止によって医療保険が縮小される可能性があり得る以上、たとえ元が混同でも、この制度のおかげで高額な医療費を払えているという認識は結果的に必ずしも間違いでない。

結論

毎日新聞が報じた「高額医療費負担」の廃止検討というのは事実である。しかし、これと非常に名称が似ていて、かつ一般の読者にとってより身近な「高額療養費制度」というものがあり、両者を混同していると推測される反応がネット上では多数見られた。

「高額医療費負担」という言い回しは財務省が用いる名称「高額医療費負担金」をほぼ踏襲しており、またその制度内容も記事中で十分に説明されている。「高額療養費制度」との区別を促す記述があればより親切だったという評価はあり得るが、記事そのものが誤解を誘発する不適切なものだったとは言い難く、したがって検証対象の毎日新聞記事は「正確」と判定する。

(大谷友也)

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