拡散された情報
2023年6月27日、パリ郊外のナンテールで17歳の北アフリカ系の少年が警察官によって射殺される事件が発生。これをきっかけに、フランス全土で警察への抗議活動が広がった。一方、デモの一部は暴徒化し、暴動に発展(参考1、2)。放火や略奪が各地で多数発生したのに加え、市長宅への襲撃などの事件も起きている。
一方で、ネット上ではこの暴動に絡み、事実と異なる情報や、誤解を招くミスリーディングな情報が多数発生した。特に拡散された20件をピックアップし紹介する。
マルセイユ最大の図書館が全焼?
建物の内部が激しく燃えているかのような動画が拡散されたが、実際には入口部分が損傷したのみで、図書館は数日後に業務を再開している。
フランス最大の図書館で火災?
フランス最大の図書館での火災とされる別の動画も拡散されたが、これはフィリピンのマニラ中央郵便局である。実際に最大の図書館であるフランス国立図書館が被害を受けたという情報は無い。
パリのルイ・ヴィトン略奪の動画?
2020年アメリカの映像である。
燃やされた役所?
役所ではなく、パリ近郊の街ル・メ=シュル=セーヌのショッピングセンター。
警官を組み伏せる黒フードの暴徒?
詳細不明だが、少なくとも2022年5月に存在している画像であるため、今回の暴動とは無関係。
爆破されるエッフェル塔?
これはウクライナ国防省が2022年3月に公開したもので、NATOに軍事支援を求めるために作られた「ヨーロッパの他の首都でウクライナと同じことが起きたら」というイメージ映像である。
奪われた警察車両?
これは2022年公開のアクション映画『アテナ』のワンシーン。パリ近郊の街でアルジェリア系の若者が警察に暴行され死亡したのをきっかけに暴動が起きるというストーリーは今回の状況とよく似ているが、あくまでフィクションの映画だ。
- Netflixによる『アテナ』の紹介動画(1:25付近が当該シーン)
ウクライナから持ち込まれたアメリカ製銃?
「フランスの警察がウクライナから来た可能性のあるアメリカ製ライフルで撃たれる」という見出しのニュースサイト風の画像が拡散。親ロシア派のテレグラムチャンネルを発端とする信憑性の低い情報だが、ロシア外務省もNATOや西側諸国がウクライナに援助した武器が使われていると主張し、フランス外務省はこれを否定している。
政府がインターネット遮断を発表?
フランス内務省のプレスリリースを模した、「7月3日より一定期間、一部地域で夜間のインターネット接続を一時制限する」という文書の画像が拡散。政府は否定していて、実際に制限が行われたという情報も無い。
なお、その後マクロン大統領は実際に暴動への対策としてSNS遮断の必要性について言及しているが、実現はしていない。
警察署にロケット弾?
この動画は警察署ではなく郵便局ATMの爆破の様子で、ロケットランチャーも使われていない。
動物園から逃げた動物がパリを走る?
拡散された動画にはシマウマ、ライオン、ゾウが登場する。シマウマの動画は2020年にシュヌビエール=シュル=マルヌでサーカスから逃走した時のもの。ライオンの動画は状況は不明だが、少なくとも2020年までさかのぼることができ、場所はサン=ドニとされている。ゾウの動画は詳細不明。いずれにしても、パリの動物園から動物が逃げたという情報は無い。
蹴り倒されるフランスの老人?
暴動の主体となっているアフリカ系移民への反発感情が高まるにつれ、移民による過去の犯罪・迷惑行為とされる様々な動画が出回るようになった。しかし、その中には不正確な説明をされているものもある。
これはフランスでの出来事として拡散されたが、実際はオランダで2023年5月に起きた事件である。
ロンドンでも暴動発生?
2022年9月ロンドンのイラン大使館での抗議デモの様子であり、フランスのデモ・暴動とは関係無い。
トラックから放たれた暴徒たち?
アメコミキャラクター・バットマンのマスクを付けた人々がトラックから飛び出すこの動画は、アメリカのフロリダ州立大学付近の路上で撮影されたもの。同様の動画は2023年4月からあり、他にも様々な仮装をした人たちが映っている。
廃墟になったパリ?
パリの光景として拡散された動画だが、正しくは2022年3月、爆撃を受けたウクライナ・キーウである。
慣れたパリ市民?
これは2023年3月の年金改革反対デモの際の動画。場所もパリではなくボルドーである。
広場を占拠する人々?
2019年3月にパリのレピュブリック広場で行われた、アルジェリアのブーテフリカ大統領(当時)の次期大統領選出馬に対する抗議デモ。
白人をリンチ?
2020年1月の動画。少年を囲んで蹴っているのはパリ近郊・エタンプの中学校に通う生徒。学校や警察によれば、これは友人同士の遊びの罰ゲームであって、蹴られた側も同意のうえであり怪我も無いという。参加した生徒らは学校から処分を受けている。
教会がイスラム教徒に焼き払われた?
2023年7月7日、フランス北東部の街・ドロネの教会で起きた火災の映像だが、その原因はまだ分かっていない。器物損壊の疑いで検察の捜査が行われているものの、電気系統の原因の可能性を指摘する報道もある。
なお、ドロネではこれまでのところ暴動が発生したという情報は見当たらない。
国旗を燃やす人々?
4枚セットで拡散された画像のうち、国旗を燃やしている2枚は2015年1月のパキスタン(上図左上)とパレスチナ・ガザ(同右上)。共にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載した仏紙シャルリー・エブドへの抗議で、今回のフランスでの暴動とは関係が無い。
(大谷友也)