検証対象

赤十字、ワクチンを打った人は献血できません?!】やはりこういう展開になってきましたね。
(※動画付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2023年1月15日、約2500RT)

判定

不正確

判定の基準について

動画は実際にテレビで報道されたニュースの一部だが、内容が誤っていたとして後に放送局のウェブサイト上の動画が削除されている。米赤十字社が新型コロナウイルスワクチン接種者からの特定の成分献血を受け付けていなかったことは事実だが、その他の献血については一貫して受け入れている。

ファクトチェック

投稿されたツイートの13秒間の動画では、英語のニュース映像に「赤十字は、新型コロナワクチンを受けている人は他の病院の血漿を助けるために献血することはできませんと発表」という後から付けられたと見られる日本語字幕が重ねられている。

これはアメリカ・ミズーリ州のテレビ局KMOVで実際に放送されたニュースで、キャスターは次のように話している。

“The Red Cross says anyone who has received their COVID-19 vaccine cannot donate convalescent plasma to help other COVID-19 patients in hospitals. That plasma is made up of antibodies from people who have recovered from the virus, but the vaccine wipes out those antibodies, making convalescent plasma ineffective in treating in other  COVID-19 patients.”

筆者訳)赤十字社は、COVID-19(※訳注:新型コロナウイルス感染症)のワクチンを受けた人は入院している他のコロナ患者を助けるために回復期血漿を提供することはできないと言います。血漿はウイルスから回復した人たちの抗体からできますが、ワクチンはその抗体を一掃し、回復期血漿が他のコロナ患者を治療する効果を無効化します。 

検証対象の元のニュース動画の書き起こし

もともと海外で拡散

このニュース動画を切り取った動画は、2021年頃から英語圏を中心に拡散。日本でも「アメリカ赤十字はワクチンが天然抗体を一掃するため献血できないと言っている」などとするツイートが拡散されている。

拡散の例

血漿(けっしょう)は血液の液体成分で、回復期血漿はウイルス感染症から回復した患者の血漿を指す。回復期血漿にはウイルスに対する抗体が多く含まれるとされることから、新型コロナウイルス感染症の患者に対して回復期血漿を投与することで治療効果が期待され、一部で実際に用いられた(参照:12)。

拡散されたKMOVのニュースはそもそもこの回復期血漿の受け入れに関する話であって、一般になじみ深い献血とは性質の異なるものである。動画でもキャスターは「回復期血漿(convalescent plasma)」と言っているが、拡散された動画の日本語字幕には「血漿」とだけ書かれていて、通常の献血とは違う特殊な血液提供の話であることが明確にされていない。

米赤十字社の反応

米赤十字社はQ&Aページで新型コロナワクチンを接種した人の回復期血漿受け入れについて以下のように表明している。

Q: Are individuals who received a COVID-19 vaccine eligible to give COVID-19 convalescent plasma?
A: The FDA allows people who have received a COVID-19 vaccine to donate dedicated COVID-19 convalescent plasma within six months of their infection of the virus, based on data that antibodies from natural infection can decline after six months however, the Red Cross has discontinued our convalescent plasma collection program. Throughout the pandemic, the Red Cross has adapted its collection of lifesaving products to meet the needs of all patients including COVID-19 patients. Due to the decline in hospital demand and because the Red Cross and our industry partners have been able to build a sufficient supply of convalescent plasma to meet the foreseeable needs of COVID-19 patients the Red Cross stopped collecting convalescent plasma completely on June 14. The Red Cross is grateful to the tens of thousands of convalescent plasma donors who rolled up their sleeves to share their health and provide hope to patients and their families during an uncertain time.

筆者訳)質問:COVID-19ワクチンの接種を受けた個人はCOVID-19の回復期血漿を提供するのに適格ですか?
回答:食品医薬品局はCOVID-19のワクチンを受けた人たちが、ウイルス感染から6ヶ月以内にCOVID-19回復期血漿を提供することを許可しています。これは自然感染からの抗体は6ヶ月で減少するというデータに基づいています。しかしながら赤十字社は回復期血漿の採集プログラムを中止しました。パンデミックの間、赤十字社はCOVID-19患者を含む全ての患者が必要とする救命用製品の収集に努めてきました。病院での需要の減少により、また赤十字社と業界パートナーがCOVID-19患者の当面の需要を満たす回復期血漿の十分な供給を確保することができたため、赤十字社は(※訳注:2021年)6月14日をもって回復期血漿の採集を完全に停止しました

米赤十字社Q&Aページより抜粋(下線強調は筆者、以下同様)

また、「ワクチンが天然抗体を一掃する」といった主張に対しても、次のように否定している。

Q: I’ve heard claims that the Red Cross refuses to accept convalescent plasma from individuals who have received a COVID-19 vaccine because it wipes out the antibodies. Is this true?
A: There are claims circulating that incorrectly state that the Red Cross will not accept convalescent plasma donations from those who have received the COVID-19 vaccine because “the vaccine wipes out those antibodies making the convalescent plasma ineffective in treating other COVID-19 patients.” This is not accurate.

筆者訳)質問:赤十字社がCOVID-19のワクチン接種を受けた個人からの回復期血漿の受け入れを、ワクチンが抗体を一掃するという理由で拒否しているという主張を聞きましたが本当ですか?
回答:赤十字社がCOVID-19のワクチンを接種した人からの回復期血漿を受け入れていないのは「ワクチンが抗体を一掃して回復期血漿のコロナ患者への治療効果をなくす」からであると誤って伝えている主張が拡散されています。これは正確ではありません。

米赤十字社Q&Aページより抜粋

つまり、米赤十字社は製剤の需要が満たされていることから2021年6月で回復期血漿の採集を中止しているが、受け入れをしていなかった理由が「ワクチンが抗体を一掃する」であるという主張を否定している。

FDAが許可

ウイルスに対する抗体は、実際そのウイルスに感染した人だけでなく、ワクチンを接種した人も獲得できる。そのため、ワクチン接種者の血漿からも感染者と同様の効果の回復期血漿が採取できるかが注目されていた。

米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナワクチンがまだ臨床試験段階だった2020年11月に公開したガイダンスで、臨床試験でワクチンを接種した人の回復期血漿は免疫反応の質が不確実で採集には適さないとしていた。しかし、ワクチンの公衆への接種が翌12月に認可・開始された後、2021年1月にガイダンスを更新、現在ではワクチンを接種した人でもそれ以前に感染したなどの条件を満たせば回復期血漿を提供できるとされている。

一方の米赤十字社は、FDAのガイダンス改訂後も回復期血漿の献血でワクチン接種者を受け入れていない。このことについて米赤十字社公式Twitterアカウントは、複雑なシステム更新が必要なことや、緊急性の高い免疫不全を持つ患者への対応に遅れが生じることを理由に挙げている

「ワクチンが抗体を一掃する」とする主張を放送したKMOVも、AFP Fact Checkの取材に対しこれを「不正確な情報」だったと認め、ウェブサイト上の記事は更新された。KMOVは、記者が赤十字社のコメントを誤解したことが問題の原因だったとしている。

ワクチン接種後の通常の献血は

では、回復期血漿以外の通常の献血についてはどのようになっているのだろうか。米赤十字社はQ&Aページで次のように述べている。

Q: Are individuals who received a COVID-19 vaccine eligible to give blood, platelets and plasma? 
A: Yes, you can donate blood after getting a COVID-19 vaccine, as long as you are symptom-free and feeling well at the time of the donation.

筆者訳)質問:COVID-19のワクチンを接種した人は、全血、血小板、血漿の献血ができますか?
回答:はい、COVID-19のワクチンの接種後も献血時に症状がなく健康であれば献血していただけます。

米赤十字社Q&Aページより抜粋

また、日本赤十字社は、承認当初(2021年2月~)は新型コロナワクチンを接種した人からの献血を一時的に中止していたが、その後(同5月~)ファイザー社製ワクチンについては48時間を経ていれば献血可能と変更。他社製ワクチンについても基準が示され、現在の基準2022年11月~)では、多くのワクチンで接種後一定期間を経れば献血可能とされている。

このように日本赤十字社の基準は状況に合わせて順次変更されていたが、海外ではこうした文脈が欠如したまま、2021年5月の段階で「日本赤十字社がワクチン接種者からの献血を拒否している」とミスリーディングな情報が拡散されたこともあった。

以上のように、米赤十字社はいくつかの理由から新型コロナワクチン接種者から回復期血漿の提供を受け入れていなかったことは事実だが、通常の献血の受け入れは行っている。検証対象のツイートはワクチン接種後の全ての献血が受け入れられないかのように述べているため、「不正確」と判定する。

詳細は先に挙げたAFP Fact CheckFactCheck.orgのファクトチェック記事も参照のこと。

(高倉佳子、大谷友也)

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