検証対象

ブログ記事の添付画像(2022年5月12日)

判定

不正確

判定の基準について

2021年の年間死亡者数がそれまでの年と比べて増加しているというおおよその傾向は正しいが、数値に関しては実際より過剰である。

ファクトチェック

「日本国内の死亡者数の推移」と題するこの2つのグラフは、大阪府内の医師が知人から送られてきたものとしてブログで紹介。2021年の死亡者数がそれまでの年に比べて急増しているように見えることについて、医師は「これをコロナ死としたいのでしょうが、2021年に何があったのか考えれば答えは明確」と述べている。

この医師はブログやTwitter上で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に疑問を呈する投稿を頻繁に行っていて、このグラフについても2021年の新型コロナワクチン接種開始が死亡者数増加をもたらしているという意図で掲載されているようだ。

このブログ記事を紹介する医師自身のTwitterアカウントからのツイートは、約3200RTを獲得し拡散されている。

棒1本が12ヶ月分の数値

画像中にも書かれているように、このグラフは厚生労働省の人口動態調査を基に作成されている。月別のデータは、本稿執筆現在は2021年(令和3年)11月分が最新となっている。

まず、右側の棒グラフを見てみよう。注意すべきなのは、ここで示されているのはグラフのタイトルにあるように「当月を含む過去1年間の死亡者数」であるということだ。つまり、1本の棒はそれぞれ直近12ヶ月分の死者数を表していることになる。

実際のデータは厚労省サイトからPDFファイルまたはExcelファイルで見ることができる。例えば、2021年11月の場合、「143万8877人」という数値は2011年12月~2021年11月の12ヶ月の総死亡者数にあたる。普通よく見るグラフのように1本の棒が1ヶ月分の数を表していると認識してしまうと、実際の数とは大きなずれが生じることになる。2021年11月の単月の死亡者数(概数)は、実際には12万1856人だ。

問題のグラフが基にしているデータ。厚労省「人口動態統計月報(概数)令和3年11月分」p.5より(赤枠強調は筆者による)
1ヶ月ごとの死者数を表すデータ。厚労省「人口動態統計月報(概数)令和3年11月分」p.4より(赤枠強調は筆者による)

2021年の全国の死亡者数がそれまでの年と比べて多いという大まかな傾向については、どちらの数値を用いても同様に読み取ることはできる。ただし、検証対象の棒グラフでは縦軸の0から12万4000までの部分が省略されており、そのことを表す波線などの記号も無いため、増加の割合が誇張されている恐れもある。

144ヶ月分が1年に

左側の「年間死亡者数」と題された折れ線グラフは、同じ「当月を含む過去1年間の死亡者数」のデータの1~12月を足した数値で作られている。前述のように、このデータは各月における直近12ヶ月の総死亡者数を表しているため、ここで1年分として合算されている数値の中にはいわば12ヶ月×12ヶ月=144ヶ月分の数値が含まれていることになる。その結果、グラフには年1600万人以上という非現実的な「死亡者数」が現れてしまっている。

実際の死亡者数推移は?

では、実際には全国の年間死亡者数はどのようになっているのか。実は、2021年までの各年の死亡者数は、自ら計算しなくても厚労省の最新の人口動態統計の確定数および速報数から直接知ることができる。これらを基に、折れ線グラフを正確なものに描き直すと下図のようになる。

2017~2021年の日本の年間死亡者数

左側の縦軸の数値は大きく変わるが、2021年の死亡者数が例年より多いという傾向に大きな変化は無い。実際、2021年の年間死亡者数145万2289人(速報)は前年より約4.9%多く、戦後最多となっている(参照)。

検証対象のグラフは、死亡者数の推移について結果的に概ね正しい傾向を示すことはできているが、実数に大きな乖離があり、事実に即した部分とそうでない部分が混じっているため「不正確」と判定した。

増加の主因は高齢化と新型コロナか

また、死亡者数増加の原因をワクチン接種にあると捉えるのは難しい。そもそも日本では高齢化の進行に伴い、死亡者数は毎年のように過去最多を更新している。2020年の減少は2009年以来11年ぶりのことだった。

2000~2021年の日本の年間死亡者数

2020年に死亡者数が減少したのは、感染症への警戒から新型コロナ以外の肺炎やインフルエンザなどによる死者が大幅に減少したためと指摘されている。一方2021年は、外出控えによる運動不足からの心不全などが増加し、さらにデルタ株の流行で新型コロナでの死者が約1万5000人に上った。

加えて、人口動態統計では速報数には日本に住む外国人や海外に住む日本人の数が含まれているが、確定数ではこれらが除かれるため、2021年の数値はこれによりやや多めになっている可能性がある(参照)。

(大谷友也)

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