検証対象

VAERS(ワクチン有害事象報告制度)に登録された流産・死産の件数。このチャートを見てもまだ新型コロナウイルスの方が怖いですか?胎児が殺されています。
(※画像付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年11月7日、約1400RT)

判定

ミスリード

判定の基準について

VAERSの有害事象登録は、ワクチン接種との因果関係の有無にかかわらず誰でも行うことができる。流産・死産報告の登録数が急増したのは事実だが、これはワクチンを接種した人の全体数が増えていることなどが要因と考えられ、接種が原因で流産・死産が起きたことを証明するものではない。

ファクトチェック

英語で「年ごとの流産・死産の報告数」と題されたこのグラフによれば、2020年までのワクチン接種後の流産・死産報告数は最大で年200件台程度なのに対し、2021年は4000件近く、2022年も2000件近くに達している。

グラフの引用元は、民間運営のウェブサイト「OpenVAERS」だ。OpenVAERSは、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)と食品医薬品局(FDA)が管理するワクチン有害事象報告システム(VAERS)のデータを可視化するプロジェクトで、データには新型コロナウイルス感染症ワクチンを含むあらゆるワクチンにおける有害事象が含まれる。サイト上のグラフは随時更新されているが、ツイートで引用されたのはその時点での最新のものである

なお、CDCでは妊娠20週までの胎児の死亡を流産(miscarriage)、それ以降を死産(stillbirth)と定義している

実際のデータは?

実際にVAERSのデータベースから流産・死産の数を検索してみると、具体的な数値にはかなりのずれがあるが、2021年から登録が急増しているという傾向自体は間違っていないようだ。

データベースから「Abortion Spontaneous(自然流産)」と「Stillbirth(死産)」の項目を検索すると、2019年は前者が38件、後者が15件の合計53件の登録だ。一方で、2021年はそれぞれ2503件・104件と、50倍近い合計2607件が登録されている。

VAERSデータベースより、2019~2022年の自然流産の報告登録件数
同上、死産の報告登録件数

OpenVAERSのグラフが示す件数はこれよりもさらに多く、具体的にどの症例項目を抽出した結果なのかは定かでない。また、VAERSの元データも随時更新されるため、検索結果はその時によって異なる可能性がある。

因果関係が無くても登録可能

VAERSは、アメリカで認可されたワクチンの安全上の問題をいち早く発見するための早期警告システムで、接種後に発生した有害事象を誰でも自発的に報告することができる(参照)。

有害事象(adverse event)とは、ワクチン接種など薬物投与の後に起きたあらゆる好ましくない・意図しない事象を指す用語だ。接種と事象の間に前後関係があれば全て有害事象に含まれ、接種が原因か否かという因果関係は考慮されない。交通事故や落雷のような明らかにワクチンと無関係なケースであっても、接種の後で起きた事であれば「有害事象」として扱われることになる(参照)。

VAERSのガイドラインには以下のように書かれている。

A report to VAERS generally does not prove that the identified vaccine(s) caused the adverse event described. It only confirms that the reported event occurred sometime after vaccine was given. No proof that the event was caused by the vaccine is required in order for VAERS to accept the report. VAERS accepts all reports without judging whether the event was caused by the vaccine.
筆者訳:一般に、VAERSへの報告は、記載された有害事象を特定のワクチンが引き起こしたことを証明するものではありません。報告された事象がワクチン接種後のある時点で発生したことのみを確認するものです。VAERSが報告を受理するのに、その事象がワクチンによって引き起こされたという証明は必要ではありません。VAERSは、その事象がワクチンによって引き起こされたかどうかを判断することなく、すべての報告を受理します。

VAERS「Guide to Interpreting VAERS Data」より

登録急増の要因

上で述べたように、VAERSへの登録は患者本人を始め誰でも行うことができる。また、医療従事者は一部の有害事象について、ワクチンメーカーは覚知したすべての有害事象について報告が義務付けられている(参照)。このため、アメリカのTV局WUSAの取材に答えた専門家は、1人の患者の症状が患者本人や医師、薬剤師などから重複して申告される場合もあると指摘している。さらに、アメリカのファクトチェックメディアFactCheck.orgの取材に答えたCDCの担当者によると、VAERSに報告される有害事象の中には明らかに虚偽のものもあり、それらは随時削除されているという(流産・死産に関するものが含まれているかは不明)。

ワクチンを接種した人数自体が増えたことや、連日の報道でワクチンに対する注目度が高まったことも、有害事象登録が増えた要因として考えられる。2006年に子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種が始まった際には、続く2007~2008年頃にVAERSへの登録が急増。その後、接種者の数自体は増え続けたにもかかわらず、メディア報道の減少とともに有害事象の登録件数は次第に減少していった(参照)。このように、一般に新しい薬やワクチンが出回った後2年ほどの間は関心の高さから副作用・副反応疑いの報告が増える傾向が知られており、「ウェーバー効果」と呼ばれている。

流産率の研究

2020年12月から2021年2月にコロナワクチンの接種を受けた35000人以上の妊婦を対象にした調査では、コロナ前と比べて流産率の増加は認められなかった。CDCが行い2021年8月に発表した別の研究でも、以下のように指摘されている。

A new CDC analysis of current data from the v-safe pregnancy registry assessed vaccination early in pregnancy and did not find an increased risk of miscarriage among nearly 2,500 pregnant women who received an mRNA COVID-19 vaccine before 20 weeks of pregnancy. Miscarriage typically occurs in about 11-16% of pregnancies, and this study found miscarriage rates after receiving a COVID-19 vaccine were around 13%, similar to the expected rate of miscarriage in the general population.
筆者訳:v-safe(※訳注:接種者向けの健康報告システム)の妊娠レジストリの現在のデータを用いたCDCの新しい分析では、妊娠初期のワクチン接種を評価しましたが、妊娠20週以前にmRNA COVID-19ワクチンを接種した約2500人の妊婦に流産リスクの増加は認められませんでした。流産は通常は妊娠の約11〜16%で発生しますが、COVID-19ワクチン接種後の流産率は約13%で、一般集団で予想される流産率とほぼ同じであることが研究で分かりました。 

CDCプレスリリースより

以上のように、コロナワクチン接種開始後にVAERSで流産・死産の報告数が急増したというのは事実だが、このことはコロナワクチンが流産・死産の原因であるという根拠になるわけではない。今回検証対象とした上述のツイートは、コロナワクチンがこれらの事象の原因であるということを強く示唆する表現で、データの解釈を誤解させるものとなっているため、「ミスリード」と判定する。

同様の検証はAP通信ロイター通信Health Feedbackなどのファクトチェック記事でも行われているので参照されたい。

(大谷友也、小俣杏香)

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