検証対象

🇬🇧GBニュース 「決して許さない、決して忘れない」 ファイザーが公聴会でコロナワクチンが感染を防ぐかどうかのテストをしていないことを認めた みんなを守るために打つというのは歴史的なデマだった ワクチンによる副作用や家族の死で苦しんでいる人がいる ワクチンを推奨した者たちを決して許さない
(※動画付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年10月14日、約1万RT)

判定

不正確

判定の基準について

ファイザーの担当者が新型コロナウイルスワクチン供給開始前に試験していなかったと言ったのは正確には「感染」ではなく「伝播」の予防効果だが、これは当初から公開されていた事実で、公聴会で初めて認めたわけではない。臨床試験は元々「発症」の予防効果とワクチンの安全性を示すために行われた。また、「感染」や「伝播」の予防効果も後のデータにより現在では確認されている。

ファクトチェック

検証対象ツイートの添付動画は、イギリスのニュースチャンネルGBNewsによる2022年10月12日の動画(同チャンネルの番組「Dan Wootton Tonight」からの抜粋)に、投稿者が日本語の字幕を付けたものだ。この中では、キャスターのマーク・ドーラン氏が以下ように発言している(抜粋)。

But as a spokesperson from Pfizer admitted in the Dutch Parliament this week, the vaccine was never tested for transmission, in other words, stopping you giving COVID to others. So what the authorities told us about stopping the spread with a jab was a total lie.
筆者訳:しかし、ファイザーの広報担当が今週オランダ議会で認めたように、このワクチンは伝播(transmission)について、言い換えるとあなたが他人に新型コロナウイルス感染症をうつすのを阻止することについては試験されていませんでした。したがって、ワクチン接種によって感染拡大を止めるということについて、当局が私たちに言っていたことは全くの嘘でした。

GBNews「Mark Dolan reacts to Pfizer admitting that the vaccine was never tested for transmission」(10月12日)より

ファイザー幹部の発言

ドーラン氏が言う「オランダ議会」でそのような出来事があった事実は確認できない。しかし、10月10日の欧州議会では、ファイザーの国際先進国市場担当プレジデントであるジャニーン・スモール氏がオランダの欧州議会議員ロブ・ロース氏の質問に以下のように答える場面があり、ドーラン氏の発言はこのことを指しているものと推察される。

ロース氏(15:22:54~)
So I will speak in English so there are no misunderstandings. Was the Pfizer Covid vaccine tested on stopping the transmission of the virus before it entered the market? If not, please say it clearly. If yes, are you willing to share the data with this committee? And I really want straight answer: yes or no. And I’m looking forward to it.
筆者訳:誤解が起きないよう英語で話します。ファイザーの新型コロナウイルスワクチンは市場投入の前に、ウイルスの伝播阻止を試験していたのですか?もしノーなら、はっきり言ってください。イエスなら、そのデータをこの委員会で公開するつもりはありますか?イエスかノーか、明確な答えが欲しいのです。私はそれを望んでいます。
(中略)
スモール氏(15:31:45~)
Regarding the question around did we know about stopping immunization before it entered the market, no.
筆者訳:市場投入の前に私たちが免疫化の阻止について知っていたかどうかという質問についてですが、ノーです。

欧州議会「COVID-19パンデミックに関する特別委員会」(現地時間10月10日)より、強調は筆者による

スモール氏の発言中の「免疫化(immunization)」は、質問内容から「伝播(transmission)」の誤りと考えられる。

ロース氏は自らもツイートでこの発言を取り上げ、「コロナ公聴会でファイザー幹部はワクチンの伝播阻止について全く試験していなかったと認めた。『他者のためにワクチンを打とう』というのは全部嘘だった」などとするコメントと共に動画を投稿、本稿執筆時点で14.7万件のリツイートを獲得している。

「伝播」は元々試験の対象でない

ファイザー製の新型コロナウイルスワクチン(ビオンテックとの共同開発)は、臨床試験を経て2020年12月にアメリカの食品医薬品局(FDA)に緊急使用が承認され、その後全世界で供給と接種が本格化した。

スモール氏の発言は、この緊急承認前の臨床試験において「伝播の阻止」を実証していなかったということだが、これは当初から明らかにされていたことであり、今回ファイザーが初めて「認めた」わけではない。臨床試験は元々「伝播」ではなく「発症」の予防効果、そしてワクチンの安全性の確認を目的として行われたからだ。

「伝播(transmission)」とは、既に感染し体内にウイルスを持つ人が、他者にそのウイルスをうつすことを指す。ウイルスが体内に取り込まれ定着・増殖する「感染」とは別の概念だが、「伝播する=感染させる」であるという定義上、日本語では「transmission」が「感染」と訳されることも多く、注意が必要だ。

ファイザーワクチンの臨床試験で確認された効果(筆者作成)

FDAによるファイザーワクチン緊急承認時のプレスリリースを見ると、「伝播」の予防効果が確認されていないことはこの時既に明記されている。

Among these participants, 18,198 received the vaccine and 18,325 received placebo. The vaccine was 95% effective in preventing COVID-19 disease among these clinical trial participants with eight COVID-19 cases in the vaccine group and 162 in the placebo group. Of these 170 COVID-19 cases, one in the vaccine group and three in the placebo group were classified as severe. At this time, data are not available to make a determination about how long the vaccine will provide protection, nor is there evidence that the vaccine prevents transmission of SARS-CoV-2 from person to person.
筆者訳:これらの参加者のうち、18,198人はワクチンを、18,325人はプラセボ(訳注:偽薬)を接種した。これらの臨床試験参加者においてCOVID-19(訳注:新型コロナウイルス感染症)の症例はワクチン群で8件、プラセボ群で162件であり、ワクチンはCOVID-19の予防に95%有効だった。これら170件のCOVID-19の症例のうち、ワクチン群の1件とプラセボ群の3件が重症と分類された。現時点ではワクチンがどのくらいの期間防御を与えるかを結論付けるデータは入手できておらず、ワクチンがSARS-CoV-2(訳注:新型コロナウイルス)の人から人への感染を防ぐというエビデンスも無い

アメリカ食品医薬品局(FDA)「FDA Takes Key Action in Fight Against COVID-19 By Issuing Emergency Use Authorization for First COVID-19 Vaccine」(2020年12月11日)より、強調は筆者による

「95%有効」とあるのは、ウイルス感染後の咳や高熱などの症状の発現、すなわち「発症」に対する予防効果を指している(その後の追加試験により、正式承認時には91%に更新)。

また、ファイザーのアルバート・ブーラCEOも、FDA緊急承認直前(2020年12月)のアメリカのTV局NBCのインタビューで同趣旨の発言をしている。

Bourla said it’s still unknown whether people who’ve been vaccinated could still be carriers of the virus, able to transmit it to others.
I think this is something that needs to be examined. We are not certain about that right now,” he said.
筆者訳:ブーラ氏は、ワクチン接種を受けた人々が依然としてウイルスの保有者となり他の人に感染させることができるかどうかはまだ不明であると述べた。「これは調査の必要があることだと思います。現時点ではそれについて私たちは確信を持っていません」と彼は言った。

NBC News「3 vaccine executives say that after approval, distribution will be the main challenge」(2020年12月4日)より、強調は筆者による

実際、ファイザーが提供している承認前試験の概要その詳細においても、述べられているのはワクチンの発症予防効果と安全性についてのみであり、伝播予防効果を確認したとは書かれていない

試験結果をまとめた論文においても同様で、論文要旨では更なる研究が必要な項目の一つとして「このワクチンが無症状の感染や未接種の人への伝播を防ぐか否か(Whether the vaccine protects against asymptomatic infection and transmission to vaccinated persons)」が挙げられている。

承認手続きの通例

ワクチンがウイルスの伝播を防ぐかどうかの検証を臨床試験で行っていないことは、承認手続き上も問題があるわけではない。FDAが2020年6月に定めたワクチンの開発・承認申請プロセスのガイドラインや、その解説ページでは、そもそも伝播予防効果の確認を求める記述は無い

新型コロナウイルスに限らず、一般にワクチンの伝播予防効果は発症予防等に比べて見えにくく、実証に時間がかかるとされている(参照)。科学雑誌「Science」の2022年3月の記事では、腸チフスワクチンの例を挙げ、伝播を防ぐような間接的な効果の推定は通常ワクチン承認後に行われると説明している。

伝播予防の確認も進む

しかしながら、後の接種の広がりにより多くのデータが集まったことから、現在では伝播予防効果も様々な研究で確認されている。

例えば、2022年2月に科学誌「The New England Journal of Medicine」で発表された論文日本語版要旨)では、イングランドにおける感染者データを分析し、ファイザーワクチン(BNT162b2)の接種により一定程度のウイルス伝播の減少が認められたことを報告している。ただし、減少の度合いはアルファ株に比べデルタ株で少なく、ウイルスの変異によって効果の大きさに差が出ることが示唆されている。

他にも、ワクチンの伝播予防効果を表す様々な研究結果が発表されている。詳細はアメリカ疾病対策予防センター(CDC)の解説(「Infections in fully vaccinated persons: clinical implications and transmission」の項)や、CDCとアメリカ感染症学会(IDSA)が出資するCOVID-19 Real-Time Learning Networkの解説(「What is known about the impact of COVID-19 vaccination on SARS-CoV-2 transmission?」の項)を参照されたい。

また、臨床試験時点で確認されていなかったもう1つの効果である感染(ウイルスの体内での定着・増殖)の予防については、日本の厚生労働省によるまとめ(2021年6月第40回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料)が詳しい。

ファイザーワクチンの臨床試験で確認された効果(再掲)と現在確認されている効果(筆者作成)

コロナワクチンのどんな効果が現時点でどこまで確認されているかという重要な情報が、これまでしばしば適切に説明されてこなかったのは事実だ。アメリカのジョー・バイデン大統領は、「ワクチンを接種した人がコロナウイルスを他者に感染させることは無い」と断定するような発言を複数回行い、ファクトチェックメディアのPolitiFactに言い過ぎを指摘されている(参照12)。

まとめ

「ファイザーが公聴会でコロナワクチンが感染を防ぐかどうかのテストをしていないことを認めた」とする検証対象のツイートは、ファイザー幹部の実際の発言に基づいてはいるものの、「感染」と「伝播」を区別していないのに加え、伝播を防ぐ効果が臨床試験の対象外なのは元々公表されていた事実であることから、「不正確」であると判定する。

また、発症の予防効果は承認前に試験済みであり、感染と伝播の予防効果は後の研究によって現在までに確認されている。

本件に関連する海外のファクトチェック記事としては、Health FeedbackAP通信FactCheck.orgPolitiFactなどのものが挙げられる。日本での事例と違い「感染」と「伝播」の混同は起きていないが、上述の欧州議会議員ロース氏の発言などが検証されている。

(大谷友也)

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