検証対象

プーチン大統領、ロシア全土で5Gを禁止、すべてのタワーを破壊

一般ユーザーのnote記事タイトル(2023年8月6日)

判定

誤り

判定の基準について

この記事の出典は「ユーモア、パロディ、風刺を含む」と表明しているサイトである。ロシア政府は現在も5Gを推進する政策を続けている。

ファクトチェック

5G(第5世代)通信は、近年各国で普及が進められている次世代の通信技術だ(参照)。一方で、健康への影響の不安から、「5Gの電波でムクドリが大量死した」「5Gが新型コロナウイルスを拡散させている」といった根拠の無い主張が拡散されることもたびたび起きている。

コンテンツ投稿サイトnoteに投稿されたこの記事は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が5G技術の安全性に対する懸念から5Gタワー(基地局を指すと思われる)の設置を禁止、国内にある全ての5Gタワーを既に破壊したと述べている。

ジャーナリストの船瀬俊介氏によるX(旧Twitter)での投稿が2300回以上再投稿されるなど、記事はSNS上でも広く拡散されている。

ソースは「ユーモア、パロディ、風刺を含む」サイト

このnote記事が出典として挙げているのは、「Real Raw News」という一見報道メディア風のサイトの8月5日付の記事(アーカイブ)である。しかし、Real Raw Newsは概要ページの免責事項で次のように書いており、記事の内容が事実であることを保証していない。

Information on this website is for informational and educational and entertainment purposes. This website contains humor, parody, and satire. We have included this disclaimer for our protection, on the advice on legal counsel.
(筆者訳:このウェブサイト上の情報は、情報提供、教育、エンターテイメントの目的のためにあります。このウェブサイトにはユーモア、パロディ、風刺が含まれます。私たちはこの免責事項を私たちを保護するため、法律顧問のアドバイスに基づいて掲載しています。)

Real Raw News「About Us」(アーカイブ)より抜粋。太字強調は原文ママ

世界各国のニュースサイトなどの信頼性を格付けしている機関「NewsGuard」は、2021年1月にReal Raw Newsに対する評価を行っている。それによると、NewsGuardがReal Raw Newsに編集方針を尋ねるメールを送ったところ、「これは風刺サイトで、(事実とフィクションを見分ける精神的手段を持たない)狂信的なトランピストの狂気を暴くものです」という返信があったという。トランピストとはドナルド・トランプ元大統領の熱狂的な支持者を指す言葉だ。記事内容の正確性などと合わせて審査した結果、NewsGuardはReal Raw Newsの信頼性に100点満点中20点(5段階中最低のカテゴリー)という評価を下している。

アメリカのファクトチェックメディア「PolitiFact」による2021年9月の記事でも、Real Raw Newsが数多くの誤った内容の記事を掲載していることが指摘されている。

これに対しReal Raw Newsは概要ページ(アーカイブ)の中で、NewsGuardなどを名指ししながら、「『ファクトチェッカー』は主流メディアおよびバイデン政権下の犯罪的な国防総省の手先である」などとする批判を展開している。

ロシアは5Gを推進

実際、ロシアの現在の5G政策はどのようになっているのだろうか。

国営メディア・タス通信の2023年3月の記事によれば、ロシアのマクスト・シャダエフ デジタル発展・通信・マスコミ相は 、国内の人口100万人以上の都市で2025年に5G通信ネットワークの試験運用を行うと発表。また、既にいくつかの地域で5Gが「実験モード」で始動していると述べている。

6月には、ミハイル・ミシュスチン首相が2035年までの電気通信産業の発展目標を発表。この中には、ハイテク機器製造に対し国から35億ルーブル(当時のレートで約59億円)の補助金を支給するなど、国内通信網のLTE・5Gへの移行を積極的に推進するための施策が含まれている。

Real Raw Newsが「5G禁止」の記事を公開した8月5日以降も、ロシア政府の5G推進の姿勢に変化の様子は無い。8月6日にはデジタル開発省の副大臣が中国や南アフリカとの連携分野の1つとして5Gを挙げているほか、7日にもミシュスチン首相が、5Gネットワークへの移行を促すため更に35億ルーブルの予算を確保したと発表。これまでに計約120億ルーブルが割り当てられているという。

以上のように、ロシア政府は現在も5G推進の政策を続けていることが確認できるため、5Gが禁止されたというのは「誤り」と判定する。

Real Raw Newsの記事に対しては、ロイター通信SnopesLead Storiesなどが同様の検証を行っている。

(大谷友也)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事を読んでよかった、役に立ったと思われた方は、ぜひ「ナットク」やシェアボタン(右下)をクリックして、サポーターになっていただけると嬉しいです。
記事で気になるところがありましたら、こちらからコメントください。
新しいファクトチェック記事のお知らせメールを希望する方はこちらで登録できます。