検証対象

ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島のアクショノフ首長は19日、同日早朝にクリミア東部の演習場で火災が起き、近隣住民2千人超を避難させる計画だと交流サイト(SNS)で発表した。死傷者はなかったとした。一方、ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は同日、SNSに「クリミアでの作戦が成功した」と投稿し、ウクライナによる攻撃だったことを認めた。「露軍は大損害を受けたが隠している」とも指摘した。

産経ニュース記事「クリミアの露演習場で火災 ウクライナ、攻撃認める」 (2023年7月19日)より

判定

誤り

判定の基準について

7月19日のロシア軍演習場の火災については、ブダノフ氏になりすました偽アカウントが「作戦が成功した」とする投稿をしているが、ブダノフ氏本人や情報総局の公式アカウントがウクライナ軍による攻撃を認める投稿をした形跡は無い。

ファクトチェック

ロシアが併合し実効支配を続けるウクライナ南部クリミア半島のロシア軍演習場で、2023年7月19日、火災が発生した。ロシアが「クリミア共和国」首長に任命している親ロシア派幹部セルゲイ・アクショノフ氏は同日、周辺住民2000人以上の避難を計画していると通信アプリ・Telegramで発表。火災の原因は調査中とも述べた

ウクライナ軍による攻撃の可能性も指摘される中、産経新聞のWeb版である産経ニュースは同日、「クリミアの露演習場で火災 ウクライナ、攻撃認める」と題する記事を公開アーカイブ)。ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長が19日に「SNSに『クリミアでの作戦が成功した』と投稿し、ウクライナによる攻撃だったことを認めた。『露軍は大損害を受けたが隠している』とも指摘した」とした。

同じく19日、共同通信も「【速報】クリミア火災は、ウクライナの軍事作戦」とする記事を公開アーカイブ)。「ウクライナ・クリミア半島のロシア軍演習場での火災について、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は19日『作戦は成功した』と通信アプリに投稿し、軍と情報総局による軍事作戦だったと明らかにした」としている。

共同通信の記事は、京都新聞沖縄タイムスなど、全国の地方版などにも配信されている。

公式に認めた形跡無し

ブダノフ氏の投稿があったとして産経ニュースや共同通信が言及する「SNS」や「通信アプリ」が、具体的にどのサービスを指すかは明らかにされていない。

情報総局のウェブサイトには7月19日付で、信頼すべき公式の情報源として、情報総局とブダノフ氏が持つTelegramやInstagramなどのSNSアカウントのリストが公開されている。しかし、この中のいずれのアカウントも、本稿執筆日現在で19日の演習場攻撃を認めるような投稿をした形跡は見当たらない。

情報総局長の偽アカウント

産経・共同の両記事が参照したと思われるのが、Telegram上で「ウクライナ国防省情報総局長キリロ・ブダノフ少将」を名乗る正体不明のアカウントだ。

このアカウントは、ウクライナ軍の戦果などに関する一見公式情報のような文章や画像・動画を連日投稿している。19日の投稿アーカイブ)では、火災の様子を映した動画(SNS上で既に投稿されているのと同じもの)と共に、「占領下のクリミアで作戦は成功した。敵は被害の程度や死傷者の数を隠している」などと述べられていて、産経・共同の報道内容と一致している。

ブダノフ氏を名乗るTelegramアカウントの投稿

このアカウントは上述の公式アカウントリストには掲載されていない。また、ウクライナの複数のメディアは情報総局に取材し、このアカウントは偽物であるというコメントをそれぞれ得ている(参照12)。

また、偽情報対策を担当するウクライナ政府の戦略コミュニケーション・情報安全保障センターは19日、「ブダノフ氏はクリミアでの7月19日夜の事象についてコメントしていない」と題する声明を発表。ブダノフ氏はそのようなコメントをしておらず、このアカウントは偽物であると述べている。

問題のTelegramアカウントには現在、多数のユーザーからなりすましの通報が寄せられているとして、「FAKE(偽)」の表示が付けられている。

問題のTelegramアカウントの現在の表示。なりすましの通報に関する注意メッセージと、「FAKE」の文字が表示されている

なお、7月22日には同じクリミア半島でロシア軍の弾薬庫が爆発しているが、これについては国防省のウェブページから確認できる戦略コミュニケーション局(上述の戦略コミュニケーション・情報安全保障センターとは別組織)のFacebookアカウントが、同日「ウクライナ軍がロシア軍の石油貯蔵施設と弾薬庫を破壊した」と攻撃を認める投稿をしている。

取材に回答無し

リトマスでは、産経新聞・共同通信の両者に対し、それぞれどのような投稿を参照したのか、投稿者がブダノフ氏本人であることをどのように確認したのかなどを尋ねる取材文を送ったが、本稿執筆現在、どちらからも回答は届いていない。

上述のように、7月19日の演習場火災について攻撃を認めるような投稿をしたのはブダノフ氏の偽アカウントであり、産経・共同の両記事が参照したのはこの偽アカウントの投稿である可能性が高い。ブダノフ氏や情報総局の公式アカウントから攻撃を認める投稿は確認できず、ウクライナ政府機関も投稿を否定していることから、少なくともウクライナ側が公式に攻撃を認めたという事実は無く、両記事の記述は「誤り」であると判定する。

(大谷友也)

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