検証対象

ワクチン接種で牛が全頭死亡ーイタリア

一般ユーザーのnote記事タイトル(2023年6月3日)

判定

誤り

判定の基準について

牛の大量死は草の成分が原因の青酸中毒で、ワクチンとの関係は無い。

ファクトチェック

コンテンツ投稿サイトnoteに6月3日に投稿されたこの記事では、海外ユーザーのTwitter投稿とそこに添付された動画のスクリーンショットを引用しながら、次のように述べられている。

イタリアで実際に起きた医学的な恐怖の出来事
イタリアのピエモンテで、謎の家畜の減少が起きています。
なぜそうなったか、ご存じだろうか。
獣医師がやってきて、「流行の病気」に対するワクチンを全頭に接種したところ、全頭が死んでしまったのです。

note記事より抜粋

動画には、海外の牧場らしき所で地面に倒れた多数の牛が映し出されている。

Twitter上では6月5~6日頃にかけて、このnote記事や、同じ動画を引用したツイートが拡散。数千RTを獲得したツイートも複数ある。いずれのツイートもワクチン接種の後に牛が死んだと主張していて、「人も牛も」「流行りの病気」といった表現は新型コロナウイルス感染症を想起させるものの、何のワクチンか明言はされていない。

Twitterでの拡散例

動画の出典

この動画について確認できる最初の出典は、イタリアの大手紙「Corriere della Sera」のWeb版「Corriere.it」による2022年8月の記事だ。

記事によれば、動画の撮影場所はイタリア北部の街ソンマリーヴァ・デル・ボスコ。この街の牧場でわずか数分のうちに放牧中の牛が次々と倒れ、50頭が死んだという。

その原因について、記事は「ソルガムに間違い無い」と断言する。ソルガムはモロコシ、タカキビなどとも呼ばれるイネ科の作物で、アジアで主に栽培されるコーリャンもこの一種だ。飼料用などとして広く利用されているが、水不足によるストレスに晒されるとシアン化水素(青酸)などの有毒物質が発生することがあるという(正確にはシアン化水素自体がソルガムに含まれるわけではない。後述)。この土地では冬に備えてソルガムが作付けされていたが、牧場主はソルガムは根付かず今は生えていないと思い牛を連れて来た。実際は干ばつに強いソルガムはわずかにこの土地に残っており、牛は草を食べた直後に次々と倒れ始めたと記事は述べている。

干ばつで青酸中毒の危険が増加

ソルガムに含まれるデュリンという物質は、家畜の青酸中毒の原因になることが知られている。デュリンは動物(特に牛などの反芻動物)の体内で分解された時にシアン化水素を発生させ、これが中毒を引き起こす。デュリンはソルガムの若い草体に多く含まれるが、生育と共にその量は減少するため、十分に育った草では中毒の危険性はほぼ無いとされている(参照123)。

イタリアの公共メディア「イタリア放送協会(RAI)」や大手紙「la Repubblica」、などもこの大量死の件を報じているが、いずれも原因はソルガムに含まれるデュリンだろうと推測していて、ワクチン接種や新型コロナウイルスについての言及は無い。

日本語では、AFP通信が次のように報じている。

 ソルガムには、青酸配糖体であるデュリンが含まれているが、成長とともにその量は減少する。だが現地では干ばつが続いているため成長が阻害され、デュリンの濃度が高まったとみられている。
 同国北西部の動物予防試験所(IZS)の獣医師ステファノ・ジアンティン(Stefano Giantin)氏は「干ばつによってソルガムに多量のデュリンが含有されていたと考えている」と述べた。
 急性青酸中毒では、摂取から10〜15分で呼吸や神経、筋肉などの障害が表れ、15〜30分後に死に至る。現地で採取したサンプルからは、高濃度のデュリンが検出された。

急性青酸中毒で牛50頭死ぬ、干ばつで飼料に有害物質濃縮 伊」(AFPBB News、2022年8月19日)より抜粋

この年の夏、イタリアは北部を中心に極度の干ばつに襲われ、農作物に大きな被害が出た。ソンマリーヴァ・デル・ボスコを含む地域では非常事態宣言も発令されている(参照12)。

牛から青酸を検出

AFP通信は英語版でこの件に関するファクトチェック記事も出していて、その中で上述のIZSの獣医師・ジアンティン氏は、この牛が新型コロナワクチンを接種したことはなく、死因は青酸中毒だと述べている。また、IZSは現場で採取した植物と死亡した牛を分析し、植物からはデュリン、牛からは致死量を大幅に上回る濃度のシアン化水素を検出したと発表している

他に、ロイター通信PolitiFactFactaBufale.netなどがファクトチェック記事を公開し、いずれも牛の死因は青酸中毒だとしている。

以上のように、牛の大量死の原因が直前に食べたソルガムであることは、状況や分析結果などから十分に裏付けられていると言える。ワクチン接種や新型コロナウイルスとの関連は無く、検証対象のnote記事は「誤り」であると判定する。

なお、農林水産省によれば、2022年9月時点で、牛などの主な家畜が新型コロナウイルスに感染したとの報告は無いという。

(大谷友也)

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