検証対象

令和元年 札幌で安倍元総理の演説中に男が接近 ↓ 警官が男を排除 ↓ 左系マスコミ「表現の自由が侵害された」と抗議 ↓ 令和4年 地裁→警察の排除は人権侵害だと判決 ↓ 演説中に誰かが接近しても警察は排除出来なくなる ↓ 演説中に安倍元総理射殺 【結論】 →事件は起きるべくして起きた

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年7月8日、約5300RT)

判定

根拠不十分

判定の基準について

札幌地裁は、ヤジを飛ばした原告らに対する警察官らの排除・付きまとい行為を違法と判断したが、演説車両へ向かって走って近付いた男性を制止したことについては適法と認めている。

ファクトチェック

2022年7月8日、参議院議員選挙に向け奈良市内で応援演説を行っていた安倍晋三元首相が、背後から近寄ってきた男に銃撃され死亡するという事件が起きた。

検証対象のツイートは、令和元年(2019年)7月に札幌市内で起きた出来事と、それを巡り争われた令和4年(2022年)3月の札幌地方裁判所での裁判について言及。この時の地裁の判決が原因で、「演説中に誰かが接近しても警察は排除出来なく」なったとし、今回の安倍氏銃撃につながったと主張している。

なお、ツイート投稿時(午後1時過ぎ)は安倍氏はまだ心肺停止状態と伝えられていたため、この時点で「射殺」という表現は不適切だが、後に搬送先の病院で死亡が確認されている。

札幌での「排除」の状況

この札幌地裁の判決の詳細は、裁判所のホームページで公開されている。

2019年7月、原告の1人である男性は、札幌市内で選挙カー上で演説していた当時首相の安倍氏に対し「安倍辞めろ」などとヤジを飛ばしたところ、周囲にいた北海道警察の警察官らに体をつかまれ移動させられた(1①)。その後、車両へ向かって走り出した男性を警察官らは抱き止めて制止、車両から離れた場所へと移動させた(1②)。さらに、別の場所に移動し演説していた安倍氏に男性が再びヤジを飛ばすと、警察官らはまたも男性をつかみ移動させた(1③)。

もう1人の原告である女性は、「増税反対」などと声を上げたところを警察官らに体をつかまれ移動させられた(2①)。その後も警察官らは両側から女性の両腕に手を回すなどして聴衆エリアに近付かないよう制止し、さらに女性は別の場所を徒歩で移動している間も長時間に渡って警察官らに付きまとわれた(2②、2③)。

原告は、表現の自由を違法に侵害されたなどとして損害賠償を北海道に請求。道は、原告自身や聴衆、安倍氏らに危険が及ぶおそれのある状況だったとして、警察官らの行為を適法と主張していた。

判決の内容は?

判決で札幌地裁は、道に対し2人の原告への損害賠償を命じたが、原告の主張の全てが認められたわけではない。

上述の警察官らの行為のうち、原告男性がヤジを飛ばした際の2度の排除行為(1①、1③。判決文争点(1)(P21~)および争点(3)(P28~)参照)と、原告女性に対する排除行為・付きまとい行為(2①~③。争点(4)~(6)(P30~)参照)については、いずれも「違法」と判断されている。

一方で、安倍氏の演説車両へ向かって走り出した男性を制止した行為(1②)については、周囲の関係者や安倍氏に対する危険が及ぶ可能性があるとしても「特段不自然、不合理というものではない」と地裁は判断し、警察官職務執行法第5条の規定に照らし「適法な職務執行であったということができる」としている(判決文争点(2)(P26~)参照)。

道は判決を不服として控訴している

接近者への制止は適法と判断

検証対象のツイートでは、「男が接近 ↓ 警官が男を排除」と「警察の排除は人権侵害だと判決」を並べ、あたかも地裁判決が演説中に接近する男性を制止したことも違法としたかのように書かれているが、そうではないということである。

接近者の排除が適法と判断された以上、この判決を理由として「演説中に誰かが接近しても警察は排除出来なくなる」ということが起きるとは考えづらい。よって、このツイートは「根拠不十分」である。

(大谷友也)

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