検証対象

バイアグラが、クリスマスツリーの“垂れ下がり”を予防するという。ED治療に使う青い錠剤をモミの木に与える水に混ぜることで、枝を元気な状態に保つことができるそうだ。

Narinari.com記事「クリスマスツリーの“垂れ下がり”を予防、バイアグラで元気に」(2023年12月23日)より

判定

ミスリード

判定の基準について

記事が参照した研究は、バイアグラの添加による枝の寿命の差は統計的に有意でなかったとしている。

ファクトチェック

2023年12月23日、ニュースサイトのNarinari.comは「クリスマスツリーの“垂れ下がり”を予防、バイアグラで元気に」と題した記事を掲載(アーカイブ)。その中には次のように書かれている。

バイアグラが、クリスマスツリーの“垂れ下がり”を予防するという。ED治療に使う青い錠剤をモミの木に与える水に混ぜることで、枝を元気な状態に保つことができるそうだ。(中略)
デンマーク・オーデンセ大学病院の研究チームが、通常の水、アスピリン、シルデナフィル(バイアグラ)がモミの木の枝の“垂れ下がり”を防止するかどうかを検証したところ、バイアグラを多く与えた場合、水のみを与えたものより真っすぐに伸び、アスピリンを加えたものには効果がない結果となった。
研究誌デニッシュ・ウィークリー・ジャーナル・フォー・フィジシャンズにモーテン・ルージュ博士はこう話している。
「シルデナフィルを多く投与したグループは、より長い間枯れない傾向がありました」

Narinari.com「クリスマスツリーの“垂れ下がり”を予防、バイアグラで元気に」より抜粋

記事はライブドアニュースなどの提携媒体でも配信され、X(旧Twitter)での投稿が約6200リポストを獲得するなど大きな話題を呼んだ。

これに先立って、12月20日、イギリスのタブロイド紙The Sunも似た内容の記事を掲載している

元の論文の内容は

デンマーク・オーデンセ大学病院のモーテン・ルー(Morten Ruge)氏らのチームによるこの研究の内容は、デンマークの医学誌『Ugeskrift for Læger』掲載の論文に記されている(『Ugeskrift for Læger』誌の英語名称は正式には「The Journal of the Danish Medical Association」だが、しばしば直訳の「Weekly Journal for Physicians」という名前でも呼ばれている())。英語による概要はこちらでも読むことができる。

「クリスマス論文:モミの枝の美的寿命に対するアセチルサリチル酸とシルデナフィルの影響:三重盲検による枝のランダム化比較試験」と題されたこの論文では、アスピリンとして知られ解熱鎮痛剤などに使われるアセチルサリチル酸(ASA)や、バイアグラとして知られる勃起不全治療薬のシルデナフィルが、クリスマスツリーを長持ちさせる効果があるという、海外で一般によく語られる説を実験により検証している。

実験では、クリスマスツリーによく用いられるモミの枝60本を3グループに分け、グループごとにASA(低用量/高用量)、シルデナフィル(低用量/高用量)、カルシウム(比較用のプラセボ群)を添加。枝が「クリスマスには見苦しすぎる」状態になり取り除かれるまでの「美的生存期間(ÆL)」を計測し、合わせて大きさや重さの変化も記録した。

論文は、実験に使ったモミの枝を「治験参加者(Forsøgsdeltagere)」と表現するなど、全体的にユーモアに満ちた書き方になっている。

なお、本稿では実験で使われた植物を便宜的に「モミ」と表記するが、デンマーク語ではモミとトウヒ(モミによく似た別種で、同じくクリスマスツリーに用いられる)を区別しないため、使われたのがどちらかは論文中でははっきりしていない。

有意差は出ず

実験の結果、ASA(アスピリン)、シルデナフィル(バイアグラ)、カルシウム(プラセボ群)を添加した枝におけるÆLの平均はそれぞれ17日、21日、20日と、シルデナフィルを添加したグループが最も長かったものの、統計的に有意な差(偶然生じた可能性が十分に低いとされる差)ではなかった。また、「臨床的に重要な生存期間」とする24日を超えて生存した枝の数はそれぞれ3本(15%)、5本(25%)、5本(25%)で、こちらも統計的に有意な差は無かった。唯一、ÆLまでの間に減少した重量に有意な差が認められ、それぞれ平均11.3g、15.9g、13.6gの減少と、シルデナフィルのグループが最も多かった(TABEL 1)。

さらに、ÆLに影響する要因を調べるため、ログ・ランク検定コックス回帰分析が行われた。コックス回帰分析では、高用量のシルデナフィルを添加した枝で影響がやや強く見られたが、その差は有意ではなかった(FIGUR 2)。

これらの結果を、論文は以下のようにまとめている。

Der fandtes ingen signifikante forskelle på den egentlige ÆL, men signifikant forskel i vægttabet ved eksklusion. Ved logistisk regression så vi ingen klinisk relevant forskel i længden af ÆL. Analysen blev bekræftet af en Cox-regression. Overraskende observeredes, at højdosissildenafilgruppen havde tendens til længere overlevelse modsat alle andre forsøgsgrene. Resultatet var dog ikke statistisk signifikant.
(※筆者訳:実際のÆLには有意差は無かったが、取り除かれた時点での重量減少には有意な差があった。ロジスティック回帰分析では、ÆLの長さに臨床的に重要な差異は見られなかった。この分析はコックス回帰によって確認された。驚くべきことに、高用量のシルデナフィル群では、他の試験群と比較して生存期間が長くなる傾向があることが観察された。ただし、結果は統計的に有意ではなかった。)

The SunNarinari.comの記事では、この中の「高用量のシルデナフィル群」に関する部分だけが論文の筆頭著者であるルー氏のコメントとして引用されている。しかし、この差が統計的に有意でないことについて、The Sunでは末尾でわずかに書いているのみ、Narinari.comでは全く言及無しと、共にシルデナフィルの効果に過剰な印象を与える記述になっている。

重量の減少に有意な差があったことについては、シルデナフィルが枝を固く保ち重量が減っても見栄えを維持するという仮説が考え得るとされているが、可能性の言及に留まり、仮説の具体的な検証は行われていない。

論文著者のコメント

リトマスでは、論文の筆頭著者であるルー氏に対しメールを通じて取材し、The SunとNarinari.comの記事の内容についてコメントを求めた。以下はその返答である。

First and foremost, thank you for your interest in our study. We have worked hard on this paper and we are sorry to see our conclusions misquoted in both “The sun” and “Narinari”.
In our study, we cut off branches from fir trees and placed them in water with different doses of medicine. This means that the growth phase of the branches was stopped when the study started and therefore there is no effect on “the branches grow straigther” when given viagra.
It is also true that we found a tendency for longer survival in the group administered high doses of Viagra, but you are correct that it was not statistically significant. It is a possibility that we in our initial calculation of power for this study, overestimated how much of an effect we thought there would be, and therefore the tendency is non-significant. If a new study examined a similar effect, with more branches included in all groups, you might be able to find a significant difference, and that is also why we conclude that further research will be needed. It is of course also a very real possibility that a new and bigger study would come to the same conclusions that we did – That there is no clear effect on the longevity of fir branches even when administred high doses of Sildenafil.
(※筆者訳:まず初めに、私たちの研究に興味を持っていただきありがとうございます。私たちはこの論文に一生懸命取り組んできましたが、その結論が「The Sun」や「Narinari」で誤って引用されているのを見て残念に思います。
私たちの研究では、枝をモミの木から切り離し、異なる用量の薬を入れた水に入れました。これは、枝の成長段階は研究開始時に止まっていて、バイアグラを投与しても「枝がまっすぐに伸びる」という効果は無いことを意味します。
高用量のバイアグラを添加したグループで生存期間がより長くなる傾向を発見したこともまた事実ですが、仰る通り、それは統計的に有意ではありませんでした。本研究の最初の計算で、私たちはどの程度の効果が考えられるかを過大評価し、そのために傾向が有意にならなかった可能性があります。もし新たな研究で同様の効果を調べ、どのグループにもより多くの枝が含まれるようにすれば、有意な差が得られる可能性があるため、私たちはさらなる研究が必要であると結論付けています。もちろん、新たな大規模な研究が私たちと同じ結論、つまり高用量のシルデナフィルを添加してもモミの枝の寿命に明確な影響は無いという結論に至る可能性も、非常に現実的です。)

ルー氏は自身のFacebookでもThe Sunの記事について言及し、「ひどく誤った引用」だと述べている

以上のように、検証対象のNarinari.comの記事は、シルデナフィル(バイアグラ)を添加したことによる寿命の延びが統計的に有意でなかったことに言及しておらず、「ミスリード」と判定する。

なお、クリスマスツリーにバイアグラを与えることの効果についてはアメリカのABC Newsの2013年12月の記事でも取り上げられていて、専門家が全面的に否定している。

(大谷友也)

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