検証対象
#拡散希望RT協力お願いします 内閣府がコオロギの注意喚起を ひそかにしている。 広がれば、WEBの削除があり得るかもしれない。 魚拓推奨
一般ユーザーのTwitter投稿(2023年2月13日、約1.6万RT)
(※画像付き投稿)
判定
この資料はEUの機関が発表した情報をまとめたものであって、内閣府や食安委自身の見解ではない。4つのリスクはコオロギ食の安全性を検証する過程の一段階において挙げられたものの、その後の段階で問題無いと判断され、EUでは既に食用コオロギの販売が認可されている。
ファクトチェック
近年、養殖食用コオロギなどの昆虫食が次世代のたんぱく源として注目され、企業の参入も広がりつつある。一方で、消費者からは安全性を懸念する意見や、見た目などへの抵抗感・忌避感も根強い(参考)。Pascoブランドを展開する敷島製パンがスタートアップ企業と共同で2020年から行っているコオロギパウダーを使ったパンの販売に対しては、同社の他の商品にもコオロギが使用されるとの不確かな憶測が絡み、大きな反発もある。
上掲の検証対象ツイートは、内閣府・食品安全委員会(食安委)のページのスクリーンショット画像を添付し、その中の次のような記述を赤枠で囲って強調している。
(1)総計して、好気性細菌数が高い。
(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。
(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。
(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。
食安委がコオロギ食の危険性を指摘しているとする主張は、他にもネット上で多数見られる。2月20日には「内閣府・食品安全委員会はコオロギ食の危険性を指摘 『今後は、”Pasco”(敷島製パン)のパンは、買わない』 という方はリツイートして下さい。」などとするツイートが3.8万RTを獲得。参議院議員(無所属)の須藤元気氏、作家・ジャーナリストの門田隆将氏など、著名人によるツイートもそれぞれ約9000RT、約6000RTと大きく拡散されている。
EU機関による資料を紹介
食安委は、本当にコオロギ食への注意喚起をしているのだろうか。
スクリーンショット画像の元となったのは、食安委の「食品安全関係情報データベース」の中にある2018年9月公開のページだ。このデータベースは、食品安全に関する国際機関や国内外の政府機関等の情報を収集したもの。あくまで外部の情報を食安委が参考として集約したもので、トップページに「情報内容について食品安全委員会が確認若しくは推薦しているものではありません」との注記があるように、食安委自身の見解を示しているわけではない。
この情報は、タイトルに「欧州食品安全機関(EFSA)、新食品としてのヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)についてリスクプロファイルを公表」とあるように、欧州連合(EU)の専門機関EFSAによる2018年8月の発表の要約である。したがって、少なくとも「内閣府」あるいは「食品安全委員会」による注意喚起だという表現は正しくない。
資料の内容は
また、EFSAもコオロギ食を危険と結論付けたわけではない。当該資料はあくまで安全性を評価するプロセスの過程の一つだということに注意する必要がある。
資料は、屋内で養殖されたヨーロッパイエコオロギを人間が食べた場合にどんなリスクの可能性があるかを検討している。カビ類、寄生虫などのリスクは「低い(low)」とされた一方で、食安委のまとめにもあるように、好気性細菌数、芽胞形成菌(=耐熱性細菌)、アレルギー、重金属類の生物濃縮という4つのリスクが「中程度(medium)」とされている。リスクが「高い(high)」と判定された項目は無い。
それぞれのリスク評価の基準は以下の通り。
A hazard is ranked as ‘low’ when measures can be applied during processing and before consumption, to decrease or inactivate/destroy the hazard. In a similar manner, a hazard is ranked ‘medium’ when measures applied are insufficient to guarantee the complete removal of the hazard or important data gaps about the likelihood or the consequences of being exposed to it exist. Finally, a hazard is ranked ‘high’ when its exposure can have serious consequences or it is very likely to happen despite measures applied during processing (EFSA BIOHAZ Panel, 2012).
EFSA Journal「Novel foods: a risk profile for the house cricket (Acheta domesticus)」より
※筆者訳:ハザード(危害要因)を減少または無効化・除去するために、加工工程中や消費前に対策を適用できる場合、ハザードは「(※訳注:リスクが)低い」と評価される。同様に、適用される対策がハザードの完全な除去を保証するのに不十分である場合や、ハザードにさらされる可能性またはその結果に関する重要なデータ不足が存在する場合、ハザードは「中程度」と評価される。最後に、ハザードにさらされることが深刻な結果をもたらす可能性がある場合、または加工工程中に対策を適用してもハザードが発生する可能性が非常に高い場合、ハザードは「高い」と評価される(EFSA生物学的ハザードパネル、2012年)。
すなわち、この2018年段階の資料では、4つのリスクは完全には除去できると言い切れない、あるいはデータ不足によりはっきりしないと判定されたに過ぎず、特に危険性が高いと指摘されているわけではない。
現在はEUもコオロギ食を認可
2018年のリスク評価資料の公開から数年が経ち、EFSAによるコオロギ食の安全性の検証はさらに進展している。
2021年7月、EFSAはヨーロッパイエコオロギを冷凍・乾燥食品とした場合の安全性に関する意見書を採択、翌8月にこれを公表した(食安委による要約)。規定の基準や条件を満たす限り、十分に安全であるとする判断を示した(ただし、アレルギーの可能性についてはさらなる研究の実施を推奨)。2022年3月には、部分脱脂粉末に加工した場合の意見書も同様の内容で採択、5月に公表されている(食安委)。
2022年2月に、欧州委員会(EC)はEUでのヨーロッパイエコオロギの食品販売を認可した(食安委)。2018年の資料で示された4つのリスクは、最終的にはいずれも問題無いと判断されたことになる。
詳しくは、Smart FLASH記事より、食安委の委員で科学ジャーナリストの松永和紀氏の解説も参照されたい。
「内閣府がコオロギの注意喚起をひそかにしている」とする検証対象の主張は、当該ページは海外機関の情報のまとめであって内閣府や食安委自身の見解ではないこと、その内容も検討の一過程に過ぎず「注意喚起」というような性質ではないことから、誤った情報が含まれていると言える。一方で、その趣旨は正しく捉えられていないものの、このような記載が内閣府のサイトにあるということ自体は事実のため、全体として本主張は「不正確」(事実に即した部分とそうでない部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している)と判定する。
(大谷友也)