検証対象

種苗法ってものも改正して、なんと去年の4月1日から、自分の畑で採れた種を来年以降蒔いたら最大で懲役10年っていう風になったんですよ。

奥野卓志氏のYouTube番組での発言(2022年9月20日)

判定

ミスリード

判定の基準について

種苗法改正によって取り締まりの対象となったのは、登録品種を育成者権者の許可なく自家増殖(=自分の畑で採れた種子などを次の作付けのために活用する行為)した場合のみ。登録品種ではない一般品種や、登録品種であっても育成者権者が許可している場合は取り締まりの対象とはならない。

ファクトチェック

種苗法は植物の新品種の保護などを目的とする法律で、ブランド作物の海外流出を防ぐ必要などから2020年12月に改正法が成立、2021年4月から順次施行されている(参照)。

検証対象の発言は、今年の参議院議員選挙でも候補者を擁立した政治団体「ごぼうの党」の代表の奥野卓志氏が、新日本文化チャンネル桜のYouTube番組「【討論】日本派大集合!反国民『岸田内閣』と日本の行方[桜 R4/9/20]」内で行ったものだ。

YouTube動画の内容は一般ユーザーによってTwitterに転載され、さらにそれを歌手の加藤登紀子氏が引用リツイートしたことなどによって、広く拡散されている。

種苗法で保護されるのは登録品種のみ

自分の畑で採れた収穫物の一部を、次の作付けのための種苗として活用することを「自家増殖」という。改正種苗法では、自家増殖に関する規定は2022年4月1日から施行されている(参照)。

奥野氏の発言内容を見ると、自家増殖が全て刑罰の対象となっているかのようであるが、実際はそうではない。まず、改正種苗法の規制が及ぶ範囲はあくまで登録品種のみであり、一般品種は含まれない(種苗法第19条第1項)。

農林水産省のホームページでも、以下のように解説されている。

種苗法において保護される品種は、新たに開発され、種苗法で登録された品種に限られ、それ以外の一般品種の利用は何ら制限されません。
*一般品種とは、在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種です。

「種苗法の改正について」(農林水産省)より
※アーカイブリンクはこちら

自家増殖は一律禁止になりますか。

自家増殖は一律禁止になりません。
現在利用されているほとんどの品種は一般品種であり、今後も自由に自家増殖ができます。
改正法案で、自家増殖に許諾が必要となるのは、国や県の試験場などが年月と費用をかけて開発し、登録された登録品種のみです。そのような登録品種でも許諾を受ければ自家増殖ができます。

同上

登録品種とは、品種登録制度に従い、一定の要件に基づく審査をクリアした品種のことだ。登録品種を出願した者には育成者権が与えられ、収穫物や加工品に関する独占的な利用が認められている(第20条)。なお、権利の存続期間は25年または30年に限定されている(第19条第2項)。

登録品種の自家増殖は許諾が必要

種苗法改正により、登録品種を自家増殖する際には育成者権を持つ者の許諾が必要になった(旧法第21条第2項・第3項の廃止、pdfファイル p.10)。農水省の資料では、以下のように述べられている。

(2)自家増殖の見直し

育成者権の効力が及ぶ範囲の例外規定である、農業者が登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために当該登録品種の種苗として用いる自家増殖は、育成者権者の許諾に基づき行うこととする。(旧法第21条第2項・第3項)

「種苗法の一部を改正する法律の概要」(農林水産省)より
※アーカイブリンクはこちら

まとめると、自家増殖の可否は次の図のようになる。

イメージ図(筆者作成)

「最大懲役10年」については

種苗法第67条では、「育成者権又は専用利用権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされている。登録品種・無許可の場合に限ってであれば、検証対象の「最大で懲役10年」という部分は正しいといえる。

一般品種と登録品種の割合は?

農水省の資料によると、全品種のうち登録品種の割合は米で17%、野菜で9%などとなっており(PDFファイル p.36)、全体で見ると登録品種の割合は比較的小さい。ただし、この割合については、日本共産党の衆議院議員・田村貴昭氏が「実際はもっと多い」「特産物に力を入れている地域ほど登録品種が多く、影響が大きくなります」(しんぶん赤旗、2020年11月7日)と主張しており、多様な見方があるようだ。

田村氏のように「登録品種は農水省の見立てより実際は多い」という立場に立てば、自家増殖が実質的に一律禁止であるという主張はあり得るが、奥野氏の発言からはそのような「実質的に」という趣旨は読み取れず、誤解を招く表現となっている。

農水省の回答

リトマスでは農水省の所管部署(輸出・国際局知的財産課)に電話取材を行い、改正種苗法における自家増殖の規定について確認を行った。

Q. 改正種苗法について、登録品種で、許諾のないものを自家増殖した場合は取り締まりの対象となり、そうでないものは取り締まり対象とならない、という理解で良いか。

A. その理解で良い。付け足すと、許諾の方法として事前に手続きしてください、という育成者権者もいれば、ご自由にお使いください、という育成者権者もおり、全ての登録品種が事前手続きを求めているわけではない。例えば、県の研究センターが公開している品種などはホームページでご自由に、と書かれている品種もある(※例:農研機構ホームページ、リトマス調べ)。一方、傾向として、ブランド品種のようなものは自家増殖を行うことで病気になることもあるため、自家増殖は禁止もしくは許可制としているものも多い。品種による。

Q. 種苗法 第67条「育成者権又は専用利用権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」の罰則規定は、海外との種苗の取引だけでなく、自家増殖においても適用されるか?

A. 適用される。意図的に、禁止されている自家増殖を行った場合は罰則の対象となる。

ごぼうの党の回答

リトマスでは上記内容についてごぼうの党にも質問を送ったところ、以下のような回答を得た。

農水省の省令として356品種が自家採種禁止となっています
私の知識の出所は農水大臣をされていた山田正彦さんです
自身が弁護士でもあります
YouTubeや記事や本で確認出来ると思います
先生と何度もお会いさせて頂いて本も読ませて頂いてから話しています

「356品種が自家採種禁止」というのは、改正前の旧種苗法において認められていた自家増殖を、特定の品目の登録品種については省令によって許可制としていた経緯があり、2018年時点で指定の品目が356種に上っていたことを指していると思われる。これをさらに拡大し、全ての品目で同じ措置を行ったのが2020年の種苗法改正であるため、今回の話とは関係がない。

山田正彦氏は2010年菅直人政権時代に農林水産大臣を務めた人物で、以前から種苗法改正には反対の立場を示している(例:毎日新聞)。山田氏の出演したYouTube番組を見ると「登録された品種ですね、これについては自家採種、一律禁止」と発言しており、登録品種の種子の価格高騰、許諾料などで農家負担が増大することを懸念する旨の主張があったものの、全ての品種の自家増殖が規制されるとの発言は見つからなかった。

リトマスでは山田氏に対しても質問を送っているが、現時点では回答は得られていない。返答があり次第、本稿に追記する。

以上のように、改正種苗法により「自分の畑で採れた種を来年以降蒔いたら最大で懲役10年」とする奥野氏の発言は、全ての自家増殖が罰則対象となるかのような誤解を招くため、「ミスリード」であると判定した。

(鳥居大嗣、大谷友也)

※11月1日追記:山田正彦氏から以下のような回答が得られた。

Q. 改正種苗法における自家増殖で罰則対象となるのは、登録品種を育成者権者の許可なく行った場合のみである(その上で、農水省の主張以上に農家の負担増となる、多国籍企業に育成者権を押さえられる可能性がある)との認識で間違いないか?

A. その通りです。ただし、多国籍企業に育成者権を押さえられてしまう可能性があるというのは、農業競争力強化支援法8条4項に、国の農研機構や都道府県の優良な育種知見を民間に提供するよう定められているからです。すでに、農研機構の育種知見が1980件、都道府県から420件が、民間に提供されています。

Q. 「登録品種・無許可の場合のみ」という条件が十分に伝えられず、自家増殖を行った農家が全て罰則対象となるかのような誤解が今後広まる可能性があることについて、どのように考えるか?

A. ほとんどの人が登録品種の場合だと理解している、と私は思っています。しかし登録品種の育成者権についていえば、登録品種と伝統品種(在来種)の違いには大変難しいところがあります。私の「タネは誰のもの」の映画を観ていただければわかる通り、黒千石は竜系3号として既に登録されていますが、伝統的に在来種としても広く栽培されています。裁判で争われたら、今回の種苗法改定で追加された第35条の2によって、在来種も「侵害している」とされるおそれがあります。これまでの裁判では両者ともに現物を試験栽培してその違いを鑑定して、その結果を裁判所が判断することになっていましたが、今回の種苗法改定では、侵害しているか否かはまず農水大臣が判断し、裁判で争われたら特性表だけで判断できることになりました。そうなれば、昔から在来種として栽培している人達でも安心できないのです。

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