検証対象
ウクライナ軍は18日、米IT大手グーグルが提供している、衛星画像を使った地図サービス「グーグルマップ」で、ロシア国内の軍事施設などの画像を、よりはっきりと確認できるようになったと明らかにした。
グーグルはこれまで安全保障上の配慮から、露国内の軍事施設が写っている画像の解像度を下げていたが、この規制を解除した模様だ。ウクライナ軍は公式ツイッターに、ロシアの核兵器貯蔵施設や、最新鋭戦闘機の試験飛行場などが写っている高解像度の写真を添付した。
読売新聞オンライン「グーグルマップ、ロシア軍事施設の画像『鮮明に確認可能』…配慮やめて規制解除か」(2022年4月19日)
判定
ロシアによるウクライナ侵攻以前から、Googleマップでは軍事施設の衛星画像がぼかし等の加工無しで公開されている。
ファクトチェック
読売新聞記事(アーカイブ)が言及しているウクライナ軍公式Twitterアカウントが添付した写真というのが具体的にどれを指しているかは定かではないが、Googleマップの衛星画像(航空写真)における「規制解除」について、Twitterでは一般ユーザーアカウントによるいくつかのツイートが拡散されている。そのうちの一つが、2022年4月18日(日本時間)に行われたこのツイートだ(このアカウントの詳細については後述)。
ツイートには、「Googleマップはロシアの軍事施設と戦略施設へのアクセスの開放を始めた」などとする説明と共に、4枚の画像が添付されている。
Googleマップでは、一部の国の軍事施設や原子力施設などの衛星画像が、ぼかし処理などによって隠されていることが知られている。
画像は侵攻前のもの
Googleマップでは衛星画像の撮影時期は表示されないが、同じ画像データを利用する無料ソフトGoogle Earthプロには撮影時期が記されているほか、蓄積された過去の撮影画像もさかのぼって見ることができる。そこで、このソフトを使用し、それぞれの衛星画像がいつ撮影されたものなのかを確認した。
以下の3枚については、ツイートに添付されたのと同一の衛星画像を特定することができた。
いずれも撮影されたのはウクライナ侵攻(2022年2月)よりも前だ。なお、②と③は本稿執筆時点で見られる最新の衛星画像だが、①はその後2022年3月にも2枚の画像が撮影されており、最新ではない。
また、以下の地点はツイートと同一のものがGoogleマップ・Google Earthプロで発見できなかったため、最新の画像を示す。
以上から分かるように、侵攻以前の衛星画像にも特にぼかし等の加工はされておらず、施設の様子を鮮明に見ることができる。
なお、ぼかしの無い衛星画像が以前から閲覧可能だったことは当時のツイートなどからも確認できる(例:①、②、③、④)。
Googleは画像の変更を否定
Googleマップの公式アカウントは、別の一般ユーザーへの返信で、「ロシアの衛星画像にぼかしの変更を加えたことは無い」と否定している。
読売新聞の記事中でも、Googleの広報担当者がロシア国営タス通信に対して「サービス内容は何も変更していない」と答えたことが触れられている。
拡散アカウントは非公式
件のツイートを行ったアカウント「UkrArmyBlog(@UkrArmyBlog)」は一般ユーザーのアカウントであり、ウクライナ軍の公式アカウント「Defence of Ukraine(@DefenceU)」は別に存在する。「UkrArmyBlog」アカウントに公式であることを示す認証バッジは表示されておらず、プロフィールにも「軍をサポートする非公式ページ」と書かれている。
ツイート当時このアカウントは「Armed Forces(@ArmedForcesUkr)」という軍公式と紛らわしい名前を使用していたが、その後現在の名前に変更されている。公式アカウント側もこのアカウントにたびたび言及していた事実があるが、両者の関係は不明だ(参照)。
ウクライナ軍公式アカウントがGoogleマップに関するツイートを行った、あるいはリツイートした形跡は見当たらないため、読売新聞が記事中で「ウクライナ軍は公式ツイッターに(中略)高解像度の写真を添付した」と述べているのが何を指すのかは不明である。
情報検証JPでは読売新聞に対しメール取材を行い、「公式ツイッター」とはどのアカウントのことかや、ウクライナ侵攻以前から画像が公開されていることについての見解などを尋ねたが、「取材・報道の過程に関する質問には従来、お答えしておりません」との回答であった。
読売新聞の記事は、「公式ツイッター」についてなど一部に確認の取れない点があったが、Googleマップがロシアの軍事施設が写る画像を規制していたとする記述について、そのような事実が無いことから「誤り」であると判定する。
他のメディアによる検証
同様のファクトチェックについては、毎日新聞やLead Storiesの記事も参照されたい。
(大谷友也、小俣杏香)