公開書簡の日本語全訳は本稿末尾に掲載しています。

1月7日、Metaは第三者ファクトチェックプログラムのアメリカにおける運用を終了すると発表しました。日本を含め、アメリカ以外の地域では現在の仕組みが当面継続されます。詳細は先日のリトマスのお知らせ記事をご覧ください。

Metaの発表を受け、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は9日、Meta社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏に宛てた公開書簡を発表しました。IFCNの加盟団体として、また現在日本で唯一第三者ファクトチェックプログラムに参加する団体として、リトマスもこの公開書簡に署名しました。本書簡にはファクトチェック活動に携わるメディアを始め、関係する世界各国の団体や個人が署名しており、その数は本校執筆現在で130以上になります。

リトマスの見解

Metaがアメリカでの第三者ファクトチェックプログラムを事前の協議無く一方的に終了したことや、提携していたアメリカのファクトチェック団体について十分な根拠を示さず政治的に偏っていると批判したことを、私たちは遺憾に思います。

本公開書簡は、ラベル付けの仕組みや、政治家をファクトチェック対象から除外していることなど、Metaのプログラムの問題点にも言及しています。私たちは、このプログラムにおいて問題のある点については改善していく必要があると考え、Metaに対してプログラムの改善を働きかけていきます。何よりもユーザーの利益となるより良い仕組み作りを目指して、私たちはIFCNなどの関連団体ともコミュニケーションを図ってまいります。

公開書簡の日本語訳

拝啓 ザッカーバーグ様

9年前、私たちはあなたに向け、Facebook上の誤った情報によって引き起こされる現実世界での危害についての書簡を書きました。これに対しMetaは、何百万ものユーザーをデマや陰謀論から守るのに役立ってきたファクトチェックプログラムを作成しました。今週、あなたは「過剰な検閲」への懸念を理由に、アメリカでこのプログラムを終了すると発表しました。この決定は、オンライン上の正確な情報の推進における10年近くに及ぶ進歩を逆戻りさせる恐れがあるものです。

2016年に始まったこのプログラムは、オンラインにおける事実の正確性を促進する強力な一歩でした。フィード内の誤った情報や誤解を招く情報の拡散を減らすことで、人々がFacebookやInstagram、Threadsでポジティブな体験をするのに役立ちました。ソーシャルメディア上のほとんどの人たちは、自身の生活に関する決定を下したり、友人や家族と良い交流を行ったりするために、信頼できる情報を求めていると私たちは信じているし、それはデータに表れています。拡散を遅らせるためにユーザーに誤った情報について知らせるということを、検閲無しで行うのが目的でした。ファクトチェッカーは表現の自由を強く支持していて、私たちはそのことを繰り返し述べてきたし、昨年のサラエボ声明(※訳注:リトマスもこれに署名しています)でも公式に述べています。何かがなぜ事実ではないかの理由を言う自由もまた、言論の自由なのです。

しかし、あなたはこのプログラムが「検閲のツール」になったと言い、さらに「とりわけアメリカにおいては、ファクトチェッカーはこれまであまりにも政治的に偏りすぎており、彼らは作り上げてきた以上の信頼を破壊してきた」と述べています。これは誤りであり、私たちは今日の状況のために、また歴史的記録のために、これを正したいと思います。

Metaはすべてのファクトチェックパートナーに対し、国際ファクトチェックネットワークによる審査を通じて、厳しい非党派性の基準を満たすよう求めました。これは政党や候補者と提携しないこと、政策への支持表明をしないこと、そして客観性と透明性への揺るぎないコミットメントを行うことを意味します。それぞれのニュース組織は、独立した評価やピアレビューを含む、年1回の厳格な審査を受けています。Metaはこれらの基準に疑問を呈するどころか、その厳格さと有効性を一貫して賞賛してきました。わずか1年前には、MetaはこのプログラムをThreadsに拡張しています。

Metaがファクトチェッカーにコンテンツやアカウントを削除する能力や権限を与えることは決して無かったにもかかわらず、あなたのコメントはファクトチェッカーが検閲に責任を負っていたと示唆しています。オンライン上の人々はしばしば、Metaによる行為に関してファクトチェッカーに対し非難や嫌がらせをしてきました。あなたの今回のコメントは、こうした認識を間違いなく助長することでしょう。しかし現実には、ファクトチェッカーによって誤りとみなされたコンテンツがどのようにランクダウンやラベル付けされるべきか、決定したのはMetaのスタッフです。長年にわたり、複数のファクトチェッカーが、どうすればこのラベル付けを改善してより押しつけがましくないものにし、検閲のように見えることすら避けられるかをMetaに提案してきましたが、Metaがそれらの提案に従うことは決してありませんでした。さらに、Metaは予防的措置として、たとえ既知の誤りを拡散した場合であっても、政治家や候補者はファクトチェックから除外していました。その一方で、ファクトチェッカーは、政治家も他の人々と同様にファクトチェックされるべきだと言ってきました。

ファクトチェッカーや独立した研究者たちがより多くのデータを再三要求したにもかかわらず、長年にわたりMetaはプログラムの結果について限られた情報しか提供しませんでした。とはいえ、私たちに分かる限りでは、このプログラムは効果的でした。研究は、ファクトチェックのラベルが誤った情報への信念やシェアを減少させていることを示しています。また、あなた自身の議会での証言でも、あなたはMetaの「業界をリードするファクトチェックプログラム」を誇っていました。

あなたはXのものと似たコミュニティノートプログラムを始める計画だと述べています。私たちは、Xが実証したように、この種のプログラムがポジティブなユーザー体験をもたらすとは考えていません。研究によると、多くのコミュニティノートは、正確性の基準や証拠よりもむしろ幅広い政治的コンセンサスに依拠するため、一度も表示されていません。それでも、コミュニティノートが第三者ファクトチェックプログラムと共存できないとする理由はありません。これらは相互に排他的ではありません。専門的なファクトチェックと連携して働くコミュニティノートモデルは、正確な情報を広めるための新しいモデルとして強力な可能性を持つでしょう。そのようなニーズは大いにあります。ソーシャルメディアプラットフォームが詐欺やデマに満ちていると考えるなら、人々はそこで時間を費やしたり、ビジネスをしたりしたいとは思わないからです。

今回の件は私たちにアメリカの政治的文脈を想起させます。あなたの発表のタイミングは、ドナルド・トランプ次期大統領の当選認定の後であり、そして来るべき政権に対するテック業界からの広範な反応の一部として行われています。トランプ氏自身も、あなたの発表は「おそらく」彼があなたに対し行った脅しへの反応だろうと述べています。私たちのファクトチェックコミュニティの一員であるジャーナリストたちの中には、彼らが活動する国の政府からの同じような脅しを経験している者もいるので、私たちはこの圧力に抵抗するのがいかに難しいかは理解しています。

ファクトチェックプログラムを2025年に終了するという計画は、今のところは、アメリカにのみ適用されます。しかし、Metaは極めて多様で民主主義と発展の段階もさまざまな100を超える国々で、同様のプログラムを行っています。これらの国々の中には、政情不安選挙介入群衆による暴力、さらにはジェノサイドまでも引き起こす誤情報に対し、非常に脆弱な所もあります。もしMetaが全世界でこのプログラムを停止すると決定したら、現実世界における危害がさまざまな場所で起きることはほぼ確実です。

今こそまさに、公的サービスとしてのジャーナリズムへのさらなる資金提供の必要性が明確になっています。アメリカでも世界でも、共有された現実と証拠に基づいた議論を維持するために、ファクトチェックは不可欠です。慈善事業セクターは、重要な時期にジャーナリズムへの投資を増やすことができる機会を持っています。

最も重要なのは、Metaの第三者ファクトチェックプログラムを終了するという決定が、正確で信頼できる情報が優先されるインターネットを望む人々にとって一歩の後退であると、私たちが信じているということです。私たちは、今後数年の間に何らかの形でこの後れを取り戻せることを願っています。私たちはMetaと、あるいは他の、日々の生活で人々が十分な情報に基づく判断をするのに必要な情報を提供するツールとしてファクトチェックに取り組むことに関心を持つあらゆるテクノロジープラットフォームと、再び協力する準備があります。

真実へのアクセスは言論の自由を促進し、コミュニティに自らの選択と価値観を一致させる力を与えます。ジャーナリストとして、私たちは報道の自由へのコミットメントを確固として続け、真実の追求が民主主義の礎として存続できることを確実にしていきます。

敬具

(※以下署名者略)