検証対象

(略)プーチン大統領、ロシアの病院に毒物を売り込もうとしたモデルナ社製mRNAインフルエンザワクチン販売員3名に死刑命令
(略)リアル・ロー・ニュースが入手した情報によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今週、モデルナ社のmRNAインフルエンザワクチンを販売するためロシアに入国した同社の販売員3名に対し、死刑を命じた。彼らはモスクワとサンクトペテルブルクの病院にワクチンを出荷する意図があったという。(略)

一般ユーザーのTelegram投稿(2026年8月12日、約3000回閲覧)

判定

誤り

判定の基準について

元となった記事は風刺サイトの創作であり、プーチン氏がワクチン販売員に死刑を命じた事実は無い。

ファクトチェック

2026年8月5日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、モデルナ社が開発したインフルエンザ用メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン「mFLUSIVA」(mRNA-1010)について、50歳以上の全ての成人への使用を承認した(FDA文書モデルナ発表)。

その後、SNS上では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がモデルナ製mRNAインフルエンザワクチンを販売しようとした販売員3人に死刑を命じたとする投稿が拡散された。検証対象の投稿は通信アプリTelegramで行われ、「Real Raw News」からの情報として、リンクと共に記事の日本語訳が書かれている。

また、このTelegram投稿のリンクを載せたX投稿と、さらにそれを引用したX投稿は、それぞれ約2400リポストと約1800リポストを獲得している。

Xでの拡散例

出所は風刺サイト

投稿の情報源であるReal Raw Newsの記事は、「プーチン、ロシアの病院に毒を売り込もうとしたモデルナ製mRNAインフルエンザワクチンの販売員に死を命じる(Putin Orders Death to Moderna mRNA Flu Shot Reps Trying to Peddle Poison to Russian Hospitals)」というタイトル。モデルナ製mRNAインフルエンザワクチンの販売員と疑われた3人の人物について、プーチン氏が殺害を命じ、ロシア連邦保安庁(FSB)が自殺に見せかけるなどして暗殺したという内容だ。

しかし、このような事実は存在しない。Real Raw Newsは架空の内容をニュース記事風に掲載する風刺サイトだ。

Real Raw Newsの「About Us(私たちについて)」のページには、次のような免責事項が書かれている。

Information on this website is for informational and educational and entertainment purposes. This website contains humor, parody, and satire. We have included this disclaimer for our protection, on the advice on legal counsel.
(※筆者訳:当サイトの情報は、情報提供・教育・娯楽を目的としています。当サイトにはユーモア、パロディ、風刺が含まれます。私たちはこの免責事項を、法律顧問の助言に基づき、私たちを保護するために記載しています。)

Real Raw News「About Us」より。太字は原文ママ

アメリカのファクトチェック団体PolitiFactによる2021年9月の記事によれば、Real Raw Newsは新型コロナウイルスワクチン関連や著名人の逮捕・処刑など、特にQアノン系の陰謀論と親和性の高い架空記事を多数掲載している(※Qアノン:闇の組織に世界が操られていると主張し、ドナルド・トランプ米大統領を救世主とみなすネット発の運動)。

Webサイトの信頼性評価を行っているNewsGuardでは、調査の過程でReal Raw Newsの関係者と思われるアドレスにメールで質問を送ったところ、「これは風刺サイトで、(事実とフィクションを判別する精神的手段を持たない)狂信的なトランプ主義者たちの狂気を晒すものです」と返信があったという(NewsGuardのレポート)。

アメリカのファクトチェックサイトSnopesも、「アメリカ海軍の特殊部隊がヒラリー・クリントン氏を逮捕」「ロシア軍がジョー・バイデン氏の別荘を爆撃」などのReal Raw Newsを情報源とする多数の主張を検証し、多くを「False(誤り)」や「Labeled Satire(表示のある風刺)」と判定している。

ロシア関連の架空記事シリーズ

今回の「ワクチン販売員」に関するReal Raw Newsの記事は、FSBエージェントの「アンドレイ・ザハロフ(Andrei Zakharov)氏」なる人物の証言に基づくとされている(記事中では一部が「ジャカロフ(Zhakarov)」と誤記されており、Telegram投稿もこの表記を使っている)。

ロシア政府によりスパイに相当する「外国の代理人」に指定されているジャーナリストのアンドレイ・ザハロフ(Andrei Zakharov)氏(参照)と同姓同名のこの人物は、過去にもReal Raw Newsのロシア関連の記事に繰り返し登場(例12)。これらの記事はファクトチェック記事でも誤りを指摘されている(AFP通信Euronews)。

ロシアでmRNAワクチンは禁止されていない

Real Raw News記事には、「プーチン大統領はmRNAを嫌っている」「ロシアではmRNAが認められていない」といった「ザハロフ氏」の証言も載っているが、これも事実ではない。ロシアではmRNA技術を使ったワクチンの研究開発が国の機関によって行われている。

2026年7月、国営メディアのタス通信は、国立ウイルス学・バイオテクノロジー研究センターで開発が進むmRNAワクチンについて報じている。このワクチンは、新型コロナウイルスや季節性インフルエンザ、鳥インフルエンザなどの感染症に対し効果があるとされている。

また、保健省傘下の国立放射線医学研究センターとガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターは、共同でmRNAがんワクチンを開発中。2026年7月の国営メディアSputnikの記事によれば、人への投与は4月に既に始まっており、年内には計20人への投与が行われるという。

このように、ロシアではインフルエンザ用を含むmRNAワクチンの研究開発が国立機関の下で行われており、「mRNAが認められていない」というような事実は全く無い。

以上のように、プーチン氏がモデルナ製mRNAインフルエンザワクチン販売員に死刑を命じたとする検証対象の投稿は、風刺サイトによる架空の記事を基にしたものであり、事実ではない。よって、投稿は「誤り」と判定する。

(大谷友也)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事を読んでよかった、役に立ったと思われた方は、ぜひ「ナットク」やシェアボタン(右下)をクリックして、サポーターになっていただけると嬉しいです。
記事で気になるところがありましたら、こちらからコメントください。
新しいファクトチェック記事のお知らせメールを希望する方はこちらで登録できます。