検証対象

※ぼかし加工は筆者による。以下同

(※子供の連れ去り未遂の現場を捉えたような防犯カメラ風の映像)

一般ユーザーのYouTube投稿動画(2025年8月24日、約792万回再生)

判定

誤り

判定の基準について

これは演じられた架空の場面で、実際に起きた事件ではない。

ファクトチェック

子供を連れ去ろうとする男?

動画では、「人身売買の現場」という大きな文字の下で、海外のアイスクリーム屋らしき場所の映像が流れている。映像には日本語の音声で、危機一髪の場面で店員が機転を利かせたという説明が重ねられている。この動画はYouTubeで現在までに800万回近く再生されている。

映像は約58秒で、店で買い物をする青い服の子供と店員、そしてその傍に立つ緑の服の不審な男性の動きが映されている。

子供が買い物をしている間、その横では男性が携帯電話で通話しているような様子でうろついている(下図左)。買い物を終えた子供は歩いて店を離れるが、後部ドアを開けた状態で停まる黒い車の横を通る瞬間、様子を見ていた店員が駆け寄る。これとほぼ同時に、男性が子供の方に歩いて近付く(下図右)。

検証対象のYouTube動画より切り抜き。赤丸強調は筆者による加工ではなく、元のYouTube動画にあるもの。左は0:13、右は0:36の場面

子供は店員に肩を抱かれて男性とすれ違い、直後に男性は車のドアを閉める(下図左)。男性は車に乗って走り去るが、しばらくして同じものと思われる車が反対車線に現れる。戻って来た店員は、車を携帯電話で撮影する(下図右)。

同上。左は0:37、右は0:57の場面

同じ動画はInstagramでも投稿され、約1.3万いいねを獲得している。

Instagramの投稿

元の投稿者が演出と告白

動画を見ると、男性が子供を車に連れ込もうとしたのを、店員がとっさに助けたように見える。しかし、この動画は実際の連れ去り未遂事件を捉えたわけではなく、演じられた架空の場面である。

これと同じ動画の左右が反転したバージョンは2022年頃に海外で拡散され、その際の検証により、エクアドルのクリエイターが制作し自ら出演したフィクション動画だったことが判明している。La Silla Vacía(コロンビア)、Malumatfuruş(トルコ)、Teyit(トルコ)、ロイター通信(イギリス)、Mala Espina(コロンビア)などのメディアが、この動画についてのファクトチェック記事を発表している。

このクリエイターは、「買い物をした子供が男性の車に連れ込まれそうになるのを店員が助ける」というよく似た動画を複数投稿している。Mala Espinaによると、問題の動画のほかに少なくとも3本の同様の動画が存在していて、いずれも同一とみられる3人の人物、黒い車、店が登場している。La Silla Vacíaは、少なくとも2つの動画で車のナンバーが一致していることも指摘している。

La Silla VacíaMalumatfuruşロイター通信によれば、このクリエイターは2022年2月に問題の動画を投稿した後、Facebookのライブ配信やInstagramの投稿で、動画に描かれている状況はすべて演出されたものであることや、自身も子供を助ける店員役を演じていたことを明らかにしている。子供が直面し得るさまざまな危険への意識を高めるために、この種のコンテンツを制作していると説明したという。現在、こうしたライブ配信や投稿は削除または非公開になっており直接確認はできないが、上述のような多くのファクトチェック記事でその内容は記録されている。

また、2023年4月にこのクリエイターが、La Silla Vacía やロイター通信などのファクトチェック記事のスクリーンショットとともに、この動画をかつて自分が演じたものだと表明した投稿は、現在でも見ることができる。

以上のように、この動画は実際の連れ去り未遂や人身売買の場面ではなく、演技によるものであることから、検証対象の投稿は「誤り」であると判定する。

(大谷友也)

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