検証対象

農林水産予算を10倍???23兆円にするってことですよね…。やっぱり野党は無責任。
(※画像付き投稿、NHKニュースアカウントの投稿を引用)

小泉進次郎氏(農林水産大臣・衆議院議員)のX投稿(2025年7月3日、約1700リポスト)

判定

誤り

判定の基準について

野田氏が「10倍にしたい」と言ったのは新規就農支援の予算で、農林水産関係の全予算ではない。

ファクトチェック

農林水産大臣で衆議院議員(自民党)の小泉進次郎氏はXアカウント上で、参議院議員選挙の公示日である7月3日、各党党首らの演説内容を伝えたNHK記事から、立憲民主党代表・野田佳彦氏の演説についてスクリーンショット付きで言及。「農林水産予算を10倍???23兆円にするってことですよね…。やっぱり野党は無責任。」と批判した。

2025(令和7)年度の農林水産関係予算は総額で約2兆2,706億円(参照)。小泉氏は、野田氏がこの予算を10倍にすると言ったと解釈したようだ。

野田氏発言は就農支援への言及

NHK記事は、野田氏の演説内容を要約して次のように伝えている。

立憲民主党の野田代表は、宮崎県国富町で「物価高から、あなたを守り抜く。最も大きな要因となっているのはコメの値上がりだ。コメ離れも心配だが、作っている人たちが離農をするような状況になったら日本の食料安全保障を確保することはできない。もっと農業人口が増えるようにするための予算を10倍にしたい。食料品にかかる消費税は8%から0%にしようと思う。財源はしっかりと提示しており責任ある減税を果たしていきたい」と訴えました。

NHK記事「参議院選挙2025 公示 各党党首らが訴えたのは」(2025年7月3日14時2分更新版)より。太字強調は筆者による

これによれば、野田氏が「10倍にしたい」と言ったのは「もっと農業人口が増えるようにするための予算」であり、農林水産関係の全予算というわけではない。

NHK記事はその後更新され、野田氏を含む各党首らの演説のノーカット動画などが追加されている(小泉氏が投稿したスクリーンショットは更新前の版)。また、野田氏の演説の動画と全文は翌4日付の別の記事にも記録されていて、その内容をより詳しく知ることができる。立憲民主党の公式YouTubeチャンネルの動画でも、同じ演説の様子を見ることができる。これらから、「予算10倍」に関する野田氏の実際の発言は以下のようなものだったと確認できる。

農業の基盤は、農地と農業者の数だと我々は思います。農地は減らさない。減らさない。維持をするために、直接支払いをする。そして、農業者は減らさないどころか、新規就農にもっと力を入れて、もっと農業人口が増えるように、我々は予算を10倍にしたいと思っています。
新規就農支援、これまでは対象が49歳以下でした。49歳以下って、これ狭すぎませんか、的が。都市部でも農業やりたいっていう人いっぱいいます。50代、60代いますよ。いっぱい元気な人が。そういう人にもチャンスを作るために、65歳以下まで年齢要件引き上げました。など、若い人がチャレンジする場合、ご夫婦で農地を、まさに耕して仕事しようと思っている人たち、いるならば、加算はしていこうと思っています。思い切って増やそうと思っています。

野田氏演説より(NHK記事動画7:21~、立憲民主党YouTube動画15:26~)。太字強調は筆者による

このように、野田氏の実際の発言からしても、「10倍にしたい」のは新規就農支援のための予算であると読み取れる。野田氏はこの後の部分で、新規就農支援と「食農支払制度」というもう一つの施策を合わせた必要金額を「1兆円以上」と述べている。

農林水産関係の全予算を10倍にして「23兆円にする」といった発言は、演説の全文を通して見当たらなかった。

「就農支援資金10倍」は立憲の公約

この就農支援の予算を10倍にするという政策は、立憲民主党の選挙公約にも記載されている。

立憲民主党が6月10日に発表した「参院選挙政策」では、農林水産政策の一つとして、「就農支援の資金を10倍に強化・拡充」と書かれている。

立憲民主党2025年参院選挙政策より。下線強調は筆者による

また、4月24日に発表された「新たな新規就農対策」では、就農準備資金、経営開始資金、経営発展支援事業、雇用就農資金の支援増額が掲げられ、その総額は約2,500億円とされている。

立憲民主党「新たな新規就農対策」より。赤枠強調は筆者による

就農準備資金、経営開始資金、経営発展支援事業などを含む新規就農者育成総合対策は、2025(令和7)年度予算概算決定で約107億円、2024(令和6)年度補正予算で約54億円が計上されている(p.3参照)。雇用就農資金は、2025(令和7)年度予算で約30億円、2024(令和6)年度補正予算で12億円の内数となっている。これら全てを内数を無視して単純合計すると200億円程度となり、「新たな新規就農対策」の約2,500億円はこの10倍強ということになる。

小泉氏投稿は誤り

以上のように、野田氏が「10倍にしたい」と言ったのは新規就農支援の予算(約107億円)のことであり、農林水産関係の全予算を10倍にして「23兆円にする」という趣旨ではないことから、検証対象の小泉氏の投稿は「誤り」と判定する。

小泉氏の投稿に関しては、投稿翌日の7月4日に産経新聞が「発言誤読し批判か」として報じているほか、野田氏自身も「言うわけないでしょう」と否定している(朝日新聞報道)。

双方の取材回答

リトマスでは、今回の投稿内容に関して、立憲民主党と小泉氏国会事務所の双方に対し書面で取材を行った。

立憲民主党の回答は以下の通り。

野田代表の発言は、新たな新規就農対策について、現在200億円程度の対策が講じられておりますが、これを2,500億円程度(およそ10倍)にすると説明したものです。農林水産省の予算「約2兆3千億円」を10倍にするという趣旨ではありません。

また、小泉氏国会事務所の回答は以下の通り。

野田佳彦代表は以下のように「10倍」と触れた後に、農林水産予算全体の話につなげています。予算については、少なすぎると自民党を批判していますが、本予算が近年で最低なのは野田佳彦首相による予算編成で2.1兆円がファクトです。
仮に、新規就農予算を10倍という意味だとしたら財源も示していないので実現可能性は不明です。
(※筆者注:以下、野田氏演説の引用のため省略。)

(大谷友也)

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