検証対象

中国の三峡ダム ヤバくない? これって崩壊したら中国は終わるよね。
(※画像付き投稿)

一般ユーザーのX投稿(2025年4月11日、約2000リポスト)

判定

不正確

判定の基準について

この三峡ダムの写真は2020年6月に撮影されたもの。衛星写真や3D表示の特性により変形したように見えるが、現実のダムの様子を反映したものとは言いがたい。

ファクトチェック

検証対象の画像は、中国・湖北省の長江にある三峡ダムを上空から写した衛星写真を、Google Earth上で表示したものだ。2枚目の画像で見るとダムはまっすぐだが、1枚目の画像では大きくゆがみ変形しているように見える。

三峡ダムは2009年に完成した巨大ダムで、水力発電所としての発電量は世界一である。このダムをめぐっては、洪水などによる決壊を危惧する声が以前からたびたび上がっている(参照)が、これまでのところ実際に決壊したことは無い。

変形説は2019年頃から

衛星写真上で三峡ダムが変形しているように見えるという話は、過去には2019年7月にも中国で拡散されている(参照)。この時使われた画像は検証対象のものとは別で、2018年2月撮影の衛星写真を基にしたGoogleマップの画面だ(Google Earthと写真データは同一)。

2019年7月、Twitter(現X)で拡散された中国語の投稿のスクリーンショット(「環球網」記事より。モザイク加工は環球網による)

当時、三峡ダムを運営する国営企業は、実際のダムの変形は数mm程度で安全な範囲内であると発表(参照)。中国の独立系メディア「財新」は、変形は衛星写真の画像補正エラーによるものだとする専門家の見解を伝えている(参照12)。

検証対象画像は2020年6月撮影

衛星写真を根拠とした三峡ダムの変形説はこれ以降もたびたび拡散された。検証対象の画像は、こうした顛末を伝えた2020年7月の集英社新書プラスの記事に掲載されているものと同一で、これは2020年6月撮影の衛星写真を使ったGoogle Earthの画面である。

集英社新書プラス記事「世界最大『三峡ダム決壊』で、中国壊滅危機は本当か?」(2020年7月21日)より

これら議論を呼んだGoogleマップ・Google Earthの衛星写真は後に修正されたようで、現在確認できる2018年2月および2020年6月の写真では、波の形などから元データは同一と思われるものの、ダムは上掲の写真と違ってほぼまっすぐに見える。

現在Google Earth上で見られる2018年2月(左)と2020年6月(右)の三峡ダムの衛星写真

問題の衛星写真の撮影日から現在まではそれぞれ約7年と約5年が経過しているが、前述のように、これまでのところ三峡ダムに決壊などの重大な問題が起きたという情報は無い。

衛星写真の変形現象

GoogleマップやGoogle Earthなどの衛星写真では、三峡ダムに限らずこうした変形はよく見られる。日本国内の道路や橋などでも、本来まっすぐであるはずの部分がゆがんで表示されている箇所は多数見つかる。

衛星カメラや航空カメラを使って上空から地上を撮影すると、中心から離れた部分は斜めに写ることになるが、地図上ではこれを補正し常に真上から写したような画像(オルソ画像)に変換することで、できる限りずれを無くしている(参照)。この時、ダムのような高低差のある構造物では局所的な変形が起きやすい(参照)。

GoogleマップやGoogle Earthでは、3Dモードによって地形や建物などを疑似的に立体化し、さまざまな角度から見ることもできる。しかし、このモードでは変形はさらに極端になり、実際の構造物の形とはかけ離れた見た目になることも少なくない。

八ッ場ダム(群馬県長野原町)。3Dモードは「レイヤ」>「詳細」>「地球表示」から

問題の三峡ダムの衛星写真も、こうしたオルソ画像や3Dモードの特性から同様の変形が起きたものと考えられる。検証対象の画像は、かつてGoogle Earth上で実際に見られた衛星写真ではあるものの、現実のダムの様子を反映したものとは言いがたいため、「不正確」と判定する。

(大谷友也)

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