検証対象

ケニア🇰🇪WHO脱退希望:「我々はもはやWHOを信頼する事はできない」(※後略)
(※動画付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2025年1月29日、約8700リポスト)

判定

誤り

判定の基準について

ケニアがWHOを脱退すると公式に発表した事実は無い。投稿の動画はケニアの医師が国際保健規則(IHR)改正案への反対を各国の大統領に対し呼びかけているもので、ケニア政府の意見を表したものではなく、WHO脱退を主張するものでもない。

ファクトチェック

2025年1月20日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は国際連合の専門機関の1つである世界保健機関(WHO)から脱退する大統領令に署名した。国連によれば、脱退は1年後の2026年1月に発効となる(参考12)。

このニュースを受けてSNSでは、他にもいくつかの国がWHOを脱退しようとしているという情報が拡散した。そのうちケニアに関するものが検証対象の投稿である。投稿には、スーツを着た男性が「我々はもはやWHOを信用することはできません、閣下(We cannot afford to trust WHO anymore, Your Excellency.)」と語りかけ、かつてWHOが推進した破傷風ワクチンにより不妊症が増加したと述べる様子を映した動画が添付されている。

まとめサイト「もえるあじあ」はこの投稿などを引用し、「【!】ケニア、WHO脱退希望『我々はもはやWHOを信頼する事はできない』 イタリア、WHO脱退のための法案提出!」というタイトルの記事を公開。公式アカウントによるX投稿は約2900リポストを獲得している。

「もえるあじあ」記事(2025年1月29日)より

動画はケニア人医師の個人的意見

しかし、ケニア政府がWHO脱退を希望しているという報道や公式の声明などは確認できない。

AFP通信の検証記事によれば、この動画は元々2024年5月にYouTubeのチャンネルにアップロードされている(現在は削除)。つまり、アメリカがWHO脱退を発表するよりも前のものだ。

動画に映る人物はケニアの産婦人科医師ワホメ・ンガレ氏。ンガレ氏は2024年5月にウガンダのエンテベで行われた「家庭の価値観と主権に関するアフリカ議会間会議」で登壇し、アフリカ諸国の指導者等に対しいわゆる「パンデミック条約」に向けた国際保健規則(IHR)の改正案を拒否するように呼びかけ、改正案はWHOを助言のための機関から統治機関に変えるものだと批判した。AFP通信はWHOやワクチンについてのンガレ氏の主張をそれぞれ検証し、「ミスリーディングであり、科学的証拠に基づかない」と否定している。しかしながら、動画の中でンガレ氏は「WHO脱退」という主張をしていない。

この動画を「ケニアのWHO脱退」と結びつける主張は英語圏などでも広まっていて、これに対しンガレ氏はFacebookに次のように投稿し反応している。

There seems to be widespread confusion. Some people don’t realize that although I’m Kenyan, my remarks were directed at the President of #Uganda regarding the #pandemic treaty.I genuinely wish Kenya would withdraw from the World Health Organization World Health Organization (WHO)World Health Organization (WHO)World Health Organization (WHO), but I doubt any African president would have the courage to make such a bold move.(※原文ママ。後略)
(※筆者訳:混乱が広がっているようだ。私はケニア人だが、私の発言は #パンデミック 条約に関して #ウガンダ の大統領に向けられたものであることに気づいていない人もいる。私は純粋にケニアが世界保健機関(WHO)から脱退することを心から望んでいるが、アフリカの大統領でそのような大胆な行動をとる勇気のある人はいないだろう。)

ワホメ・ンガレ氏のFacebook投稿(2025年1月31日)より

ケニア政府は脱退の意思無し

WHO加盟国の一つとして、ケニアはこれまで伝染病対策、予防接種、衛生状態の改善などの分野で、物資やスタッフの教育、金銭面の支援といった協力をWHOから受けてきた(参考)。

ケニア保健省のパトリック・アモス大臣は、アメリカのWHO脱退決定を受けて「WHOはケニアの保健システムに不可欠な専門知識、訓練、資金を提供している。アメリカの撤退はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の進展を遅らせ、COVAXのようなプログラムを危険にさらし、手頃な価格のワクチンへのアクセスを制限する可能性がある」と述べて懸念を表した。

また、同省のスルタニ・マテンデチェロ保健副局長は、「私たちは国家として、WHOへの支援と国外援助を再開するようアメリカに請願する国際的な努力に貢献しなければならない」と述べ、アメリカに再考を促す考えを示している

また、ケニア保健省のX公式アカウントは2025年2月にWHOケニア代表との協議について投稿している。同月、WHOケニア代表も、アメリカの撤退と活動停止命令がケニアに与える影響についてノルウェーや日本の大使とともに議論をしたとXに投稿している。

アメリカのWHO脱退決定後のケニア保健省やWHOケニア代表などの発表に「ケニアのWHO脱退」を示唆するような内容は見当たらない。

以上のように、ケニア政府はアメリカのWHO脱退に同調しておらず、自らもWHOとの協力を維持し続けていることから、ケニアが「WHO脱退希望」しているという投稿は「誤り」と判定する。

その他の国々は?

アメリカがWHOから撤退する方針を示した報道の後にSNSで拡散された情報の中には、ケニアの他にもマレーシア、アルゼンチン、イタリア、インドが脱退の意向を示しているという投稿もあった。

数カ国にWHO脱退の意向があるとする投稿。左から一般ユーザーの投稿2つ(約1万リポスト、約6600リポスト)と、まとめサイト「NewsSharing」の投稿(約3200リポスト)

ケニア以外の国についても、正しい情報なのかそれぞれ見ていこう。

アルゼンチン:脱退表明

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、2025年2月5日にアメリカに続く形でWHOからの脱退を表明した。よって、アルゼンチンに関してはWHOを脱退しようとしているという情報は正しい。ただし、アメリカと同じくWHOからの脱退には1年近くの時間がかかると見られている(参考)。

イタリア:脱退のための法案が提出される

イタリアのマッテオ・サルヴィーニ副首相は1月24日、自らが党首を務める連立与党「同盟(Lega)」が、WHOからの脱退の法案を提出したと発表した。第一党「イタリアの同胞(FDI)」を率いるジョルジャ・メローニ首相はこの動きにコメントしておらず、法案通過の先行きは見通せない。

インド:脱退主張する医師の古い記事が拡散

インドのWHO脱退についてXでは、「『WHOは独立性を失った。インド政府は世界的な保健機関から脱退するべきだ』(’WHO has lost its independence, Indian govt should exit global health body’)」と題する記事のスクリーンショット画像が根拠として出回っている。

インドがWHOを脱退(撤退)するつもりであるとする投稿。左から一般ユーザー(約9300リポスト)、船瀬俊介氏(ジャーナリスト。約1100リポスト)、藤原直哉氏(経済アナリスト。約1200リポスト)の投稿

このスクリーンショット画像の元はインド紙「The Economic Times」による2023年12月の記事で、今回のアメリカの脱退表明とは関係が無い。記事はインドがWHOから脱退すべきだとする医師の提案を取り上げたものだが、現在までにインド政府によるWHO脱退の動きは無い。

同様のスクリーンショット画像を基にインドがWHO脱退を示唆したとする投稿は海外でも拡散されており、Logically FactsThe QuintNews Mobileなどが、ファクトチェックを行っている。

マレーシア:脱退主張する団体が会見

マレーシアについては、海外ユーザーの投稿を引用した投稿が拡散されている。

マレーシアがWHOを撤退するという一般ユーザーの投稿(約5700リポストと約600リポスト)

しかし、引用元の海外ユーザー投稿はマレーシアのWHO脱退を呼びかけるNGO団体「マレーシア・ムスリム消費者協会(PPIM)」の記者会見を告知するものに過ぎず、マレーシア政府が実際にWHO脱退を発表したという事実は無い。

(高倉佳子、大谷友也)

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