検証対象

ロイター通信(日本語版)記事より

11月8日、イスラエルのネタニヤフ首相は、オランダの首都アムステルダムで行われたプロサッカーの試合でイスラエル人を標的にした「非常に暴力的な事件」があったとして、救助に向けて航空機2機を派遣するよう指示した。写真はソーシャルメディアXに投稿された動画から入手。アムステルダムで8日撮影(2024年 ロイター/iAnnet)

ロイター通信(日本語版)記事「オランダでユダヤ人サポーター襲撃、イスラエルが救助機派遣」(2024年11月8日)画像キャプションより

判定

ミスリード

判定の基準について

この画像の元動画は、イスラエルのチームのサポーターによる襲撃を映している可能性が高い。

ファクトチェック

2024年11月7日(現地時間)、オランダの首都アムステルダムで行われたサッカーの試合で、イスラエルのマッカビ・テルアビブとオランダのアヤックスが対戦。これと前後して、パレスチナのガザ地区で戦闘を続けるイスラエルへの抗議デモがイスラエル人との衝突や暴動に発展し、多数の怪我人や逮捕者が出る事態となった。オランダのディック・スホーフ首相は、一連の事件を「イスラエル人に対する反ユダヤ主義的な攻撃」と非難した。アムステルダム市当局の発表によれば、当日逮捕された62人のうち、49人がオランダ在住、10人がイスラエル在住である。

事件の経過はオランダメディアNU.nlの記事に詳しい。

ロイターがキャプチャ画像を掲載

世界的な大手通信社であるロイター通信は、この一連の事件に関して、X上に投稿された動画のキャプチャ画像を掲載。8日の記事(英語版)に掲載された画像には、以下のようなキャプションが添えられている。

Israeli football supporters and Dutch youth clash near Amsterdam Central station, in Amsterdam, Netherlands, November 8, 2024, in this still image obtained from a social media video. X/iAnnet/via REUTERS
(※筆者訳:ソーシャルメディアの動画から取得したこの静止画像の中では、2024年11月8日、イスラエルのサッカーサポーターとオランダの若者が、オランダ・アムステルダムのアムステルダム中央駅近くで衝突している。X/iAnnet/REUTERS経由)

ロイター通信(英語版)記事「Israel to collect soccer fans from Amsterdam after apparent antisemitic attacks」(2024年11月8日)画像キャプションより

また、画像の直前には次のような記述もある。

One video verified by Reuters showed a group of men running near Amsterdam central station, chasing and assaulting other men as police sirens sounded.
(※筆者訳:ロイターが確認したある動画には、警察のサイレンが鳴る中、男性らの集団がアムステルダム中央駅付近を走り、別の男性らを追いかけ暴行する様子が映っていた。)

同記事本文より

ここでは襲撃している側・されている側がそれぞれどこの国の人物なのかについては説明が無いが、記事の他の部分では襲撃はイスラエル人に対して行われたもののみが言及されている。

ロイター通信は日本語版においても同日に記事を配信し、画像1枚を掲載した。キャプションには次のように書かれている。

11月8日、イスラエルのネタニヤフ首相は、オランダの首都アムステルダムで行われたプロサッカーの試合でイスラエル人を標的にした「非常に暴力的な事件」があったとして、救助に向けて航空機2機を派遣するよう指示した。写真はソーシャルメディアXに投稿された動画から入手。アムステルダムで8日撮影(2024年 ロイター/iAnnet)

ロイター通信(日本語版)記事「オランダでユダヤ人サポーター襲撃、イスラエルが救助機派遣」(2024年11月8日)画像キャプションより

キャプションには、画像中の人物たちについて国籍などの詳細は書かれていない。また、英語版と同様、記事本文ではイスラエル人に対する襲撃のみが触れられている。

また、これらのキャプチャ画像の元動画は、ロイター通信のYouTube動画でも使われている(英語版日本語版)。

各社が転載

ロイター通信が報じたこれらの画像や動画は、提携する世界各地のメディアに向けて配信され、多くのメディアがこれを転載した。

日本でも、主要メディアとされる新聞社・テレビ局・通信社の多くがこれと同じ画像・動画を使用(ロイター通信から提供されたのか不明なもの含む)。以下はウェブ上で確認できるもの(アーカイブ)だが、紙面や放送でも画像・動画が使われていた可能性がある。

動画使用の例。ANN(上段)、JNN(下段左)、FNN(下段右)よりスクリーンショット
動画使用の例。ANN(上段)、JNN(下段左)、FNN(下段右)のスクリーンショット

いずれもイスラエル人サポーターが被害となった襲撃事件を伝える流れで画像や動画が使われているが、「イスラエル側のサポーターと衝突するオランダ人の若者ら」(朝日新聞)のように、襲撃した人物・された人物のどちらがイスラエル側かについてはっきり言明していないものが多い。ただし、産経新聞は「イスラエル人への暴力事件とされる動画の場面」としている。

イスラエル人サポーターへの襲撃事件を報じた主要メディアの中でも、共同通信読売新聞は問題の画像・動画の使用は確認できなかった。

襲撃側がイスラエルサポーターか

しかし、ロイター通信が配信した動画は、イスラエル人サポーターが襲撃される様子を映したものではなく、逆に襲撃している集団の方がイスラエルチームのサポーターである可能性が高い。

元動画は、「iAnnet」こと写真家のアネット・デ・グラーフ氏が「アムステルダム中央駅前での戦い #アヤックス #イスラエル」との説明とともにXに投稿した51秒のもの(アーカイブ)。動画には、黒や黄色の服を着た数十人の集団が走って誰かを追いかけ暴行し、その後パトカーのサイレンが聞こえると離れて去って行くという様子が映っている。

デ・グラーフ氏投稿
デ・グラーフ氏のX投稿

この動画を「中東移民たちがアムステルダムの路上でユダヤ人狩りを続けている」というコメントとともに転載していた別のユーザーに対し、デ・グラーフ氏は、「これは1人のオランダ人男性に喧嘩を仕掛け叩いているマッカビサポーターの集団だ」と反論するなど、襲撃している側がイスラエルチームのサポーターだという説明をしている。

海外メディアの訂正と検証

この動画は海外でも多くのメディアに転載されていたが、一部のメディアはその後説明を訂正している。

米紙ニューヨーク・タイムズは、記事に掲載していたロイター通信の動画を削除した。同紙は削除の理由として、動画に映る人物が誰かは不明だとする訂正をロイター通信が行ったことや、デ・グラーフ氏への取材、現場を捉えた別の映像による確認を挙げている(参照:デ・グラーフ氏のX投稿)。

その他にも、フランスの放送局BFM TVや、ドイツの放送局DW Newsは、SNS上に投稿した動画の説明を訂正した。

DW Newsは、この件についてのファクトチェック記事も発表している。それによれば、アムステルダム警察はこの動画に映っている襲撃事件について目下捜査中で、加害者の身元に関する情報はまだ提供できないという。

その他にも、フランスの放送局France 24のファクトチェック動画は、襲撃側にマッカビ・テルアビブのチームカラーの黄色を身に着けた人物がいることなどを指摘している。

ドイツの調査報道メディアのCORRECTIVのファクトチェック記事では、ロイター通信の広報担当者に取材。それによれば、ロイター通信は当初問題の動画についてイスラエル当局の声明に基づいた説明を記載していたが、内容の確認ができなかったため、その後動画の説明を更新したという。

また、事件の瞬間はマッカビ・テルアビブのサポーターたちを追跡していたオランダのYouTuberによって別角度からも撮影されている。これを見ると、誰かを追いかけて走り出した集団がマッカビサポーターであることが分かる。

国内メディアも訂正・削除

リトマスでは、ロイター通信の日本語版に対し、「①ロイター通信が問題の動画についての説明を訂正したとする他メディアの記述は事実か」「②イスラエル人サポーターが襲撃されたとする事件についての記事で、襲撃側がイスラエルチームのサポーターであるとの説明無くこの動画を引用した理由は何か」「③当該記事について訂正等対応の予定はあるか」を尋ねるメール取材を行った。現在までにロイター通信から返答は無く、日本語版英語版ともに記事および掲載されたキャプチャ画像に変更は無い。

また、ロイター通信と同じ動画・画像を使用していた前述の国内各メディアに対しても、リトマスはそれぞれ取材文を送り、動画使用の理由や対応予定について尋ねた。本稿執筆時における、各社の対応状況は様々だ。

  • キャプションを一部変更朝日新聞(「オランダのアムステルダムで8日、サッカーの試合後、イスラエル側のサポーターと衝突するオランダ人の若者ら。」→「オランダのアムステルダムで8日、サッカーの試合後、衝突が起こった。」)

取材に対する返答は朝日新聞、毎日新聞、NHK、NNN(日本テレビ系列)、JNN(TBS系列)、FNN(フジテレビ系列)からあった。各社の回答内容は本記事末尾に掲載する。

説明はミスリード

以上のように、ロイター通信が自社記事に掲載および各社に配信した動画や画像は、実際には襲撃している側の集団がイスラエルチームのサポーターである可能性が高いにもかかわらず、そのことが十分に説明されていない。記事の文脈などによって、逆に襲撃されている側の人物がイスラエル人という印象を与えていることから、「ミスリード」であると判定する。

各社の取材回答(主要部分を抜粋)

二つのご質問について、まとめて回答いたします。ご指摘いただいた記事は、事件の発生当初の情報を外国メディアの記事やSNS 上の投稿をもとに報じた第一報です。また、記事に添付された写真は、ロイター通信が動画から切り取って配信したもので、現場の状況を伝える写真が必要との考えから採用しました。写真の説明はロイター通信の配信を日本語に翻訳したものですが、ロイター通信はその後、元の動画について「襲撃側の国籍を確認できない」として説明を訂正しました。お問い合わせを受け、朝日新聞は写真の説明についても訂正がないかロイター通信側に確認しました。日本時間の11 月19 日にロイター通信が「(写っている人物の)国籍を確認できない」として写真についても説明内容を訂正したため、朝日新聞もそれに合わせて同日、この写真の説明を修正しました。事件について新たにわかったことがあれば適宜、続報として報じていきます。

朝日新聞社 広報部

ご指摘があったXの動画を引用した写真は、ロイター通信が配信したものです。ロイターの写真説明では「衝突」( clash )という言葉が用いられていましたが、誰が襲撃したかについて言及はなく、弊社もそれを踏まえて写真説明を「ソーシャルメディアに投稿された、イスラエル人のサッカーファンと衝突するオランダ人の若者らとされる動画」としました。
その後、動画の中で暴力行為に及んでいるのはイスラエルのチームのファンである可能性があることが、投稿者のX上での表明や現地メディアなどの報道で明らかになりました。「イスラエル人を狙った暴動」という見出しの記事に添付する写真としては適切ではないと考え、写真を差し替えました。

毎日新聞社社長室広報 ユニット

ご指摘の画像は、サッカーの試合が行われたオランダ・アムステルダム街頭における混乱の様子を伝えるために掲載したものですが、より適切だと判断した画像に差し替えました。NHKは、引き続き、正確かつ公平・公正な報道に努めてまいります。

NHK広報局

ご指摘の映像については、映像配信会社からの配信で、アムステルダムで起きた暴行の様子として放送し、その上で、オランダ当局の「イスラエル人が襲撃された」との発表情報を伝えました。しかし15日付けで映像配信会社より、「映像所有者による証言が省略されていた」との訂正が入った為、当該映像部分については、誤解を招く可能性があるので削除致しました。

日本テレビ報道局国際部

当該映像につきましては、提供元のロイターより訂正の連絡がありましたので、削除することと致しました。ご指摘を頂きありがとうございました。

TBSテレビ報道局デジタル編集部

ご連絡いただいた記事につきまして、改めて撮影者と配信元に事実関係を確認した結果、動画の掲載を停止しました。

FNNプライムオンライン編集部

(大谷友也)

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