検証対象

投票機で大規模不具合。タッチパネルで「トランプ大統領」を選べず、カマラ・ハリスを自動的に選択させられる

まとめサイト「Total News World」記事タイトル(2024年11月1日)

判定

不正確

判定の基準について

このような不具合の報告は1件のみで、「大規模」ではない。また、この装置は投票用紙に投票先を印刷するためのもので、印刷された内容は投票前に修正できる。州当局は、最終的に動画の投稿者は意図通りに投票できたと説明している。

ファクトチェック

期日前投票に疑問を投げかける主張

2024年11月5日に投開票されたアメリカ大統領選挙について、期日前投票の公平性に疑問を投げかける情報が広がった。まとめサイト「Total News World」は、11月1日に「投票機で大規模不具合。タッチパネルで『トランプ大統領』を選べず、カマラ・ハリスを自動的に選択させられる」というタイトルの記事を公開している。Total News WorldのX投稿は約5000件、一般ユーザーによるX投稿も約3000件のリポストを獲得するなど、SNS上で広く拡散された。

Total News WorldのX投稿(左)と一般ユーザーのX投稿(右)。それぞれ約5000RPと約3000RP

トランプをタップしたのにハリスが選択される?

記事では、「ケンタッキー州の投票機は有権者にドナルド・トランプ氏の名前を選択させず、代わりにカマラ・ハリス氏を自動的に選択させられる」と主張する海外ユーザーの動画付きX投稿(削除済み)が引用されている。動画では、共和党候補のドナルド・トランプ氏の名前を選択しようと左上のチェックボックスを指で数回タップするもタッチパネルが反応せず、何度か試すうちに民主党候補のカマラ・ハリス氏が選択される様子が映っている。動画には「Thoughts?? Kentucky(筆者訳:どう思う??ケンタッキー州)」というテロップが付けられている(以下は記事内で引用されていたものと同じ動画)。

当局は大規模不具合を否定

一方、当局は大規模な不具合の存在を否定している。ケンタッキー州・州務長官の報道担当者はUSA TODAYの取材に、「これは単発的な出来事だ」「この投票用紙印刷装置や、州内のその他の問題に関して、これ以外の苦情は受けていない」と語っている。

地元紙のLexington Herald-Leaderによると、この動画はケンタッキー州ローレル郡の期日前投票初日である10月31日に撮影されたという。これを受け、郡の選挙管理事務局は、問題が起きた装置の使用を中止した。同日夕方には、郡書記官のトニー・ブラウン氏(共和党)の要請により、州司法長官事務所の捜査官が調査を開始している。

調査の結果、同様の不具合は一度だけ再現されたとブラウン氏はFacebookで報告した。この報告によると、問題の装置を用いて候補者名が書かれている枠の間をタップした際に、動画と同様の不具合が起きたという。なお、この報告に添付された動画には、再現された不具合の様子は映っておらず、装置が正常に動作している映像が映っている。

動画の投稿者は意図通りに投票

Total News Worldは、問題となった装置を「投票機」と表現しているが、この装置は投票用紙に投票先を印刷するためのもので、装置を使って直接投票が行われるわけではない。ケンタッキー州選挙管理委員会が11月1日に公表したプレスリリースによると、投票を終えるためには、この装置で投票先を選択し、投票用紙を印刷した後、読み取り機に読み込ませる必要がある(以下は、ローレル郡書記官のトニー・ブラウン氏がFacebookに投稿した投票用紙印刷装置の解説動画)。

もし、意図しない内容が印刷された場合は、その投票用紙を破棄し、新しい用紙に再度入力して印刷し直せるという。ケンタッキー州の州法の規定では、投票用紙は2回まで交換することが可能だ。実際、動画の投稿者は最終的に意図通りに投票できたと州選挙管理委員会は説明している。また、トランプ氏の次男の妻で共和党全国委員会共同委員長のララ・トランプ氏も、装置に欠陥は見付からず、有権者が正常に投票できることが確認されたとXに投稿している

取材に回答なし

リトマスは、Total News Worldに「大規模不具合」の根拠と、投票印刷装置を「投票機」と表現した理由を尋ねた。しかし、リトマスが設定した期限までに回答は得られなかった。

「投票機で大規模不具合」は不正確

Total News Worldは、装置の不具合を訴えた動画投稿を根拠に「投票機で大規模不具合」と主張している。しかし、実際には報告された不具合は、この1件のみである。また、この装置は投票用紙に投票先を印刷するためのもので、装置で直接投票が行われるわけではない。動画の投稿者も、最終的には意図通りに投稿できたと当局は説明している。つまり、投票関連の装置に不具合があったという点は事実であるものの、投票自体は最終的に意図通りに行われ、不具合の規模も大規模とは言えない。よって、「不正確」と判定する。

同じ動画については、USA TODAYロイター通信日本ファクトチェックセンター(JFC)などもファクトチェックしている。検証対象とした主張に若干の差異はあるが、おおむね「ミスリード」や「不正確」といった判定をしている。

(高倉佳子、小嶋裕一、大谷友也)

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