共和党・トランプ氏が勝利
2024年11月5日から投票が行われたアメリカ大統領選挙では、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が民主党候補のカマラ・ハリス副大統領に勝利し、次期大統領となることが決まった(参照)。
米大統領選に関しては、以前からロシアなどの他国からの偽情報による情報工作が指摘されていた(参照1、2)。今回の大統領選でも、連邦捜査局(FBI)、国家情報長官室(ODNI)、サイバーセキュリティ&インフラセキュリティ庁(CISA)が共同声明を発し、以下のような偽情報についてロシアの関与を指摘している。
FBI等がロシアの関与を指摘した偽情報
- ハリス夫妻がラッパーのディディことショーン・コムズ被告(性的暴行などで起訴)を警察の強制捜査から逃がして50万ドルを受け取った(参照:共同声明(上と同じもの)、PolitiFact記事)
他にもこの選挙に関連し拡散された誤った情報や誤解を招く情報のうち、日本で特に拡散された10件をピックアップし紹介する。
投票機で大規模不具合?
トランプ氏を選択しようとしてもタッチパネルが反応せず代わりにハリス氏が選択されたという動画が拡散されたが、実際にはこのような不具合の報告は1件のみで、「大規模」ではない。また、この装置は投票用紙に投票先を印刷するためのもので、印刷された内容は投票前に修正できる。州当局は、最終的に動画の投稿者は意図通りに投票できたと説明している。
投票用紙のハリスの箇所に小さい点?
引用された画像に写っているのはケンタッキー州の不在者投票用紙である。しかし、州の選挙管理委員会は声明で、マークがあらかじめ印刷された投票用紙に関する苦情は選管や州当局に届いていないとし、このような主張は「現在のところソーシャルメディアの隔絶の中にのみ存在する」と述べている。
また、州の行政規則の規定(Section 5. (3) (b))により、投票用紙に複数のマークをしてしまった場合でも、候補者名を丸で囲めばそちらが優先され有効票になる。さらに、州法により、誤ってマークされた投票用紙は2回まで破棄して交換することができる。声明によれば、投票用紙の交換は投票前だけでなく、投票後に読み取り機が複数のマークを検知した場合にも可能だという。
共和党所属のケンタッキー州・州務長官マイケル・アダムス氏も、Xの投稿で選挙不正の主張を否定している。
偽造投票用紙が2600枚見つかった?
トランプ氏は10月29日の演説や翌30日のX投稿で、ペンシルベニア州ランカスター郡で全て同じ人物によって書かれた2600枚の投票用紙が見つかったと主張した。
しかし、実際に不正の疑いが指摘されたのは投票用紙ではなく有権者登録申請約2500件だ。これには同じ筆跡による申請も含まれるが、記載住所の誤りなどもあり、全てが同じ人物によって書かれていたわけではない。また、申請は複数の党に対し行われていたという。申請が不正なものと判断された場合、有権者登録は受理されない。
二重投票試みたハリス支持者を逮捕・拘束?
これは偽ニュースサイトの記事を基にした情報で、事実ではない。
トランプ勝利確率87.4%?
開票の途中経過や、投票前の世論調査結果として何度か拡散されていたこの図は、予測市場プラットフォーム「Polymarket」がユーザーのベットを基に両候補の勝利確率を表したもの。
Polymarketは暗号資産を用いて現実のあらゆる出来事に対し賭けができるサイトだ。今回のアメリカ大統領選の勝敗も賭けの対象になっていて、選挙情勢を占う指標として注目されていたが、実際の得票率や世論調査結果を表しているわけではない。
ビル・ゲイツとテイラー・スウィフトがトランプ勝利ならアメリカを去ると発言?
多数の著名人や政治家の名前が「トランプが勝利したらアメリカを去ると発言した人リスト」として拡散されたが、歌手のテイラー・スウィフトさんや実業家のビル・ゲイツ氏を含め、ほとんどはそのような発言をした事実が確認できない。
トム・ハンクスが米国を離れたと発表?
俳優のトム・ハンクスさんが発表した声明とされる文章も拡散されたが、これも事実が確認できない。
ハリス得票数が2020年バイデンより1500万票少ない?
コミュニティノートでも指摘されているように、これは得票数がまだ集計中の段階(上掲投稿は11月7日)だったことによる誤解である。本稿執筆現在ほとんどの開票が終わった状態で、トランプ氏の得票は約7678万票、ハリス氏は約7425万票となっている。2020年大統領選の最終結果(トランプ氏約7422万票、バイデン氏約8128万票)と比べると、トランプ氏は約260万票増加、バイデン氏・ハリス氏は約700万票減少となる。
France24やFactCheck.orgによれば、このような途中経過の数字は民主党支持者によっても拡散されていて、逆に今回ハリス票が不正に減らされているとする主張の根拠に利用されているという。
ハリスが勝った州のほとんどが有権者ID提示を義務付けていない?
投票者に厳格な身分証(ID)要件を課すのは共和党が推進し民主党が反対している政策なので、ID提示義務がある州が共和党が強い州と重なる傾向にあるのは確かだ(参照1、2、3)。
しかし、民主党のハリス氏が勝利した19州と首都ワシントンのうち、投票時のID提示が義務付けられているのは6州。「ほとんどが義務付けていない」というほどではない。逆に、共和党のトランプ氏はID提示が義務付けられていない2州でも勝利している。
ハリスが有名人に大金支払い?
根拠の無い主張である。連邦選挙管理委員会(FEC)に提出されたハリス陣営の支出リストの中に、歌手のビヨンセさんら、名前の挙がった著名人の記録は無い。
ただし、有名司会者のオプラ・ウィンフリーさんが持つ会社に100万ドルが支払われているのはFEC記録にも残っている事実。名目はイベント制作費となっており、会社側は、ウィンフリーさん個人が受け取ったお金は無いと説明している(参照)。
(大谷友也)