検証対象
レプリコンワクチンの有効性・安全性について、どこまで担保されているのか、なぜ他国では承認されていないのに、日本が世界で初めて承認するに至ったのかについては、納得のいく回答は得られませんでした。
川田龍平氏オフィシャルブログ投稿(2024年9月21日)より
ただし、重要な事実を引き出すことができました。それはベトナムでの治験で18人が亡くなっている情報を得ていたので、これを厚労省に問い質したところ、18人が死亡していることを認めました。
判定
今回日本で承認されたレプリコンワクチンは、ベトナムでの治験において接種後18例の死亡例があるが、ワクチンとの因果関係は認められていない。
ファクトチェック
議員が定期接種中止を呼びかけ
参議院議員(立憲民主党)の川田龍平氏は、自身の公式ブログの2024年9月21日の投稿において、厚生労働省からレプリコンワクチンについてヒアリングした際の報告を掲載。ベトナムで行われたレプリコンワクチンの治験で18人が死亡し、厚労省もそれを認めたと述べられている。
このブログ記事は、川田氏が自らのXアカウントでレプリコンワクチン定期接種の中止を求めオンライン署名を呼びかけた投稿でも使われ、本稿執筆現在で投稿は約3700リポストを獲得している。
レプリコンワクチンとは
レプリコンワクチンとは、別名自己増殖型mRNAワクチンとも呼ばれ、mRNAを複製する酵素(レプリカーゼ)を利用したワクチンである(参照1、2)。日本ではMeiji Seikaファルマ社が製造する新型コロナウイルス用のレプリコンワクチン(商品名「コスタイベ筋注用」)が世界に先駆けて承認され(参照1、2)、2024年10月から定期接種対象の一つとなった(参照1、2)。
審査機構の資料
レプリコンワクチン(コスタイベ筋注用)は世界規模で治験(未承認段階の薬の臨床試験)が行われていて、その一つがベトナムでのものだ。医薬品などの審査を担う独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開している審査資料には、このワクチンについて行われた臨床試験の一覧が掲載されている。
ベトナム(試験名「ARCT-154-01」)では第Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ相試験が行われており、これらの試験は大きく「パート 1、2、3a」「パート3b」に分けられている。試験の目的には共にワクチンの安全性の確認が含まれていて、このうち前者の「パート 1、2、3a」は、登録例数は各数百例程度と比較的小規模である。一方、後者の「パート3b」は、登録例数は16107例と大規模である。
それぞれのパートでの死亡例を見ると、パート 1、2、3aでは「死亡例は認められなかった」とされている(「審議結果報告書」p.22(PDFページ番号27))が、パート3bでは以下の通り死亡例が報告されている。
Day1~Day92 における死亡例は、本剤群 5/8059 例(0.1%、低血糖、膵炎、肺の悪性新生物、咽頭癌転移、COVID-19 各 1 例)、プラセボ群 16/8041 例(0.2%、COVID-19 9 例、リンパ節腫脹、肝硬変、肝癌、大動脈解離、肺炎、アシネトバクター性肺炎、敗血症性ショック各 1 例)であり、いずれも治験薬との因果関係は否定された。Day92~Day210 における死亡例は、本剤-プラセボ群 9/7458 例(0.1%、事故死、他の特定できない死亡各 2 例、急性心筋梗塞、敗血症性ショック、外傷、口唇がん/口腔がん、悪性肺新生物各 1 例)、プラセボ-本剤群 4/7349 例(0.1%、COVID-19 2 例、頭蓋脳損傷、脳血管発作各 1 例)であり、いずれも治験薬との因果関係は否定された。
(「審議結果報告書」p.24(PDFページ番号29)、太字は筆者による)
試験パート3bでは、被験者を「ワクチン2回→プラセボ(偽薬)2回」の順で接種する群と、「プラセボ2回→ワクチン2回」の順で接種する群に分類。ワクチンからプラセボ、またはプラセボからワクチンに切り替える92日目(Day 92)の前後でそれぞれ区切り、計4パターンの死亡例が集計されている。
上掲の通り、臨床試験中の死亡例は合わせて5+16+9+4=34例ある。このうち、ワクチン接種前の死亡であるプラセボ群16例を除くと5+9+4=18例となり、川田氏のブログに記載された人数と合致している。
しかし、報告書ではいずれの例も「治験薬との因果関係は否定された」と書かれていて、ワクチン接種が原因の死亡ではないと判断されている。実際、上掲の死亡例には事故死、外傷、頭蓋脳損傷といったワクチンとの関係を想定しにくい死因も含まれている。
また、この計18例という数は割合で言うと約0.1%であり、ワクチンをまだ接種していないプラセボ群での死亡例割合(約0.2%)と比べて高いわけではない。
論文でも「関連なし」
ベトナムの臨床試験(ARCT-154-01)については、科学誌「Nature Communications」で論文として発表されている。この中でも、臨床試験中の死亡例でワクチン接種に関連するものはなかったと書かれている。なお、この論文は92日目までの結果のみを検証しているため、死亡例の数はPMDAの報告書よりも少なくなっている。
There were no deaths in phases 1, 2, and 3a, but 21 deaths occurred in phase 3b, of 5 vaccinees and 16 placebo recipients. Of these, none were related to vaccination but 10 were considered to be associated with COVID-19 infection, one in a vaccinee and nine in placebo recipients.
(「Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials」より)
(※筆者訳:フェーズ1、2、3aでは死亡例はなく、フェーズ3bではワクチン接種者5例、プラセボ投与者16例、計21例の死亡が発生した。このうちワクチン接種に関連するものはなかったが、10例はCOVID-19感染に関連していると考えられ、うち1例はワクチン接種者、9例はプラセボ投与者であった。)
川田氏と厚労省への取材
リトマスでは投稿者の川田氏に、「ベトナムでの治験で18人が亡くなっている」とするブログでの主張の根拠などを書面で尋ねた。しかし、リトマスが設定した期限までに回答は得られなかった。
また、厚労省に対しても、ベトナムの治験で18人が死亡したことを厚労省が認めたとする川田氏の主張は事実か、川田氏の質問に対し厚労省としてどのように説明したかなどを尋ねる取材を行い、医薬局医薬品審査管理課より回答を得た。回答では、川田氏のブログ投稿直後の9月24日に行われた「予防接種自治体向け説明会」における参考資料を提示した上で、「厚生労働省に照会があった場合には、審査報告書に記載している内容をお伝えしています」としている。
自治体説明会資料には、「ベトナムで実施されたMeiji Seikaファルマ社のレプリコンワクチンの臨床試験響(※引用注:原文ママ)において、ワクチン接種後に18人が死亡していたことを厚労省が認めたというのは本当ですか」という質問と、「いずれの死亡例についても、治験薬(ワクチン及びプラセボ)接種との因果関係は否定されています」「プラセボ接種後と比べて、ワクチン接種後に死亡例が増加するということは確認されていません」などとする回答が掲載されている(p.9)。
質問主意書も提出
川田氏は、10月9日提出の政府への質問主意書の中でも、ベトナムでの治験における死亡例数などについて尋ねている。これに対する政府の答弁書では、厚労省の説明と同様上記のPMDA審査報告書を参照していて、死亡例の数や内訳、ワクチンとの因果関係が否定されている旨などが書かれている。
これを受けて川田氏は、10月30日のブログ投稿でこの答弁書について報告している。ワクチンを接種した18例に加え、接種していないプラセボ群での死亡例が16例であることに触れ、合わせて「34人死亡」とするタイトルで投稿している。
投稿はミスリード
以上のように、PMDAの審査結果報告書や、試験の詳細を記した論文によれば、ベトナムでの治験においてワクチン接種後に死亡した例が18例あったこと自体は事実である。しかし、これらはいずれもワクチンとの因果関係が否定されており、ワクチン接種前のプラセボ群と比べても死亡例の割合は高くない。厚労省もワクチンと死亡例の関係を否定する立場であるため、検証対象のブログ投稿は「ミスリード」と判定する。
(景山千愛、大谷友也)