検証対象

川口市では毎月1000人ずつ人口が減り続けている。

アサ芸プラス記事「住民が『怖くて道を歩けない』と嘆く埼玉県川口市『外国人ドライバー暴走事故』続発の異常実態
(2024年10月1日)より

判定

誤り

判定の基準について

川口市が公表している統計資料に記載されている期間(1979年1月~2024年10月)に、川口市の人口が1000人以上減少している月は一度もない。

ファクトチェック

「川口市では毎月1000人ずつ人口が減り続けている」と主張

週刊アサヒ芸能のウェブ版である「アサ芸プラス」は2024年10月1日、埼玉県川口市で9月下旬に外国人ドライバーによる重大な交通事故が相次いで発生したことによって、地域住民に不安が広がっているとする記事を掲載した。記事には、川口市で起きている「異常事態」の一つとして「毎月1000人ずつ人口が減り続けている」と書かれている。しかし、その出典は示されていない。この記事や、記事を取り上げたまとめサイト(参照12)を引用した投稿は、Xで1万件を超えるリポストを獲得するなど、SNS上でも拡散している。

「(川口市について)毎月1000人ずつ人口が減り続けている」に言及する投稿。それぞれ1万リポストと1.8万リポストを獲得している

人口が1000人以上減った月は存在せず

川口市のウェブサイトでは、市の人口の月別推移が公開されている(「第3表 人口・世帯数・人口動態の月別推移」)。この資料によると、「総数(日本人+外国人)」「日本人」「外国人」のいずれの項目でも、対前月人口増減数が△(マイナス)1000人以上となっている月はない。つまり、資料に記載されている1979年(昭和54年)1月から2024年(令和6年)10月の間に、川口市で「毎月1000人ずつ人口が減り続けている」期間は存在しない。

川口市「第3表 人口・世帯数・人口動態の月別推移」より、令和6年の数値を抜粋

リトマスは、この点について川口市の統計を担当する企画経営課統計係に取材した。アサ芸プラスの記事を示したうえで、「毎月1000人ずつ人口が減り続けている」という事実があるか尋ねたところ、「そのような事実はございません。市のホームページに毎月の人口動態を掲載しています。」との回答を得た。

実在不明のアンケート

アサ芸プラスの記事には、他にも疑問がある。記事に取り上げられている「埼玉県で住みたくない街」というアンケートには、実施したとされる不動産会社の名前や実施した時期など、どのアンケートか特定できる情報が書かれていない。このアンケートでは、「住みたくない街」の1位が川口市、2位が越谷市、3位が蕨市だったとされている。しかし、ウェブ上を検索した限り、このような順位のアンケートは見つけられなかった。

治安悪化のデータも出典を示さず

さらに、「(川口市の)年間事件発生数は3800件超と、県内ワースト1位」という記述にも出典が示されていない。「年間事件発生数は3800件超」に当てはまるのは、2022年の刑法犯認知件数である。埼玉県警察が公表している市町村別の刑法犯認知件数によると、2022年(令和4年)の川口市の全刑法犯は3815件で、県内で最も多いように見える。ただし、政令指定都市のさいたま市は区ごとに集計されているため、これを総計すると、さいたま市が7113件で1位、川口市は2位となる。なお、単位人口当たりの犯罪件数を示した犯罪率で見た場合、川口市は埼玉県の全63市町村のうち、2022年は15番目、2023年は16番目となっている(参照12)。

最新のデータを使わず

アサ芸プラスの記事には、古い統計の数値を用いたとみられる記述もある。

1点目は、「年間事件発生数は3800件超」という記述だ。前述のとおり、記事では、2022年の刑法犯認知件数を用いたとみられる。しかし、埼玉県警察は、すでに2023年の刑法犯認知件数の確定値(約4400件)を公表している。この統計資料は、アサ芸プラスの記事が公開された2024年10月1日より前の2024年3月4日までに公表されていたことが、ページの更新日から分かる。

2点目は、「在日外国人の割合が約9.0%の蕨市」という記述だ。蕨市の統計資料によると、2024年の外国人比率は11.2~12.2%である。在日外国人の割合が約9.0%になるのは、直近で2019年となる。

3点目は、「(川口市の)在日外国人の割合は市人口の7.3%を占める」という記述だ。川口市のウェブサイトを見ると、確かに「川口市の外国人住民は、現在約4万人と市人口の約7.3%を占めています」との記述がある。ただし、このページの更新日は2024年5月30日となっている。統計資料と照らし合わせると、アサ芸プラスの記事が公開された時点での最新値とみられる令和6年9月1日の在日外国人の割合は、約7.6%(46442÷607776×100≒7.6)となる。

無関係の画像を使用

アサ芸プラスの記事は、埼玉県に関する内容にもかかわらず、愛媛県の画像を使っている。記事で使われている画像は、「ぱくたそ」という商用フリーの写真素材サービスに掲載されているものだ。

「アサ芸プラス」の画像(左)と「ぱくたそ」の画像(右)

この画像には、投稿者によって「愛媛県」のタグが付けられている。また、Googleマップのストリートビューを見ると、この画像は愛媛県松山市の道後温泉駅付近の風景と一致することが分かる。

「ぱくたそ」の画像(上)とGoogleストリートビューのキャプチャ画像(下)。赤枠で囲った庇(ひさし)、看板の文字、照明の形が一致

取材に回答なし

リトマスは、アサ芸プラス編集部に以下の8点を質問した。

1. 川口市の「在日外国人の割合は市人口の7.3%を占める」という記述の根拠
2. 「川口市では毎月1000人ずつ人口が減り続けている」という記述の根拠
3. 「埼玉県で住みたくない街」というアンケートの実施主体や調査時期
4. 「治安悪化により、川口市から逃げ出す世帯が相次いでいる」という記述の根拠
5. 川口市の「年間事件発生数は3800件超と、県内ワースト1位」という記述の根拠
6. 治安悪化の指標として、犯罪率ではなく年間事件発生数を使用した理由
7. 「在日外国人の割合が約9.0%の蕨市」という記述の根拠
8. 「愛媛県」のタグが付いた画像を埼玉県の記事に使った理由

しかし、リトマスが設定した期限までに回答は得られなかった。

「川口市では毎月1000人ずつ人口が減り続けている」は誤り

アサ芸プラスの記事は、「川口市では毎月1000人ずつ人口が減り続けている」と主張している。しかし、川口市が公表している統計資料を見る限りそのような事実はなく、川口市も否定している。よって、この主張を「誤り」とする。

なお、この件については電脳藻屑氏によるブログ記事でも検証されている。

(小嶋裕一、大谷友也)

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