検証対象

私はこの張り紙を見ると心が痛いけどね。スッキリなんてしない。 アイリッシュ、黒人、犬はお断り それを見つめるマルコムX
(※画像付き投稿。別のユーザーの画像付き投稿を引用)

一般ユーザーのX投稿(投稿日:2024年7月19日、2024年9月8日時点で約1100RP)

判定

誤り

判定の基準について

検証対象の画像は改変されたものである。改変前の画像には、「NO IRISH NO BLACKS NO DOGS.(アイルランド人お断り、黒人お断り、犬お断り)」ではなく、物件を販売する旨の「FOR SALE(販売中)」という張り紙が張られている。

ファクトチェック

検証対象の投稿の内容

検証対象の投稿は「NO IRISH NO BLACKS NO DOGS.」と書かれた張り紙を見る人物の画像に、「私はこの張り紙を見ると心が痛いけどね。スッキリなんてしない。アイリッシュ、黒人、犬はお断り それを見つめるマルコムX」という文章が添えられている。マルコムXとは、黒人解放運動に影響を与えたアメリカの黒人運動指導者である。

この投稿は、ある飲食店が投稿した写真を引用リポストする形で投稿された。その写真には、「中国人、韓国人お断り」と書かれた店の扉が写っている。この飲食店の投稿は約1万2000回リポストされており、SmartFLASHにも取り上げられるなど大きな注目を浴びていた。さらに国籍や人種を理由とした入店拒否は違法だとする弁護士の見解を弁護士JPニュースが伝えている。

類似する画像が存在

調査の結果、検証対象の画像と類似する画像が見つかった。TinEyeという類似画像検索サービスで検証対象の画像を検索すると、画像販売サービスのAlamy Stock Photoに検証対象の画像と似た画像が見つかった。また、同じく画像販売サービスのゲッティイメージズでも、「マルコムX」と検索すると同じ画像が見つかる。写真の寄稿者はいずれもイギリスのニュース出版社であるMirrorpix社となっている。

ゲッティイメージズの説明文によると、この画像は1965年2月12日にイギリスのスメスウィックにあるマーシャル通りで撮影されたマルコムXの写真である。同じ写真は、イギリスの国立図書館の記事にも掲載されている。記事によると、この時マルコムXは非白人の住宅所有を阻止する政策を視察するためにスメスウィックを訪れていた。また、この訪問の様子は映像にも残っている。

画像の相違点

Mirrorpix社の写真と検証対象の画像には、2つの違いがある。

Mirrorpix社の写真(左)と検証対象の画像(右)の比較画像
Mirrorpix社の写真(左)と検証対象の画像(右)

1つ目は画像の色だ。Mirrorpix社の写真は白黒である。一方、検証対象の画像はカラーになっている。

2つ目は張り紙の内容だ。ゲッティイメージズで「Marshall Street」と検索すると、エディトリアルの項目に、より見やすい角度で同じ張り紙を写したMirrorpix社の写真が見つかる。張り紙には、以下の様に書かれている。

FOR SALE
JONES, SON & VERNON
CHARTERED AUCTIONEERS AND ESTATE AGENTS
CAPE HILL SMETHWICK
CHURCH ST. OLDBURY
(筆者訳:
販売中
JONES, SON & VERNON
公認競売人および不動産仲介業者
スメスウィック、ケープヒル
オールドベリー、チャーチ通り)

つまり、Mirrorpix社の写真の張り紙に書かれている文字は、公認競売人および不動産仲介業者である「JONES, SON & VERNON」が、この物件を販売しているという意味である。一方、検証対象の画像では張り紙に書かれた文字が「NO IRISH NO BLACKS NO DOGS.」となっている。

張り紙の文字は別の写真と酷似

調査の結果、検証対象の画像にある張り紙の文字と酷似する文字が書かれた張り紙の写真が見つかった。検証対象の画像にある「NO IRISH NO BLACKS NO DOGS.」という文をGoogleで検索すると、この文が書かれた張り紙の写真に関する複数の記事が見つかる(参考123)。これらの記事のうち、ガーディアンの記事に掲載されている写真の文字は、検証対象の画像と同じ形をしている。記事によると、この写真はロンドン・メトロポリタン大学アイルランド研究センターが所蔵している。

ロンドン・メトロポリタン大学アイルランド研究センター所蔵の写真(左)と検証対象の画像(右)。いずれも一部拡大
ロンドン・メトロポリタン大学アイルランド研究センター所蔵の写真(左)と検証対象の画像(右)。いずれも一部拡大

つまり、検証対象の画像は同センターの写真の文字を合成した可能性がある。ただし、検証対象の画像から同センターの写真の文字が合成された可能性や、双方の写真の文字が別の画像から合成された可能性もある。

なお、同センターの写真の真実性についてはイギリス国内で論争となっている。上記のガーディアンの記事は、同センターの写真が展示会用に作成された可能性を指摘するジョン・ドレイパー氏の投書を掲載したものである。これに対し同センター所長のトニー・マレー博士は、同じくガーディアンへの投書で、写真の出所が「somewhat uncertain(やや不確か)」であることを認めつつ、同様の内容が書かれた張り紙の存在を裏付ける十分な証拠があると反論した。また、前述のアイリッシュ・タイムズの記事では、アイルランド人を排斥する内容の張り紙が1960年代に存在したとする複数の証言を紹介している。

海外でも拡散

2024年6月には、すでに検証対象と同様の画像が海外で広まっていた。Facta.newsロイター通信Logically Factsは、検証対象と同様の画像を改変されたものと報じている。いずれの記事でも、改変前の画像としてMirrorpix社の写真が示されている。

投稿は誤り

検証対象の画像はMirrorpix社が撮影したマルコムXの写真に着色し、張り紙の内容を改変したものである。ただし投稿者は改変されていると知らずに、すでに広まっていた画像を使い回した可能性もある。よって、検証対象の投稿を「誤り」と判定する。

なお、リトマスでは検証対象の投稿者に対し、画像の入手元や改変の認識の有無などを問い合わせている。しかし、リトマスが設定した期限までに回答はなかった。

(小嶋裕一、大谷友也)

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