検証対象

携帯電話契約時(対面の場合)の本人確認に当たって、マイナンバーカードに搭載されているICチップの読み取りが必須となる。

ニューズウィーク日本版記事「携帯契約での『読み取り義務化』は、マイナンバーカードの『基本概念』を根本的にひっくり返す悪手だ」(2024年7月4日)より

判定

不正確

判定の基準について

対面での携帯電話契約には、マイナンバーカードの他に運転免許証と在留許可証の利用が可能である。

ファクトチェック

検証対象の記事は経済評論家の加谷珪一氏による連載コラムで、携帯電話の対面での契約時にマイナンバーカード搭載のICチップ読み取りが必須になるとして、「政府による事実上のマイナンバーカード義務化」「任意取得という基本概念を根本的にひっくり返すもの」と批判する内容だ。

同じ内容のコラムは、紙面版のニューズウィーク日本版2024年7/9号にも「マイナ制度をゼロから見直す時」のタイトルで掲載されている。

政府はこれまで、マイナンバーカードの申請や取得はあくまで任意であり義務ではないと説明している(参照1(Q3-14)、2)。

本人確認方法を変更の方針

2024年6月18日、政府の犯罪対策閣僚会議は「国民を詐欺から守るための総合対策」を決定した。この中の「犯罪者のツールを奪う」ための対策の一つとして、以下のような携帯電話等契約時の本人確認強化策が記載されている。

ア 本人確認の実効性の確保に向けた取組
携帯電話や電話転送サービスの契約時の本人確認において、本人確認書類の券面の偽変造による不正契約が相次いでいることから、犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でもマイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認において義務付ける。また、そのために必要なICチップ読み取りアプリ等の開発を検討する。さらに、公的個人認証による本人確認を進める。

国民を詐欺から守るための総合対策」より抜粋(p.18~19、PDFページ番号20~21。注は省略)

このように、非対面(オンライン)で本人確認手続きをする場合はマイナンバーカードに「原則として一本化」するとある一方、対面(店頭窓口)の場合ではマイナンバーカード「等」のICチップ読み取りを義務付けるとされていて、マイナンバーカード以外のICチップ搭載身分証を使うことに含みを持たせているようにも読める。

デジタル庁の河野太郎大臣も、6月18日の記者会見において「対面においてマイナンバーカードなどを使う場合はICチップの読み取りの義務化をするということと致しました」と「など」を付けて発言していて、本人確認手法をマイナンバーカードに限定していない。

なお、6月21日のAERA dot.記事におけるデジタル庁への取材によれば、非対面での契約においても本人確認をマイナンバーに一本化することは考えられていないという。7月26日の続報でも、デジタル庁は前回の記事の一部内容を否定したが、非対面における一本化を考えていないという説明は維持している。

デジタル庁Xアカウントでの発信

6月20日、デジタル庁の公式Xアカウントは、携帯電話や銀行口座開設などの対面での本人確認について、「マイナンバーカードのICチップを読み取る方法に限られません。例えば、この方法には運転免許証や在留カードのICチップを読み取る方法も含まれています」と投稿した。マイナンバーカードを持っていなくても、ICチップが搭載された運転免許証または在留カードがあれば携帯電話の契約が可能ということになる。

ニューズウィークへの取材

以上のことについて、検証対象のコラム著者の加谷氏に対し本人公式サイトのウェブフォームを通じて質問したところ、ニューズウィーク日本版誌および加谷氏の認識として、7月12日に編集部名義での回答が得られた(質問と回答全文は後述)。

回答で編集部は、政府は公的な文書でマイナンバーカード以外の本人確認方法を明確にしていないとして、「『事実上のマイナンバー義務化』に等しいと考えます」としている。6月18日のITmedia NEWS記事においてデジタル庁が取材に「“等”の部分については現状では明文化されていないため、デジタル庁からは回答できない」と述べていることや、デジタル庁公式Xアカウントの投稿は「公文書ではなく、Xという一般企業が提供するSNSでの発信」であるとの認識などを基に、「『等』という責任逃れとも言える文言の有無をもってメディア側が『マイナンバーカードだけではないはず』と斟酌すべきではないと考えます」としている。

デジタル庁への取材

リトマスではその後デジタル庁に対しても取材を行い、7月18日に回答を得た(質問と回答全文は後述)。

デジタル庁は、対面契約での本人確認について、「例えば運転免許証、在留カードもご利用いただける方針で、各省庁で検討させていただいております」と回答。Xでの発信を公式の見解であるとしている。

非対面の場合については、「運転免許証、マイナンバーカード等の本人確認書類に組み込まれたICチップ情報の送信を受ける方法も認められていますが、当該方法については、偽変造された本人確認書類が用いられる可能性が低いことから、引き続き本人確認方法として認めることを各省庁で検討しております」としている。

以上のように、(情報発信のあり方が適当かは別問題として、)デジタル庁は対面の携帯電話契約において、マイナンバーカード以外にも運転免許証や在留カードを利用できる方針とすることを公式見解としている。

ただし、運転免許証・在留カードは共に所有していない人も多く、簡単に取得できるものでもない。これらを持たない人はマイナンバーカードを利用せざるを得ないとも言え、事実上「必須」と見なすことも完全に否定できない。政府の方針がどの程度実現されるかは現時点で不明であることも踏まえ、検証対象の記事の対面契約でマイナンバーカードのICチップ読み取りが「必須」になるという記述は、事実に即した部分とそうでない部分が混じる「不正確」と判定する。

偽造マイナンバーカードによる事件

政府が携帯電話契約時の本人確認厳格化を掲げた背景には、偽造されたマイナンバーカードを使って他人名義の携帯電話が契約される事件が相次いだことがある(参照)。これまでも本人確認の際身分証の確認は行われていたが、対面契約の場合は目視のみ確認に留まることもあり、今回の対策で偽造の難しいICチップ読み取りが徹底されることになる。

取材回答全文

以下にそれぞれリトマスの質問と、ニューズウィーク日本版編集部およびデジタル庁からの回答を全文掲載する。

リトマス質問:
6月18日のデジタル庁の発表(https://www.digital.go.jp/news/f50e8113-9efb-408e-b759-75e337797c66)によりますと、非対面の本人確認はマイナンバーカードに原則一本化するとあるのに対し、対面では「マイナンバーカード等」となっています。また、6月20日の同庁X(旧ツイッター)での発信(https://x.com/digital_jpn/status/1803644520963424689)では、運転免許証や在留カードも使用可能とされています。
以上の情報は加谷様のコラムの「マイナンバーカードに搭載されているICチップ読み取りが必須」との内容と相違があります。これについていかがお考えでしょうか。

ニューズウィーク日本版編集部回答:
1.政府は公的な文書において、そもそも対面での携帯電話契約における本人確認にマイナンバーカード以外の何が使えるのか明確にしてして(※引用注:原文ママ)いないので「事実上のマイナンバー義務化」に等しいと考えます。
2.6月18日にデジタル庁は対面での本人確認においてマイナンバーカード以外でIC読み取りに対応する身分証(つまり「等」にあたる存在)について、メディアに「“等”の部分については現状では明文化されていないため、デジタル庁からは回答できない」と回答しています。
https://news.goo.ne.jp/article/itmedia_news/trend/itmedia_news-20240618_137.html
3.その後、多くのメディアが「マイナンバー義務化」と報じたのを受けて6月20日にXで「例えば、この方法には運転免許証や在留カードのICチップを読み取る方法も含まれます」と発信したと認識しております。ただしこれは公文書ではなく、Xという一般企業が提供するSNSでの発信であり、政府からはいまだ正式な説明が行われておらず、「等」の具体的な内容(マイナンバーカード以外の何が正式に該当するのか)は明確にされていないと考えます。
4.6月18日のデジタル庁の発表において、具体例が示されない中で「等」という言葉が用いられていますが、上記のメディアへの返答にもあるように具体例は想定されておらず、そうであれば「等」の記述は批判が出た場合に備えて付けているだけのものと考えます。またこの場合、「マイナンバーカード」を指す一意的なものと解釈するのが妥当と考えます。以上の理由から筆者の記述に事実関係との相違があるとは考えておらず、政府が公式に表明すべきである「マイナンバーカード以外に本人確認として使えるもの」について、「等」という責任逃れとも言える文言の有無をもってメディア側が「マイナンバーカードだけではないはず」と斟酌すべきではないと考えます。

リトマス質問:
1) デジタル庁の発表(https://www.digital.go.jp/news/f50e8113-9efb-408e-b759-75e337797c66)によると対面の場合「マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りを義務付ける」とあります。マイナンバーカード以外も使えるということでしょうか。
2) デジタル庁のX公式アカウントで対面時に運転免許証や在留カードが使えると書いています(https://x.com/digital_jpn/status/1802909593452069231)がこれは公式の見解でしょうか。
3) 使える証明書について具体的にこれまでHPや会見などで公式に発信したことはありますか、あるいはこれからする予定はありますでしょうか。
4) 非対面でもマイナンバーカードの一本化を考えていないという一部報道(例:https://dot.asahi.com/articles/-/225839?page=4)がありますが事実でしょうか、事実の場合具体的には何が使えるのでしょうか。

デジタル庁回答:
1)→マイナンバーカードをお持ちいただいてない場合でも、ICチップ付きの本人確認書類として、例えば運転免許証、在留カードもご利用いただける方針で、各省庁で検討させていただいております。
なお、ICチップ付きの本人確認書類を保有していない場合の本人確認方法については、現在各省庁で検討しております。
2)→ご認識のとおりでございます。
3)→デジタル庁Xでは、2024年6月20日で以下のとおり、ご利用いただける本人確認書類について発信しております。
「携帯電話契約や銀行口座開設などを対面で行う際、本人確認書類のICチップを読み取る方法を義務化する方針が位置づけられましたが、本人確認の方法はマイナンバーカードのICチップを読み取る方法に限られません。例えば、この方法には運転免許証や在留カードのICチップを読み取る方法も含まれています。」
4)→犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等の画像を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等による本人確認手法は廃止することを各省庁で検討しております。
この点、上記以外の非対面の本人確認方法として、運転免許証、マイナンバーカード等の本人確認書類に組み込まれたICチップ情報の送信を受ける方法も認められていますが、当該方法については、偽変造された本人確認書類が用いられる可能性が低いことから、引き続き本人確認方法として認めることを各省庁で検討しております。
また、ICチップ付きの本人確認書類を保有していない場合の本人確認方法については、現在各省庁で検討しております。

(高倉佳子、大谷友也)

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