検証対象
【悲報】世界的なシステム障害を起こした張本人、出社初日にクビになる クラウドストライク初出社、軽めのアップデート作業したら午後休取る✌️ ↓ 世界各地で障害発生 ↓ クビになった、納得いかない
一般ユーザーのX投稿(2024年7月20日、約3400リポスト)
(※画像付き投稿。海外ユーザーの投稿を引用)
判定
添付された画像は「システム障害を起こした張本人」による投稿ではなく、無関係の人物である。
ファクトチェック
2024年7月19日、アメリカのセキュリティー企業クラウドストライクのソフトウェア不具合により、世界で大規模なコンピューターシステム障害が発生した(参照)。検証対象の投稿では、ある海外ユーザーの投稿を引用し、このユーザーがシステム障害の原因となる行動をした「張本人」だと述べている。
入社初日のアップデートで解雇?
引用された投稿の主はヴァンサン・フリビュスティエ(Vincent Flibustier)氏。フリビュスティエ氏はシステム障害の発生当日である19日に、「クラウドストライク初日、ちょっとしたアップデートをして午後は休み(First day at Crowdstrike, pushed a little update and taking the afternoon off ✌️)」と投稿し、クラウドストライクのオフィスらしき場所で自撮りをしているような画像を添付している。この投稿は世界中で拡散され、引用リポストも含め現在までに約4万リポストを獲得している。
その数時間後、「解雇された。全くアンフェアだ(Fired. Totally unfair.)」という投稿や、英語で経緯を説明するような動画などが投稿された。
種明かしの投稿
しかし、一連の投稿の後、フリビュスティエ氏はこれらが事実でないことを自ら明らかにしている。20日の投稿やその添付動画では、自撮り画像をフォトショップや生成AIを使って偽造したことや、動画はフランス語で喋ったものを生成AIで英語に変換していることなどを明かし、彼の投稿に多くの人が騙されたことについて、「私たちは何かを信じたいと強く思う時、批判的思考は全て消えてしまう(When we really want to believe in something, a whole lot of our critical thinking disappears)」といった教訓も述べている。
多くの不自然な点
フリビュスティエ氏が自ら解説しているように、この自撮り画像にはいくつか不自然な点がある。顔の周りの境い目は輪郭線のようにくっきりしているし、額の上には角のように浮き出た部分がある。Vサインをした右手は顔や体に比べて極端に小さく、これは生成AIを使って元画像を加工したためだとフリビュスティエ氏は説明している。
また、背景には他に人や物が全く見当たらず、稼働中のオフィスの状況としてやや不自然だが、これはオフィスデザインなどを手掛ける企業Facilitateのサイトに施工例として掲載された画像が使われている。
そもそも、問題の投稿は19日の午後6時半過ぎ(日本時間)に行われており、午後1時過ぎ(参照)に発生したシステム障害からかなりの時間が経っている。クラウドストライクのソフトウェアが原因の可能性も既に疑われていた状況であって、これに乗じた「釣り」投稿を疑う余地は十分にあったと言える。
投稿者は「フェイクニュースが専門」
それでは、このフリビュスティエ氏とは何者なのか。彼のXアカウントのプロフィール欄には「デジタルシティズンシップと批判的思考のトレーナー兼教師、フェイクニュースとソーシャルネットワーク、OSINT、AIが専門。デジタルコンサルタント(Trainer and Teacher in digital citizenship, critical thinking, specialized in Fake News and social networks, OSINT, AI 🤖. Digital consultant)」と書かれ、リンクされたHP(フランス語)には、以下のようなプロフィールが掲載されている。
Je donne depuis 2016 des conférences/animations/formations sur les fake news, la vérification d’informations sur internet, les arnaques du web… Le sujet me passionne depuis la création en 2014 du site parodique Nordpresse.
(※筆者訳:2016年以来、私はフェイクニュース、インターネット上の情報の検証、ウェブ詐欺などに関するカンファレンス、啓発活動、研修を行っています。2014年にパロディサイトNordpresseを創設して以来、このテーマに興味を持っています。)
Nordpresseは風刺や啓蒙のためとして架空のニュース記事を配信する「パロディサイト」を標榜しているが、記事が架空であることを明示せず多くの読者を誤解させているため、収益目的で偽ニュースを流布しているに過ぎないといった批判もある(参照1、2)。その名称(「北方通信」の意味)はベルギーのメディアSudpresse(「南方通信」の意味。現Sudinfo)のパロディだが、パロディ元のSudpresseからは中傷的な記事などを巡り2度告訴され敗訴している(参照1、2)。なお、「フリビュスティエ(Flibustier)」というのはフランス語で「海賊」や「詐欺師」などを意味するペンネームだ。
いずれにしても、フリビュスティエ氏はシステム障害を引き起こしたクラウドストライクの社員ではなく、検証対象の投稿は「誤り」である。
なお、アメリカのTV局KHOUは、フリビュスティエ氏の投稿へのファクトチェックと、本人へのインタビューを行っている。
(景山千愛、大谷友也)