検証対象
そんなに金があるのなら、まずは能登を何とかして下さい
一般ユーザーのX投稿(2024年6月4日、約9600リポスト)
「クールジャパン再起動」 政府、5年ぶり改定20兆円規模へ | 毎日新聞
(※毎日新聞記事へのリンクを添付)
判定

「20兆円」はクールジャパン戦略が目指す日本発コンテンツの海外市場規模の目標値であり、予算額ではない。
ファクトチェック
「クールジャパン戦略」とは、日本のブランド力を高め、日本ファンの外国人を増やすという、政府の進めるソフトパワー強化政策だ。しかし、このクールジャパン戦略の担い手として設立された官民ファンド・海外需要開拓支援機構(通称「クールジャパン機構」)の累積赤字が問題視されたことから、2024年からは従来の戦略を見直す、新たなクールジャパン戦略が策定されていた。
検証対象の投稿では、このクールジャパン戦略の5年ぶりの改定について述べた毎日新聞の記事を基に、「そんなに金があるのなら、まずは能登を何とかして下さい」と、能登半島地震被災地の復興と関連付けるコメントがされている。投稿者の意図はこの投稿単独では分からないが、記事見出しにある「20兆円」という金額がこのクールジャパン事業に使われると理解しているように見える。
「20兆円」は海外市場規模の目標値
2024年6月4日、改定された新たなクールジャパン戦略が発表された。首相官邸ホームページに掲載された、知的財産戦略本部による「新たなクールジャパン戦略」では、クールジャパンを取り巻く状況の分析やこれまでの戦略の振り返り、新しい戦略の具体的な取り組みなどについて述べられている。この中で「20兆円」という金額が出てくるのは政府目標について書かれた部分で、「日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定する」(p.26、PDFページ番号29)と記載されている。

つまり、「20兆円」というのはクールジャパン戦略が支援する日本のコンテンツ産業の成長目標値であり、クールジャパン事業に国が費やす金額ではない。この事は、元の毎日新聞記事にも「コンテンツ産業の海外展開規模を2033年までに現在の4倍以上の20兆円に引き上げる野心的な目標を掲げた」として明記されている。
なお、この「新たなクールジャパン戦略」には、今後のクールジャパン事業の具体的な予算額は書かれていない。
2024年度のクールジャパン予算額は299億円
クールジャパン関連予算の詳細は、内閣府によって公開されている。これによると、2024年度(令和6年度)のクールジャパン関連予算(当初予算)は一般会計・特別会計合わせて299億円であり、主な内容として観光インバウンドのための環境整備(81億円)などが記載されている。
この他に、クールジャパン関連予算には含まれないものの、別事業の名目の下でクールジャパン戦略に関連する施策も行われている(資料右半分)。これらの施策の予算は、「内数」と記されているとおり合計1027億円の内の一部のみが該当し、正確な金額は明示されていない。

「内数」を無視してこの1027億円を本来の予算299億円に合計したとしても、2024年度当初のクールジャパン戦略に関連する事業・施策の予算は合わせて約1300億円であり、「20兆円」には届かない。20兆円は2024年度の国の予算案(112兆717億円)の17.8%に相当し、地方交付税交付金等(約17.8兆円)、防衛関連費(約7.9兆円)、公共事業関連費(約6兆円)などを上回る非現実的な金額だ。
以上のように、20兆円というのはクールジャパン戦略が目指す日本のコンテンツの海外市場規模の目標値であり、国がクールジャパン事業に使う金額ではない。投稿者は後に「20兆円規模にする為に一体いくら公金溶かしちゃう気なんでしょうかね」とも投稿しているため、正しい理解はしているようだが、「そんなに金があるのなら」とした当初の投稿は「ミスリード」と判定する。
(景山千愛、大谷友也)