検証対象

山梨県知事正気か⁉️ ベトナム人労働者の家族にも皆さんが支払いしてる国民健康保険より医療費を支払うシステムが6月1日より実施! ベトナムで治療を受けても適用される! ベトナム住んでる人の為に国民健康保険料を頑張って納めましょうって事や‼️ #日本列島100万人プロジェクト
(※動画付き投稿)

一般ユーザーのX投稿(2024年5月17日、約5300リポスト)

判定

誤り

判定の基準について

今回山梨県で導入された母国家族の医療費が1割負担になる保険制度は、ベトナム現地企業の民間保険商品を利用するものであり、国民健康保険などの公的医療保険制度とは異なる。公的医療保険における外国人労働者の負担率は日本人と同じく原則3割で、母国の家族は対象外である。

ファクトチェック

検証対象の投稿では、山梨放送のWeb版であるYBS NEWS NNN の記事「ベトナム人労働者の医療保険 母国の家族にも適用へ 県が6月から導入 山梨県」から動画をスクリーン録画で転載しつつ、山梨県で「ベトナム人労働者の家族にも皆さんが支払いしてる国民健康保険より医療費を支払うシステム」が始まると述べている。

Xでは他にも、制度によるベトナム人家族の実質負担「1割」を、「日本人3割負担」と比較して批判する投稿が多数拡散されている。「3割」とは、国民健康保険を含む公的医療保険制度における原則的な自己負担の割合(小学校入学後~69歳)を指していると思われる。

「日本人3割負担」に言及する投稿。それぞれ2500リポストと2800リポストを獲得している

現地企業による民間の保険商品

山梨県の発表によると、この制度は、県内で働くベトナム人労働者の母国在住家族が現地の病院で治療を受けた時に、保険会社からの保険金により、自己負担が実質1割になるというもの。

ベトナム人労働者は、東京海上日動火災保険の現地法人である東京海上ベトナム(Tokio Marine Insurance Vietnam)の保険に加入することで、母国の家族に保険金が支払われる(下図左側)。保険加入にかかる保険料は、4分の3以上を雇用企業からベトナム人労働者に助成し、さらに山梨県が企業助成分の2分の1を補助する(下図右側)。

山梨県ホームページ「外国人労働者家族向け医療傷害保険制度」より

つまり、今回山梨県が導入する制度はあくまで民間の保険商品を使うものであり、国民健康保険(国保)とは関係が無い。国保は公的医療保険制度の一つで、自営業、非正規雇用、無職などの人が加入するものである。なお、外国人も含め正規雇用の労働者などが加入するのは被用者保険(会社の健康保険)であって国保ではないが、こちらも今回の制度とは別物である。

県は制度について、「ベトナム在住の御家族が病院に掛かった場合、医療費を全額支払った後、保険会社に申請することで約9割に相当する保険金が支払われるものであり、山梨県がベトナム人家族の医療費を負担することはありません」と説明している

母国家族が受け取る保険金を直接負担するのが東京海上ベトナムだとはいえ、その原資であるベトナム人労働者が払う保険料は、雇用企業を通じて間接的に県が一部を補助している。こうしたことを考慮すれば、県が家族の医療費を負担することは無いという上記の説明が完全に正しいとも言い難い。しかしながら、検証対象の投稿のように、国保などの公的医療保険が使われるという理解は誤りだ。

公的医療保険では3割負担、母国家族は対象外

日本に一定期間以上在留する人は外国人であっても公的医療保険制度の対象となり、被用者保険(参照12)や国保、後期高齢者医療制度に加入することになる。出入国在留管理庁による外国人向けの案内である「生活・就労ガイドブック」にも記載されているように、自己負担割合は日本人と同じ基準で、3割(小学校入学後~69歳の場合)が原則となっている。

出入国在留管理庁「生活・就労ガイドブック」第6章p.62(PDF上のページ番号3)より、被用者保険の自己負担割合

扶養家族を被用者保険に入れることができる(参照)のも日本人と同じ扱いだが、2020年4月以降、日本人労働者・外国人労働者を問わず、扶養家族にできるのは日本国内に住所(住民票)がある人のみとなった。このため、いくつかの特例要件(日本国外に一時的に留学しているなど)に当てはまる場合を除けば、海外に住む家族は扶養の対象外である(参照12)。

まとめ

今回山梨県が導入する制度はベトナムの現地法人による保険商品を使うものであり、国保などの公的医療保険制度とは別物である。公的医療制度においてはベトナム人を含む外国人も日本人と同じ負担率であり、日本国外に住む家族については基本的に適用外となっている。

検証対象の投稿は、民間の保険商品と、公的医療保険である国保という異なる制度を混同したものであり、「誤り」と判定する。

誤解による県への抗議も

産経新聞山梨日日新聞の報道によれば、今回の制度に関し県には多くの抗議が寄せられているという。両紙は制度に対しSNSを中心に批判が広がったとし、国保との混同による誤解や、外国人への差別感情が背景にあると論じている。

(景山千愛、大谷友也)

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