検証対象

学生「就職氷河期っていつですか?」 JR西「ああ、そんなの見ればわかるよ」
(※画像付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2023年4月18日、約3100RT)

判定

ミスリード

判定の基準について

このグラフは2014年のデータで、社員数の少ない年代は実際には就職氷河期世代とは一致していない。年齢構成の偏りは国鉄民営化前後に新規採用の停止期間があったのが理由で、JR西日本は就職氷河期にむしろ採用を拡大している。

ファクトチェック

「JR西の社員年齢構成」と題されたこのグラフによれば、JR西日本(西日本旅客鉄道)の社員数は「40~44歳」が860人、「45~49歳」が710人と特に少ないのに対し、「50~54歳」は6270人、「55歳以上」は6560人と、年代によって極端な差がある。

就職氷河期とは、バブル崩壊やその後の経済不安により企業が新規採用を抑制していた1993~2004年頃の時代を指し、この時代に就職活動を行っていた世代は「就職氷河期世代」あるいは「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれる。就職氷河期世代は生まれ年で言えば1970年代~1980年代前半あたり、2023年現在では概ね40代前半~50代前半に相当する。グラフで社員数が少ない年代とは、確かに一見すると一致しているように見える。

データは9年前

しかし、このグラフと就職氷河期を関連付けるのには実は大きな問題がある。このグラフは2014年4月、今から9年も前のデータなのだ。

出典はJR西日本が毎年発行している冊子『データで見るJR西日本』の2014年版で、Web上でも見ることができる

データで見るJR西日本2014』(西日本旅客鉄道株式会社広報部、2014年)p.163(PDFページ番号84)より、社員年齢構成のグラフ

これを基にしたグラフが2015年4月の産経新聞記事に掲載されていて(現在画像はリンク切れ)、ツイートの画像はそれを転載したもののようだ。

上のグラフで人数の谷間となっている「40~44歳」「45~49歳」の人たちは、9年後の現在ではほぼ50代にあたり、就職氷河期世代よりもやや年上だ。いわゆる就職氷河期世代に最も当てはまる「30~34歳」から「40~44歳」のあたりの人数は、谷間とはあまり一致していない。

このように、社員年齢構成の偏りを就職氷河期だけで説明するのは無理があると言えるだろう。

国鉄民営化前後に採用を停止

特定の年代の社員が極端に少ない理由は、上述の産経記事で「昭和62年の国鉄分割民営化前後に採用を抑制したのが原因だ」と説明されている。

JR西日本の前身である日本国有鉄道(国鉄)は1983年、経営再建に向けた改革の一環として、既存人員の削減に加え新規採用を停止した(昭和58年度運輸白書)。国鉄の分割民営化によって1987年(昭和62年)4月にJR西日本が設立されると、翌1988年に大卒社員の新規採用が再開。高卒新規採用はさらに遅れて1993年から再開し、その後の新規採用者の大部分を占めるようになっている。

前掲書p.164(PDFページ番号85)より、新規採用者数の推移グラフ(部分抜粋)。1988(昭和63)年からの紺色の棒が大卒、1993(平成5)年からの水色の棒が高卒の新規採用者数

採用停止期間の1983~1992年に高校新卒(18歳)だった世代は2014年には40~49歳で、社員年齢構成グラフの谷間とちょうど一致している。

一方で、大学新卒(22歳)で1983~1987年の採用停止に重なる世代は2014年の49~53歳に相当するが、元々採用のメインは高卒であるため、社員数への影響は少なかったようだ。

氷河期のJR西日本の採用は

また、年ごとの新規採用者数のグラフ(上掲)を見ると、いわゆる「就職氷河期」にあたる1993~2004年頃、JR西日本では大卒の採用者数は減少か横ばいである一方で、高卒を中心に全体の採用数はむしろ概ね増加傾向にあることも分かる。

以上のように、JR西日本の社員年齢構成の偏りは就職氷河期とは関連が薄く、両者を関連付けた検証対象のツイートは「ミスリード」である。

(大谷友也)

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