検証対象

【スイス🇨🇭恐怖政治はじまる】 スイス🇨🇭は自宅を19度以上に温めることを禁止🚫 違反者は最大50万ユーロの罰金または3年の懲役刑を計画中とか。 これに伴う密告制度─ 「お隣さんが19度以上にしていたら通報してくださいね☝️😊」
(※画像付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年9月10日、約1100RT)

判定

不正確

判定の基準について

今後天然ガスの受給が逼迫した場合にありえる対策として、一般住宅の暖房制限を含む規制案が検討され、法律上罰金や懲役が可能なのは事実。しかし、添付された画像は合成で作られたものであり、密告制度は実在しない。

ファクトチェック

欧州へのロシアからの天然ガスの供給が停止・削減される中、今冬の天然ガスの確保のため各国は対応に追われている。

検証対象のツイートでは、公共のスペースに設置されているように見えるポスターの画像を提示して、スイスで「自宅を19度以上に温めることを禁止」する規制が罰金や懲役を含め計画されていると主張している。

ポスターは合成

画像は駅の構内と思われる場所に貼られたポスターが写っていて、ポスターは女性が電話をかけている姿と、左上にはスイス政府を表すロゴと表記がある。下には実在するスイスの省庁の電話番号とともに以下のように書かれている。

HEIZT DER NACHBAR DIE WOHNUNG ÜBER 19 GRAD AUF?
BITTE INFORMIEREN SIE UNS.
(電話番号)
ANONYM         200FRANKEN BELOHNUNG

訳:お隣さんがアパートを19度を超えて暖めていますか?
私達に知らせてください。
(電話番号)
匿名                200フランの報酬

この画像を検索すると、中央のポスター部分が空白になったモックアップ用の画像が画像素材サイトのFreepikAdobe Stockにあることから、これを元に合成されたものと考えられる。

Adobe Stockのスクリーンショット

電話をかけている女性の画像も検索サイトTinEyeで検索すると複数の画像素材サイト(例123)にあることがわかる。

TinEye検索結果のスクリーンショット

ポスターを当局が否定

スイス連邦環境・運輸・エネルギー・通信省のホームページでは”Falschmeldung”「虚偽」というタイトルで注意喚起する文章を載せている。この画像でスイス連邦の電話番号とロゴが悪用されている他、連邦が密告を推奨するポスターも対応する電話も存在せず、改ざんされたケースであるとして調査を開始したとしている。

住宅の暖房を規制する計画

一方、スイスでは天然ガスが不足した場合の規制についての計画が実際にあり、9月22日まで利害関係者からの意見を求めている。規制計画はガスの不足度合いに応じ4段階に分かれている。深刻なガス不足が解消されない場合、第3段階で行われる可能性があるのが、一般家庭の住宅の暖房温度を19度以下とする規制だ。

Faktenblatt(ファクトシート)によると、それぞれは以下のようになっている。
第1段階:ガスの節約を要請
第2段階:2種類の燃料を使っている事業所はガスから油へ切り替え
第3段階:状況に応じて公共の建物やオフィス、次に一般家庭の暖房温度の規制
第4段階:工場の消費量削減、保護の対象となる顧客を除くすべての消費者が影響を受ける

罰金と懲役

ツイートにある「違反者は最大50万ユーロの罰金または3年の懲役を計画中とか。」については実際にはどうだろうか。罰金と懲役については、スイスの日刊紙Blickの報道を元に他国のメディアが報じた内容が元とみられる。Blickの報道では連邦経済省のマルクス・シュペルンドリ広報官の話として、国家経済供給法の違反に対する罰金は通常、「1日あたり最低30フラン、最高3,000フラン」としている。3,000フランはツイートの時点での為替レートでは3,093ユーロで、「50万ユーロ」は違反を半年弱続けた場合の最高額ということになるが、ツイート投稿者がこの数字を「最大」としてあげた理由は定かではない。

スイス公共放送協会が運営するswissinfo.chの取材に対しシュペルンドリ広報官は、計画が正式決定した場合、理論的には罰金や懲役刑が科される可能性はあるが、現実的ではないという考えを示している。

以上から画像のポスターはスイス政府の呼びかけているものではなく、合成されているもので、かつ、密告制度は存在しない。罰金と懲役刑は現実的ではないとされているが、法的には可能であることから「不正確」と判定する。

この情報については先に挙げたswissinfo.chの他、watsonLead Storiesがファクトチェックを行っている。

(高倉佳子、大谷友也)

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